トップへ

犯罪被害者なのに病院から「治療費全額払い」求められる場合も…日弁連、支援策を議論

2017年10月16日 12:53  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

滋賀県大津市で10月6日、日弁連の人権擁護大会が開かれ、「犯罪被害者の誰もが等しく充実した支援を受けられる社会の実現を目指す決議」(https://www.nichibenren.or.jp/activity/document/civil_liberties/year/2017/2017_1.html)が採択された。これに先がけて5日に開かれたシンポジウムでは、犯罪被害者らの権利向上に向けた課題についての基調報告があった。被害者本人や遺族の切実な声もVTRで紹介された。


【関連記事:「胸を鷲掴みにされた」スポーツバー女性店員が客からセクハラ被害、罪に問える?】


2004年に「犯罪被害者等基本法」が制定されて以降、犯罪被害者や遺族に対する支援制度がそれまで以上に整備されはじめた。しかし、まだまだ不十分な部分が多く、課題が残されている。基調報告に登壇した天野康代弁護士は、北欧諸国の制度を参考にした日本版「犯罪被害者庁」の設立など、踏み込んだ改革が必要だと訴えた。


●国が代わりに取り立てるスウェーデン

天野弁護士による基調報告では、子どもを殺害されたり、集団食中毒で家族をうしなった遺族や、強盗にあった被害者本人たちが、事件後にこうむった苦難を語るVTRが流された。


犯罪被害者支援の一環として、故意の犯罪で亡くなった被害者の遺族や、重傷を負ったり身体に障害が残ったりした被害者に対しては、国から犯罪被害者給付金が支給されることになっている。だが、この制度にも不十分なところがある。


VTRで紹介されたある女性のケースでは、息子を殺害した加害者が毎月5000円の賠償金を支払うことで和解した。加害者からは一度の遅滞もなく支払われているが、犯罪被害者給付金を受け取れず、負担となっているという。現行の制度では、わずかであっても、継続的に支払いを受けている場合、給付金を受け取れないのだ。


また、被害者側からは、服役後の加害者の住所や財産状況などがわからず、賠償金が支払われないことが非常に多い。娘を同級生の少年に殺害された遺族のケースでは、加害者らに対する損害賠償を認める判決が確定したが、消滅時効(10年)があるため、その時効を中断させるために、被害者側が裁判を起こさないといけなかった。


こうした状況をどう改善すべきか。天野弁護士は、北欧スウェーデンの「犯罪被害者庁」(被害者支援に特化した国家機関)を紹介。被害者は被害者庁から補償金を受け取り、同庁は加害者に対して求償しているという。天野弁護士は「スウェーデンのように、国が被害者の代わりに(損害賠償を)取り立てる制度の実現が必要だ」と述べた。


●加害者が治療費を払えない場合、被害者側が払わないといけない実態

ある男性は、集団食中毒事件で母と妻を亡くし、2人の子どもも生死をさまよう重症となった。事件直後、病院側から「もし加害者側が治療費を支払えない状況になったら、あなた(被害者)が全費用を支払うこと」という内容の誓約書にサインさせられたそうだ。


「正直びっくりした。子どもたちはICUに入っていた。1週間で数百万円。その誓約書にサインしなかったら、病院から放り出されてしまうのか不安だった」(男性)


天野弁護士によると、ドイツでは、犯罪被害者が障害を負った場合、完治までにかかる医療費・リハビリテーション費などについて、一時金が支払われるという。「日本でも、現実に支出を余儀なくされた医療費が全額給付されるべきだ」「本人だけでなく、家族が重症・重体となった場合も、犯罪被害者支援の一環として、家事援助などの充実も求められる」とコメントした。


また、少年らに息子を殺害された母親は「警察署から帰るときには、メディアの車がいっぱいで家に帰れなかった」と述懐した。警察署では「息子の名前を公表しないよう」伝えたにも関わらず、すぐにテレビで名前と顔も全部出ていたという。そんなときに弁護士が記者を帰らせてくれたおかけで「すごく助かった」そうだ。


このVTRを受けて、天野弁護士は、メディア・スクラム対応など、被害直後に弁護士がつくことの必要性を強調した。また、少年審判など、被害者に公費で弁護士をつけることはできないケースにも弁護士選任制度を拡大すべきだとした。


●被害者の権利を実現するために求められる「仕組み」とは?

天野弁護士は基調講演の終わりに次のようにまとめた。


「犯罪被害者には(1)刑事司法における権利、(2)経済的被害回復の権利、(3)精神的・身体的被害回復の権利がある。このうち、(1 )刑事司法における権利は一定の前進があったが、(2)経済的、(3)精神的・身体的被害回復の権利はまだまだ不十分と言わざるをえない状況だ。また、住んでいる場所で受けられる支援が異なる。


犯罪被害者の権利を実現し、だれもが等しく充実した支援を受けられるように、一元的な窓口を整備すべきだ。日本型の犯罪被害者庁の創設も真剣に検討すべきだ。加害者に財産がない・めぼしい財産がみつからない場合、国が加害者に代わって支払って、その分を加害者に求償することが考えられる。


また、犯罪被害者庁を創設することで、被害者を専門に研究する機関ができて、そのニーズや各地での支援のあり方を検証することができる」


(弁護士ドットコムニュース)