2017年10月17日 10:43 弁護士ドットコム
無戸籍状態だった女性(30代)の子ども2人について、出生届を受けてすぐに住民票に記載しなかった神戸市の対応が違法かどうか争われた裁判で、神戸地裁の山口浩司裁判長は「市の対応は適法だった」として、原告側の賠償請求を棄却する判決を下した。
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女性の母親は約30年前、夫の暴力から逃れて別居した。離婚成立前に、別の男性との間に女性を産んだ。だが、民法の『嫡出推定規定』によって、法的には、夫の子どもになってしまうので、母親は出生届を出さず、女性は無戸籍になったという。
女性は2010年と2014年、子どもを出産した。それぞれ神戸市に出生届を出したが、女性が無戸籍だったため、上の子については、住民票への記載まで約6年間かかった。その間、小学校への就学通知などが届かない不利益があったとしている。
原告側は判決を不服として控訴する方針だ。原告代理人をつとめる作花知志弁護士は「訴訟を通して、無戸籍児問題が解決するような判決を導くことが最終目標だ」と話す。作花弁護士に裁判のポイントや、無戸籍の人たちをとりまく状況について聞いた。
「今回の裁判は、無戸籍の母が、2人の子どもの出生届を提出したにもかかわらず、それぞれの住民票の記載がされなかったことについて、適法性を問うものです。
端的に言うと、原告側は次のように主張しました。
(1)法律上、本籍のない者についても、住民票に記載することが規定されている(住民基本台帳法7条)
(2)住民基本台帳法の注釈書でも、『日本国籍を有する者であっても、本籍のない者又は本籍の明らかでない者については、日常使用している氏名を記載する』とされている
(3)以上から、出生届の提出を受けた行政は当然、子ども2人の住民票の記載をするべき義務があった
これに対して行政側(神戸市)は、子どもの出生届を提出した母が無国籍や無戸籍の場合、その取り扱いを国に照会するよう、国から通達されており、今回はその通達にしたがっただけなので違法性はない、と主張しました」
「しかし、行政側が引用したその通達は、母が無国籍や無戸籍で、あとから外国籍を有していることがわかった場合、子どもの国籍にも影響するので、その確認を求めたものでした。
すると、今回のケースにおいて、子ども2人の出生届を提出した母は、無戸籍だったものの、住民票の記載がされていたのです。そして、その住民票の記載がされたのは、日本人にしか住民票の記載がされなかった時代のことでした。
ですので、母が日本国籍を有していることは、行政側に確認されていたのですから、通達に基づいて国に照会をおこなう必要性がなかったはずです。
そのような観点からすると、『通達にしたがっただけだった』という理由は、適法性の根拠にならないと思います。控訴審では、その点を中心とし、主張をおこなう予定です」
「現在、無戸籍の人たちについては、次のような不利益があります。
(a)住民票は、認知調停手続などの申立がされていないかぎり記載されない
(b)パスポートは、実父でない嫡出推定がおよぶ法律上の父の氏の記載をしないかぎり発行されない
(c)運転免許証は、住民票の記載がないかぎり取得できない
(d)銀行の預金口座も、戸籍がなく、住民票がなく、運転免許証もないのであれば、開設できない
私は、今回とあわせて、無戸籍児問題に関する2つの訴訟を担当しています。この2つの訴訟を通して、2つの側面から無戸籍児問題を解決したいと考えています。
まず1つは、今回の住民票記載についての訴訟を通して、住民基本台帳法は、無戸籍の子についても住民票を記載しないといけないことを規定していることを明確に判決で認めてもらうことです。そのことで、子どもが無戸籍であっても、住民票に記載されることになります。
もう1つ、嫡出否認制度違憲訴訟も担当しています。現行の民法には、『父と子の嫡出否認は父からしか認められず、子や母からは認められない』という規定がされていますが、無戸籍児発生の原因となっています。
訴訟を通して、この民法の規定が、憲法で定められた『個人の尊厳』や『男女平等』に違反することを認めてもらって、民法そのものの改正につなげたいと考えています。
今回、住民票記載についての訴訟の判決がありましたが、11月29日には嫡出否認制度違憲訴訟の判決が、同じ神戸地裁で予定されています。2つの訴訟を通して、無戸籍児問題が解決するような判決を導くことが、私と原告、その家族の最終目標です」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
作花 知志(さっか・ともし)弁護士
岡山弁護士会、日弁連国際人権問題委員会、国際人権法学会、日本航空宇宙学会などに所属。
事務所名:作花法律事務所
事務所URL:http://sakka-law-office.jp/