世界三大レースのひとつである『ル・マン24時間』をシリーズの1戦に組み込むWEC世界耐久選手権。静岡県・富士スピードウェイでは今年もシリーズ第7戦富士6時間レースが10月13~15日に開催されるが、そもそもWECとはどのようなシリーズなのか、WEC富士の前におさらいしておこう。今回は4クラス混走というWECならではの難しさをドライバーに聞いた。
これまで紹介してきたとおり、WECはLMP1とLMP2、LM-GTEプロ、LM-GTEアマクラスの4クラスで争われている。ドライバーもプロドライバーとアマチュアドライバーが混在しており、決勝ではハード/ソフトの両面で速さの異なるマシンが混走することになる。
そこで、今回はLMP2を主戦場としながらも今季のル・マンと前哨戦のスパ・フランコルシャンでは3台目トヨタ、9号車トヨタTS050ハイブリッドをドライブしたニコラス・ラピエールにトラフィックをオーバーテイクする際の“難しさ”を聞いた。
■ニコラス・ラピエール
(2014年:8号車トヨタTS040ハイブリッド/LMP1 2017年:36号車アルピーヌA470・ギブソン/LMP2 ※第2戦スパ・フランコルシャン、第3戦ル・マンでは9号車トヨタTS050ハイブリッド/LMP1をドライブ)
「LMP2の場合は、GTEよりも速いから前も見なくてはいけないし、それと同時に後ろも気にしなければいけないのが難しいよね。LMP1-Hは、特に加速の部分で、僕らのクルマよりもずっと速いから、そこは気をつけなくちゃならない。コーナリングスピードやブレーキングは、そこまで大きく変わらないんだ」
「だけど、加速には大きな差がある。LMP1-Hはハイブリッドパワーがあるし、四輪駆動だからね。だから、後ろからLMP1-Hが来ないかどうか、ミラーで注意深く見なければならないんだけど、それは簡単じゃない。前を見てGTEを抜きながら、LMP1-Hを見逃さないようにミラーで後ろを見なくちゃならないんだから、ドライビングはすごく忙しい」
「しかも、今年はLMP2のバトルがとてもタイト。みんな同じシャシー、同じタイヤ、同じエンジンを使っているから、タイムで言うとコンマ1秒とか、コンマ2秒しか変わらない。LMP2同士で戦いながら、GTEやLMP1-Hを気にしなければならないんだよ」
そんな激闘のなかに身を置くラピエールは、LMP1-Hのドライブはトラフィックを注意深く処理しながらセッティングの変更などの操作をする必要があり、とても忙しかったと振り返る。
「LMP1-Hに乗っている時は、加速の差があまりにも大きくて、GTEのクルマを抜く時は相手が止まっているように見えるぐらいだった。だからこそ気をつけなければならなかったね。今年は、LMP1-Hの台数が減ったから、これまでよりは楽だけどね」
「LMP1-Hに乗っている時は、ステアリング(上のスイッッチ類)でたくさんのセッティングを変えなくちゃいけないし、バッテリーもチャージしなければならないし、どうやってエネルギーやブーストを使うかという部分がとても複雑だった。しょっちゅうセットアップを変える必要があって、そこはとても忙しかった。しかも、直線の最後にはフューエルカットが入る」
「だから、トップスピードはLMP1-HとLMP2でそれほど変わらないんだ。そこはすごく気をつけなくちゃいけない部分だと思う。コーナーの200メートル手前でLMP1-Hのフューエルカットが入った時に、LMP2はまだ加速している。そこでのトラフィック処理は、LMP1-Hにとって大変な部分なんだ」
「一方、LMP2には(ハイブリッドによる)ブーストがないから、そこはLMP1-Hとはまったく違うよね」
最後に富士スピードウェイの印象を聞くと「富士の場合、トラフィックのマネジメントが一番大変なのは、セクター3だ。すごくタイトだし、僕らにとってはあそこで他のクルマを抜いて行くのは大変だよ」とコメント。
「最終コーナーを立ち上がってしまえば、長い直線があるからオーバーテイクがとても容易だし、そこからセクター2まではコース幅も広く、(GTEマシンより)速いからより簡単なんだ。だけど、富士のセクター3はシーズンを通しても、もっともオーバーテイクが難しい場所のひとつだと思う」
前回インタビューしたオリバー・ジャービス(ジャッキー・チェンDCレーシング/38号車オレカ)と同様にラピエールもまた、セクター3でのオーバーテイクに苦労すると予想。この区間でいかにスムーズにトラフィックをオーバーテイクできるかがLMP2、LMP1-Hクラスの勝敗を分けることになりそうだ。