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賭博禁止だけど「パチンコ、競馬…実態は解禁済み」麻雀プロ弁護士が問題提起

2017年10月15日 09:32  弁護士ドットコム

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個人間でお金を賭けて勝負する「単純賭博」は、現行の日本の刑法では禁止されている。だが、そんな法律には整合性がないとして、撤廃するよう主張する弁護士がいる。京都市に事務所を構える津田岳宏弁護士だ。


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昨年、カジノを解禁する統合型リゾート施設(IR)整備推進法が成立し、国は「カジノ解禁」に向けて大きく舵をとっている状況だが、津田弁護士は「今こそ、賭博について感情的でなく冷静な議論をしてほしい」と話す。


麻雀プロとしても活動している津田弁護士に、なぜ「単純賭博罪」を撤廃すべきなのか聞いた。


●「単純賭博罪は死文化した法律だ」

――津田弁護士はよく「賭博解禁論者」とメディア上で紹介されています……。


私としては心外です(笑)。私は「単純賭博罪を撤廃しろ」と主張しているだけで、解禁論者であるつもりはない。だって日本では、すでに賭博は解禁されているじゃないですか。スマホで馬券が買えますし、歩いて5分でパチンコ店に行けます。今ここでスマホいじるだけで賭博できますよ(笑)。


私は、賭博を認めたうえでちゃんと規制してコントロールしたほうがいいという思想なので、ある意味では、むしろ規制論者だと思ってますよ(笑)。


――賭博罪について関心を持った経緯はなんでしょう?


もともと麻雀が大好きで、大学時代には雀荘でアルバイトなんかしていました。その当時から、賭け麻雀が法律的にどうなのか関心を持っていて、弁護士になってから調べれば調べるほど、かなり曖昧に法律の運用がされていることがわかりました。


「単純賭博罪」はそもそも、あまり使われていない死文化した法律です。また法律上認められている賭博と認められていない賭博があり、不均衡です。公平の観点や罪刑法定主義の原則からも、単純賭博を禁止する必要があるのかと疑問を持つようになりました。


――認められている賭博とはなんでしょうか?


競馬などの公営競技は認められている賭博です。パチンコも事実上の公認賭博といえるでしょう。こうした賭博を認めているにも関わらず、個人間の賭博を処罰の対象にしているのは不均衡です。さらに今後カジノができるとなってくると、はたして時代に適合しているのかという問題も生じます。現実と法律が矛盾しています。


●「日本ではすでに賭博ができる状況だ」

――公営競技やパチンコは、依存症などの問題もメディアや有識者から指摘されています。


もちろん、依存症対策しないといけません。しかし、依存症対策と単純賭博罪の存在は関係がないと考えています。


――単純賭博罪を撤廃したら、ギャンブル依存者は増えないのでしょうか?


日本はすでにできる賭博が山ほどあるので、今さら「単純賭博罪」を撤廃したからといって、依存症の患者が増えることとは関係ないはずです。それくらいに、日本では手軽に賭博ができる状況なわけです。むしろ日本が「賭博大国」であることを公認したうえで対策を取ったほうが状況は良くなるでしょう。


あと、私が撤廃するよう主張しているのは個人間でお金を賭ける行為を規制する「単純賭博罪」です。


賭博場を開いて利益を得る「賭博開帳図利罪」はまた別の話です。規制の態様はどうあれ、公の規制を一切受けない賭博は反社会的勢力排除の観点からも規制していくべきでしょう。


――友だち同士の賭博は「入り口」にならないのでしょうか?


友だち同士のささいな賭博は、事実上警察は摘発しません。捜査機関向けの文献にもそうあるべきと記載されています。繰り返しますが、「単純賭博罪」はほとんど使われていない法律なんです。合意に基づく個人間の遊びを国家が刑法で取り締まるというのは法理論上おおいに問題があります。


――一般的に「賭博」という言葉のイメージが悪い。


たしかに、度が過ぎた賭博は好ましくありませんが、それはお酒なんかでも同じでしょう。昨今メディアで話題になっている不倫も好ましい行為ではありませんが、刑法上、規制されていません。だけど、パチンコと不倫だったら、不倫のほうが社会的に糾弾されていますよね。


●お金を賭けない「麻雀」の楽しさ伝えたい

――賭博開帳図利の規制はどうあるべきでしょうか?


民営の賭博場も将来的には認めていいと考えています。公安委員会などを絡ませた許可制を導入して、未成年の入場などを厳しく制限すべきでしょうね。


民営の賭博場を認めると、裏カジノなどアンダーグラウンドな賭博場が世の中から淘汰されます。正規の賭博店があるのに、裏カジノに行くわけがありません。たとえば、アメリカではかつて禁酒法時代に密造酒が作られていましたけど、禁酒法が撤廃されたら、密造酒はだれも飲まなくなりました。


禁止するのではなく、規制してコントロールしたほうがいいんですよ、こういうのは。そうすることが反社会的勢力の締め出しにもつながります。ほらね、私は規制論者でしょ(笑)。


――カジノについてはどう考えていますか?


今のところ、民営になるのか、公営になるのかわかりませんが、もし民営になった場合、民営の賭博場を法律上認めることになります。そういう状況で、単純賭博罪を存在させることが、法律上整合性があるのか、改めて考えるべきだと思います。法律は論理的に整合していないといけません。


カジノは認める。競馬は認める。パチンコも事実上認める。ただ、単純賭博罪は処罰する――。そんな状況が、法体系として整合性がとれているのでしょうか。そういうところは、しっかりと考えていくべきです。


パチンコは、賭博として全面的に認めたうえでしかるべき規制をすべきでしょう。ささいな金額の賭け麻雀もそうあるべき。市民権を獲得している賭博については、公認した上でしっかりと規制(コントロール)していくべきだと思います。


カジノができるにあたっては、賭博とはどういうもので、どんな問題点があるのか、感情的でない冷静な議論をしてほしいと思います。今まさにそういうタイミングが来ていると思います。


――今後はどんな活動をしていきますか?


賭博罪って死文化しているにもかかわらず、強い萎縮効果があるんですよ。面白いコンテンツを思いついても、賭博罪にあたるかなって気にして、ためらっちゃう。これって本当に不当だなって思います。そこをサポートするのが私の役割です。賭博罪の要件は複雑なので、実際は問題ないケースも多いんですよ。面白いことを思いついた人を無用な萎縮から解放させられるような弁護士でいたいですね。


あと私は麻雀プロでもあります。麻雀は、お金を賭けなくても楽しいゲームです。お金ではなくプライドを賭けて打つ麻雀はほんとに楽しい。食わず嫌いしている人は多いと思いますよ(笑)。やればハマります(笑)。


「AbemaTV」などの影響で、最近は麻雀プロの知名度もかなり上ってきました。強いうえにタレント顔負けのトーク力があるような才人もいます。若くてイケメンのプロが増えてきているのも時代を考えると心強い(笑)。賭けない麻雀の楽しさや麻雀プロの魅力を伝えるような活動も積極的にしていきたいですね。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
津田 岳宏(つだ・たかひろ)弁護士
京都弁護士会。京都大学経済学部卒業。著書に「カラマーゾフを殺したのは誰か?世界の名作でリーガルマインドを学ぶ」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)「弁護士には聞きにくいー知って助かる!法律相談」(青春出版社)、「賭けマージャンはいくらから捕まるのか」(遊タイム出版)など
賭博法改正を願う弁護士津田岳宏のブログ 
http://tsuda-moni.cocolog-nifty.com/

事務所名:京都グリーン法律事務所
事務所URL:http://www.greenlaw.jp/index.html