世界三大レースのひとつである『ル・マン24時間』をシリーズの1戦に組み込むWEC世界耐久選手権。静岡県・富士スピードウェイでは今年もシリーズ第7戦富士6時間レースが10月13~15日に開催されるが、そもそもWECとはどのようなシリーズなのか、WEC富士の前におさらいしておこう。今回は4クラス混走というWECならではの難しさをドライバーに聞いた。
これまで紹介してきたとおり、WECはLMP1とLMP2、LM-GTEプロ、LM-GTEアマクラスの4クラスで争われている。ドライバーもプロドライバーとアマチュアドライバーが混在しており、決勝ではハード/ソフトの両面で速さの異なるマシンが混走することになる。
そこで、今回は以前はアウディ・ワークスドライバーとしてLMP1カーを操り、現在はLMP2クラスに参戦しているオリバー・ジャービスに各クラスの速度差が生む“難しさ”を聞いた。
■オリバー・ジャービス
(2016年:8号車アウディR18/LMP1 2017年:38号車オレカ07・ギブソン/LMP2)
「僕が最初に驚いたのは、いかにLMP1-HとLMP2が違っているかっていうことだった。他のクルマを抜く時、LMP1-Hの方がずっと簡単なんだ。うんとパワーがあって、コーナーの立ち上がりでブーストを使えるからね。アウディ時代は、他のクルマを抜く時に、自分が使いたいところでブーストを使えるボタンがあったし、それだけスピード差があると抜くのは簡単なんだ」
「その点、LMP2の場合には、LM-GTEと比べてそれほど直線スピードが速くない。それに低速コーナーが連続していて、間に短い直線がある場所なんかでは、ものすごくオーバーテイクが難しいんだ」
ジャービスによればLMP1-HとLMP2ではドライビングスタイルが異なってくるという。
「LMP1-Hの場合はブーストもあるけど、ブレーキングをできるだけ遅らせて、可能な限りバッテリーをチャージしなければならない。その点、LMP2の場合、今年はよりパワフルではあるけど、ブーストはないからね。だから、できるだけスピードを保ったまま、コーナーを抜けて行かなくてはならないんだ。クルマの勢いを保つためにね」
「また、LMP2に乗っていて、LMP1-Hに抜かれるっていうのは、信じられない感じだよ。たとえばメキシコの最終コーナーで、こっちがギリギリの感じで走っている時に、LMP1-Hは突然現れて抜いて行くんだ。ミラーを見て、誰もいないと思っていてコーナーに入って行っても、LMP1-Hが突然やってくるんだよ。そのスピード差はすごい」
今シーズン、車体とエンジンが一新されたことで大幅なスピードアップを果たしたLMP2カーについては「トップスピードという面では、LMP1-HとLMP2でそこまで違いはないよ。しかし、加速の面ではまったく違っているんだよね。高速コーナーのスピードもそれほど違いはないと思う。COTA(サーキット・オブ・ジ・アメリカズ)の2コーナーの先では、LMP1-Hが僕らを抜くのに苦労していたから」とその印象を語った。
「一番違うのは、コーナーの出口で、LMP2に乗っていたら、そこで一番気をつけなくちゃならない。逆に、(他クラスを)抜いていく時に気をつけることは、LMP1-HでもLMP2でも同じような感じだよね。これから抜こうとしているクルマに誰が乗っているか、特にGTEクラスにジェントルマンドライバーが乗っているのか、プロが乗っているのかということに対しては気を払わないとね」
「プロなら後ろから来るクルマをちゃんと見ていて、より素早く反応してくれるけど、ジェントルマンの場合は、もう少し用心深くいかなくてはならない。だけど、あまり躊躇していると危険だから、抜き方自体は変わらない。ただ完璧に(相手の)インに入って、こちらの存在を見せる必要があるんだ」
「富士の場合、抜いたり抜かれたりするのが難しいのはセクター3だろうね。特に、LMP2にとってGTEクラスを抜くのが難しいと思う。加速はほとんど同じだから、さらにリスクを背負っていく必要がある。そこで2秒ぐらい(ラップタイムが)違ってくるから、抜くチャンスがあるなら、ダンロップの飛び込みと出口で抜いていかなくちゃならないからね。そこでは、多少の接触も起きる可能性もある。LMP1-Hがセクター3で僕らを抜いて行くのも、去年以上に難しくなると思うよ」
アウディ・ワークスドライバーとして2013年からWECを戦い、富士スピードウェイは全日本F3選手権、スーパーGT500クラスでのレース経験もあるジャービス。サーキットの習熟度の高さに加え、抜かす側と抜かれる側の両面の難しさを知る彼の走りは他のドライバーに比べてアドバンテージとなるだろう。