オースティン攻略の鍵はセクター1にあり
メンタルコントロールを知り尽くしたハミルトン
崖っぷちにかろうじて片手でぶらさがっている状態、それが今のセバスチャン・ベッテルだ。鈴鹿でルイス・ハミルトンとの差が59に広がり、王手をかけられた。残りはこのアメリカGPを含め4レース、オースティンで16点以上の差がついたら1年が終わる。最もシンプルな両者順位関係だとハミルトン優勝、ベッテル6位で17点差となり決着だ。
2年前の2015年シーズンには残り4戦で1位ハミルトン302点、2位ベッテル236点、その差66点。迎えたアメリカGPは巨大ハリケーンの影響で混乱したが、ハミルトンが勝ち、ベッテル3位によって3冠を達成した。
ハミルトンを主語にするなら、ここからは4位内でいけばそれでいい。2レースでリタイアし、仮にベッテルが2連勝しても首位安泰の“セーフティーリード”。予選ではポールポジション奪取に全力でこだわらず周りの戦力を見極め、ベッテルの順位だけをチェックすればいい。決勝では“セーフティーファースト”、信頼するピーター・ボニントン(担当レースエンジニア)と密にコミュニケーションを取りながら、95%くらいの余裕度を常に残し、集中することだ。攻めすぎても守りすぎてもいけない。そのあたりのセルフメンタルコントロールを3冠王者は知り尽くしているだろう。
オースティンはテキサス州に12年にできた、アメリカで初めてF1誘致のために新設されたサーキット。これまで都市公道サーキットが5つ、ロングビーチ、ラスベガス、デトロイト、ダラス、フェニックスがあった。個人的には、どこもあまりチャレンジングなコースには思えなかった。
ロードコースとしては5つ目、昨年は最多の観客26万9889人を集めるスポーツイベントに成長。07年まで行われたインディアナポリスと違い、オースティンには全土からF1ファンがやってきた。初年度に行った時、サーキットすぐ近くの空港は国内線でやってくるファンで溢れ、周囲の高速道路も大渋滞、どこか浮かれたインディアナポリスの時とは違うグランプリらしい熱気を感じた。
ここで過去5年4勝しているハミルトン(ベッテル1勝)、USAはひときわ強く彼個人も思い入れがある国だ。タイトル決定戦・第1ラウンド、59点のアドバンテージを持ってスタート。
■今宮純が厳選するF1アメリカGP 6つの見どころ
■キャッチポイント1
鈴鹿では土曜まで悩んでいたバルテリ・ボッタスが、決勝で復調の兆しを見せた。今季初めてファステストラップを記録、4位は目立たぬ結果でもレース内容は上向き。ランキング3位にいる彼は、一時40点も離されていた2位ベッテルに対して13点差まで急接近。タイトル争いは圏外でもボッタスがくると、ますますフェラーリ陣営はやっかいなことに。
■キャッチポイント2
ヘルマン・ティルケ監修による8番目のコース。特徴としてはアメリカのハイウェイみたいに幅が広く、クリッピングポイントも自由自在に取れる。ターン1は30m幅、オーバーテイクチャンスはどこにでもある。
■キャッチポイント3
ルノーにカルロス・サインツJr.が移籍加入、注目しよう。ニコ・ヒュルケンベルグと比べられるのは、覚悟しているはずだ。ピエール・ガスリーがトロロッソでぶっつけ本番したマレーシアGPと比べてどうか。コクピット取り扱い説明など、覚えることは山のようにある(ガスリーもそれを経験)。
■キャッチポイント4
2年目のアメリカン・ハースにチャンスあり。鈴鹿でダブル入賞し、ルノーを抜きランキング7位にアップ、ここにアップデートを投入してくる。昨年はロマン・グロージャンが10位入賞、中間チームのダークホース。
■キャッチポイント5
16年にマクラーレン・ホンダはフェルナンド・アロンソが5位入賞。チームは今年も楽観的でいるが、昨年の結果は上位陣がつぶれたからで、実質的には7位。今季はどうなるか。ポジティブな要素としては、ホンダ製パワーユニットの低速トルクが増強されてドライバビリティも向上(鈴鹿のコースサイドで視認)。キーセクターは1と3、そこで今年総決算パフォーマンスを見せられればダブル入賞も……。
■キャッチポイント6
コース攻略はセクター1にかかっている。昨年、ポールポジションのハミルトンから7位ヒュルケンベルグまで、セクター1タイムが予選順位と同じだ。ハミルトン最速25秒066が短縮されるのは確実で、ターン2から下りこむS字のスピードを特に注視したい。