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Flowerが作り上げる、ステージでの“総合表現” 『たいようの哀悼歌』収録ライブ映像を見て

2017年10月11日 18:03  リアルサウンド

リアルサウンド

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 Flowerの最新シングル『たいようの哀悼歌』(初回生産限定盤A)付属のDVDには、表題曲のMVとともに、今年1月に催されたライブ『Flower Theater 2016 ~THIS IS Flower~ THE FINAL』の映像が収録されている。Flowerの表現は常に、ボーカルとパフォーマーが織りなす特有のバランスを軸にして展開される。その意味では、楽曲のみではなくライブパフォーマンスを知ることによってこそ、彼女たちの目指す射程が見えてくる。今回のリリースでワンマンライブの全容が収められたことを機に、Flowerが作り上げる表現を再確認してみたい。


 収録されているライブは、Flowerの2ndツアーファイナルの模様である。ツアータイトルには、ライブに先立ってリリースされていたベストアルバム『THIS IS Flower THIS IS BEST』からのフレーズ「THIS IS Flower」が用いられているが、彼女たちのライブの歩みを考えるとき、より長期のスパンで意味をもつのは、タイトルの頭に冠された「Flower Theater」の方だろう。


 2015年に催された初の単独ツアー『Flower LIVE TOUR 2015“花時計”』でもこの言葉は掲げられ、“劇場”の中で箱庭的な世界観を色濃く構築した。そして、2ndツアーに引き継がれたこのコンセプトを、彼女たちはさらに大きく育ててみせる。今回のライブ映像に映し出されているのは、前年のツアーよりもさらに“Theater”の意味を拡張して体現する6人の姿だった。


 ボーカル、パフォーマーとプロジェクションとの繊細なコンビネーションで「花時計」の世界を彩ってみせた前年と比べて今回のライブが特徴的なのは、冒頭の映像で使用される映写機のイメージやフィルムを模したツアーロゴといった、映画館(=Theater)モチーフである。また、映画的イメージをより強くするのは、ライブパフォーマンスと交互に上映される映像群だ。グループの作詞を手がける小竹正人が紡ぐストーリーに導かれ、楽曲のキーとなるフレーズを随所に織り込んだそれらの映像は、生身のパフォーマンスの合間を有機的につないでゆく。いくぶんクラシカルなシネマのイメージを意匠として背負うことに関していえば、LDHの各グループの中でもFlowerが最も適任なのかもしれない。


 もっとも、初の単独ツアー開催時から「Flower Theater」を掲げていた彼女たちにとって、「Theater」の意味はより広いものである。2015年のツアー同様にステージの外枠を白く縁取り、額縁舞台としての劇場空間(=Theater)を作り出すと、その中でボーカルとパフォーマーとが同等の存在感をもって立体的な表現を展開する。もとより、パフォーマンスの重点が歌唱のみに置かれない複合的な表現を、LDHという組織はいくつもの形で繰り返し表してきた。Flowerのワンマンライブでは歌唱と身体的パフォーマンスに加えて、ダンスに連動したプロジェクションや具体的なストーリーを補完する映像までも連関させ、さらに総合表現としての形を追求していく。この表現形式によって、彼女たちが持つ叙情性は最大限に引き出される。


 もちろん、その総合的な表現の芯には、6人それぞれの等身大のパフォーマンスがある。パフォーマー一人一人とボーカルの鷲尾伶菜とが一対一で表現する楽曲群では、6人体制になって以降のFlowerの、個々としての強さをうかがい知ることができる。「紫陽花カレイドスコープ」では坂東希、「太陽と向日葵」では重留真波、「初恋」では中島美央、「さよなら、アリス」では佐藤晴美がそれぞれに鷲尾とのタッグでパフォーマンスし、藤井萩花は「CALL」でピアノ演奏、「白雪姫」でメインダンスをとる。いずれもボーカルとパフォーマーとが単純な主従や大小の関係に収まることのない、同等で不可分の関係を描いてみせる。一対一のタイトな編成から、映像と連続させた表現まで、複合的なパフォーマンスを体現する場。それこそが「Flower Theater」であり、彼女たちの秀逸なバランスをもっとも堪能できるステージである。


 一方では「Theater」の中で存分に世界観を作り込みつつ、他方で終盤にはステージ上と観客席との垣根を取り払うような、「ライブ」としての醍醐味をメドレーで魅せる。この振り幅もまた、見逃してはならないポイントだ。「Dolphin Beach」から「Dreamin’ Together」、「Imagination」そして「Flower Garden」へと続くメドレーはライブ最終盤、比較的短い時間の中で展開されるが、一曲ごとにはっきりと段階を踏んでオーディエンスとの距離感を狭めて盛り上げてゆく流れは、機能的なほどのスムーズさを感じさせる。映像としてあらためて観ることで、その無駄のなさを確認できるのもまた面白い。


 そうした最終盤の「ライブ」としての姿があってこそ、それまでに描いてきた世界観の作り込みの深さがまた対照的に浮かび上がる。今回収録された2ndツアー『Flower Theater 2016 ~THIS IS Flower~ THE FINAL』のライブ映像は、Flowerの単独ライブが映画的なだけでもフィジカルなパフォーマンスの強調だけでもない、「Theater」の語義を存分に広げてみせる総合表現に育っていることを知らしめてくれる。この完成度を堪能した上で、その先に続く進化をまた期待したい。(文=香月孝史)