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アカシックが2ndアルバムで確立した、バンドの個性と通底するポップセンス 「メロディは大衆向きに作ってる」

2017年10月17日 18:03  リアルサウンド

リアルサウンド

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 アカシックの2ndフルアルバムのタイトルは『エロティシズム』。どんな音なのだろうかと聴いてみると、冒頭から「憂い切る身」の激しさに驚くことになった。さらに、ディスコの要素まであるなど、サウンド面で新機軸に挑戦した作品となっている。


 「愛×Happy×クレイジー」がドラマ『ラブホの上野さん』(フジテレビ系)、「マイラグジュアリーナイト」が『ラブホの上野さん season2』(同)の主題歌となり、知名度を上げてきたアカシック。彼らにとって、ポップであることと、最新作『エロティシズム』との関係性はどんなものなのだろうか? そして、アカシックのふたりのソングライター、奥脇達也(Gt)と理姫(Vo)の関係性はどんなものなのだろうか?


 このインタビューの途中では、『エロティシズム』の制作にあたって、アカシックが「ポップ」を志向していなかったという意外な事実も明らかになる。それなのに、ポップな楽曲も生み出し続けるアカシック。では、アカシックはどこへ向かっているのだろうか?


 アカシックの理姫、奥脇達也、バンビ(Ba)、山田康二郎(Dr)に話を聞いた。(宗像明将)【※インタビュー最後にチェキプレゼントあり】


■「今ある全部に影響された平成の28歳なら、こういう歌詞を書く」(理姫)


ーーアルバムタイトル曲「エロティシズム 」は刺激的なタイトルですが、アルバムのテーマとはどう関係しているのでしょうか?


理姫:曲ができたとき、アルバムタイトルがまだ未定で、最後の曲がアルバムの雰囲気を表してるかなと、そのままアルバムタイトルにしました。


奥脇:バチコンだね。それでフィットした。


バンビ:すぐに「それでいきましょう」となりました。


奥脇:「アウトロが長くなる症候群」で、アウトロを長くする癖がありまして(笑)。けっこう前に書いてアレンジもしなかった曲をメンバーに送って、やってみたらかっこよくて。この曲はアウトロが長いんです、3分半ぐらい(笑)。


バンビ:アルバムのエンドロールみたいでいいかなと思って。YouTubeでアルバムのトレイラー映像を公開してるんですけど、最後の「エロティシズム」はアウトロだけで(笑)。


奥脇:「アウトロだけ聞いてください」ぐらいで(笑)。アウトロも8小節から16小節で転調してて、3分半で5、6回転調してます(笑)。


バンビ:転調も癖だからね(笑)。


奥脇:そうだね(笑)。


ーー冒頭の「憂い切る身」での生々しく狂おしい歌詞とこれまで以上にダイナミックなバンドサウンドには、冒頭から軽いショックを受けました。意識的なものでしょうか?


奥脇:意識しましたね。ミックスの段階で音圧がパツパツになっていて、最後のマスタリングで一番音を大きくしてもらって。ポップスにはダイナミクスが必要で、波形の凹凸がないといけないとされているけど、あえてそうしました。普通は再生するとメーターが揺れるけど、「憂い切る身」は動かないんですよ、振り切れっぱなしで。「ダイナミクスなんていいや、振り切ろう」と。


ーーその「憂い切る身」をなぜ1曲目にしたのでしょうか?


奥脇:「エンジェルシンク」を1曲目にしようとしたけど、会議をしてイントロがキャッチーな「憂い切る身」にしたんです。


理姫:スタッフとの会議で気づけたんですよ。


奥脇:僕たち頭でっかちなんで、自分たちだけで考えていると危険でもあるんですよね。


理姫:危険!


奥脇:4人で考えたことを違うところで話すと、「マジ!?」って言われるときもあるし。今回もそういうところが多かったです。


ーー理姫さんは作詞家としての自分はどんな作家だと考えていますか? 「憂い切る身」はタイトルからして最高だし、今回も素晴らしい歌詞ばかりだと感じました。


理姫:イェーイ、嬉しいです! 自分のことは作詞家とも思ってないですけど、どういう作詞家なのかな?


山田:独特だな、メンバーから見ても。


理姫:いろんなものから影響を受けきった最終点なんですよ。昭和歌謡から平成のJ-POP、女の子が好きなカルチャーの漫画や小説、今ある全部に影響された平成の28歳なら、こういう歌詞を書くんじゃないですかね? 空想が広がりすぎて妄想してるのかな?


奥脇:理姫の歌詞を見て「この言葉だよ!」と納得できますね。僕は「好き好き愛してる」とかしか書けない(笑)。情景描写や表現に気づかされますね。「憂い切る身」は一番好きかも。


理姫:この歌詞の意味わかる?


ーー理姫さんからメンバーに歌詞の意味は伝えるんですか?


理姫:歌詞は教えるけど、意味は言わないですね。


奥脇:説明する会を開いて(笑)。


理姫:やだー、そういうの苦手! 今みたいに「どのような作詞家なのか」という質問は初めてだから、気づかされて良かったです。


奥脇:すぐ気づかされる人達だから(笑)。


■「メンバーの意思の疎通具合がアルバムに反映されてる」(奥脇)


ーーバンドに奥脇さん、理姫さんとソングライターがふたりいることで刺激しあう部分はあるでしょうか?


奥脇:理姫は何も考えてないけど(笑)。メロディを作る作業は、何がキャッチーで、何が伝わりやすいかが違っていて、理姫の詞の乗せ方は勉強になりますね。「いちかばちかちゃん」でも「そういう詞をつけてくるんだ?」と驚きました。イメージした母音とは違ってくるんですよね。面白いですね。


理姫:私はソングライティングということをしているわけではないので、ソングライティングはわからないんです。歌詞を書くことはプライドを持ってやってますけど、あとは他のメンバーに任せてますね(笑)。


ーー理姫さんも作曲にクレジットされてますよね?


理姫:作曲は「作曲まがい」のことですよね。この人(奥脇)が作った音を、私は「こっちのほうがいい」と変えるだけなんで、ソングライティングとは違うなって考えてます。でも、クレジットには作った人の名前が載るという法律上の問題で、ソングライティングに片足を突っ込んでることになっているんです。


ーーそこまで明言されるとすがすがしいですね……! メンバーから見た作家としての奥脇さん、理姫さんについて聞かせてください。


バンビ:達也とは10年ぐらい一緒にやってるけど、いろんな曲を書けるんですよ。アカシックらしさも出るし、ジャンルにとらわれないなと思います。


奥脇:照れますね! メンバーにほめられないから。


バンビ:理姫はちゃんと理姫らしい核は残しつつ変化を見せられるのはすごいですね。


山田:「達也の曲はメロディとか展開しすぎで高度すぎだ」と言いながらドラムを叩いてます。理姫の歌詞って、コーラスで歌うと、思いもしない歌詞の乗せ方をメロディにしていて、すごいな、楽しいな、かっこいいなと思いながら叩いてます。コーラスしながら「よくこれを理姫ちゃんがサラッと歌ってるな、ハンパないな」と思いますね。達也も「理姫だからこのメロディは合うだろうな」という思考で書けるのはすごいですね。


奥脇:理姫のために書くことを長くしてきたので、理姫の声で変換しますね。他のアーティストへの提供曲だと理姫の声から戻す作業をします。


理姫:私も歌詞を相手の子たちの声で再生して、「この声でこの歌詞は変だな」って考えますね。


奥脇:バンもんちゃん(バンドじゃないもん!、「ピンヒール」を提供)に曲を書くときも、汐りん(恋汐りんご)やぐみちゃん(七星ぐみ)みたいな特徴のある声の子に変換させて判断しますね。


理姫:あの子達の声なら歌える、って託すこともあるね。


ーーチームしゃちほこ、バンドじゃないもん!などへの楽曲提供がバンドにフィードバックされることはありますか?


奥脇:あまりないかもしれないですね、変わらないかも。人に曲を書くほうが楽なんです。アカシックの曲を聴いていただいてオファーをもらうから、求められてるニーズが「アカシックらしさ」だなとわかるんですよね。だから、提供曲に関しては、「0」から「1」を作るよりも、手を抜かずに「1」をもう一個作ってるイメージです。


理姫:歌詞を書いたりして気づいた感はないな。自分の普段の曲はエゴでできるから、「バンドの曲を作ってます」という感覚だし、会社の人たちも「好きにしろ」という感じで(笑)。だから提供曲は「仕事」をしている感じで活力になってます。そういう意味でバンドは仕事として完全に割り切れないからその分困ることもあるけど、提供曲は違いますね。


ーー「邪魔」はリズムセクションだけ聴くとディスコみたいですよね。ボーカルのエフェクトも1980年代っぽくて驚きました。


奥脇:そうなんです、これは挑戦ですね。前作までバンドサウンドだったけど、こういうのがあってもいいかなと。「邪魔」は思ったよりバンドサウンドになったんですけどね。リズム隊は大変だったんじゃない?


山田:みんなで話し合った気がする。


バンビ:達也がアカシックでこういう曲をやるので、「どうすればかっこよくなるかな?」と考えて。イメージはすぐ湧きましたね、達也のイメージははっきりしてるので。


奥脇:リズム隊が受け入れてくれて良かったですね(笑)。


山田:達也と理姫ちゃんが言おうとしていることは何なのかと真剣に考えますね。


バンビ:汲み取った後に、どこで我を出すかは考えますね。


奥脇:アレンジした後に、康二郎が小さいこだわりを入れはじめるんですよね(笑)。


山田:意図は汲み取りつつ形を損ねない程度にエゴを出してますね。


奥脇:意思疎通はダイレクトに伝わってますね。たとえば「理姫の歌詞がこうだと激しくやろう」とか。意思の疎通具合がアルバムに反映されてますね。


ーー山田さんが、ジャズ畑のミュージシャンがポップスをやっているCRCK/LCKSを聴いているというのを知って、個人的に気になっていたんですよ。


山田:ジャズは全然できないジャンルだから、いつかはできたらなと思いますね。


奥脇:次やるから!


山田:やるそうです(笑)。メンバー同士でも「これ聴いた?」というのは、よくありますね。


奥脇:今回で好きなこともやれたし、次はジャズだから(笑)。理姫が一言しか言わない曲とか、Aメロはあるのにサビは音だけとか(笑)。


ーーそれ、EDMですね(笑)。


理姫:大好き!(笑)。


奥脇:康二郎が全編ボーカルとか(笑)。ビートルズの「ホワイト・アルバム」(『ザ・ビートルズ』の通称)みたいなのを作りたいんですよね。1曲ポップスを作るのは大変だから、簡易レコーディングしたものを30曲とか(笑)。


ーー「愛×Happy×クレイジー」が『ラブホの上野さん』、「マイラグジュアリーナイト」が『ラブホの上野さん season2』の主題歌となりましたが、テレビの影響は感じたでしょうか?


奥脇:今までは入り口がCDとか音楽専門メディアだったけど、ドラマとか違うメディアで展開されて、ライブに来てくれる人が増えたというのは嬉しいですね。


山田:「テレビすごいな」と改めて思いましたね。


奥脇:自分らで言うのもなんですけど、ドラマに合ってるなと思いましたね。「愛×Happy×クレイジー」もドラマに書き下ろしたわけではなくて、ドラマの制作時に聴いてもらって「いいんじゃない?」と言ってもらって作ったものなんです。それがドラマにぴったりだったのが面白いですね。


ーー裏を返せばアカシックには大衆性があるんでしょうね。


理姫:うん、アカシックは大衆性があると思うな。


奥脇:メロディは大衆向きに作ってますからね。


■「自然体で作ったものをポップと言ってもらえてラッキーです」(奥脇)


ーー「日本の宝」のような横浜若葉町を舞台にしている歌詞も理姫さんらしいですね。こんなに横浜のリアルを描けるのは、理姫さんと、クレイジーケンバンドの横山剣さんぐらいですよ。


理姫:それ書いといてください! 剣さんに会いたいし! 近所のママの友達のスナックで、剣さんが来店して自分の曲をさらっと歌ってて、お客さんが「死ねる!」と言ってたらしいんですよ。普通に会ってもひとりで自分について説明できないから、アカシックとして会いたいです。飲み屋さんで言われても、私も酔ったら忘れるし、公式な場で会いたいです(笑)。


ーー「愛×Happy×クレイジー」では、agehaspringsの釣俊輔さんを編曲とサウンドプロデュースに迎えましたが、バンドにとってどのような経験になったでしょうか?


奥脇:楽しかったですね。2、3年前は自分たちのものをいじられるのが嫌だったけど、今は「どうぞ!」みたいな(笑)。単純に良くなるし、このテンポのこういう曲って難しいんですよね。当初はギターサウンドのデモだったんですけど、どうしたら一番美しくなるのか、釣さんがポンと正解をくれたんです。ツボをわかってくれましたね。コードも、こうなる理由がないんですよ。コード進行って、メロディに含まれる音がないと宙ぶらりんに聴こえるけど、そういうコードをやってるし。


バンビ:メロディに含まれる音を入れたり入れなかったり(笑)。


奥脇:そういう意味のないことをしたいじゃないですか? そういうところで釣さんが「ああ、そういうこともあるよね」って(笑)。「エロティシズム」とかその極みですよ。Aメロとかヤバいね。


理姫:だから歌いづらいんですよ! みんなカラオケで歌ってみて、大変だと思う。


奥脇:6thコードと9thコード、11thコードがすごく多い。


理姫:音感がしっかりしてないと歌えないね。


ーー「エロティシズム」は、昨年の1stアルバム『凛々フルーツ』と比較して、サウンド面では新しいジャンルに挑戦していて、しかも歌モノとしてポップな楽曲が増えていますね。


全員:意外。


ーーえっ、そういう感覚なんですか?


奥脇:前作の方がポップかなと。


バンビ:ポップの感覚はみんな違うからね。


奥脇:今回はパンチをいかに出すかに特化したけど、いいメロディにしたからポップネスが出てるのかな? 結果オーライですね。


山田:嬉しいですね。


奥脇:ポップにしようとしていたのが前作までで、今回は「この音のほうが面白いよね」って。「エンジェルシンク」は2回ドラムを叩いてるんですよ。アンプを限界まで歪ませるとかしていて。


山田:ポップスではありえない音量でね。


奥脇:「だってそっちのほうが面白くない?」って。自然体で作ったものをポップと言ってもらえてラッキーです。曲も歌詞もいいと全員で思って作ってるから当然なんですけど。


ーーアイドルとの対バンもしていますが、アカシックのJ-POPシーンでの立ち位置はどう考えていますか?


理姫:立ち位置ねー。


奥脇:意外と数年前より逆にノーストレスというか、単純に「アカシック」としてお金が生めて、かっこいいライブもできてますね。周りと比べて「立ち位置はここね」とか考えるのは健康的じゃないな。


理姫:周りと比べて考える幸せよりも、自分が一番楽しいことがいいんでね。継続はしたいけど。


奥脇:この精神でいていいレベルでずっといたいですね。


ーーそれは一定のセールスを保ちながら、ということですね?


バンビ:大前提ですね。


理姫:継続するためにね。


奥脇:売れたくない人なんか、この年齢で音楽をやってないですからね。売れたいのは当たり前で、武道館も目標としては当たり前ですね。精神論としては、これぐらいでいられるようでいたいですね。


山田:『エロティシズム』は自信作だし、ツアーもアルバムの完全再現を目指してるので、ライブに来ていただきたいし、アルバムも買ってほしいと今まで以上に思ってます。


(取材・文=宗像明将)