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東名夫婦死亡事故、進路妨害した容疑者の「危険運転致死傷罪」成立はあるか?

2017年10月11日 15:33  弁護士ドットコム

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神奈川県の東名高速道路で6月上旬、追い越し車線にとまったワゴン車がトラックに追突されて、夫婦が死亡し、娘2人がけがをした事故が話題になっている。


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ワゴン車の進路をふさいで停止させて、追突事故を引き起こしたなどとして、福岡県中間市の建設作業員の男性が10月10日、自動車運転処罰法違反(過失運転致死傷)と暴行の疑いで、神奈川県警に逮捕された。


報道によると、建設作業員の男性は6月5日午後9時35分ごろ、東名高速下り線で、静岡市の男性一家のワゴン車(運転は妻)の後方から接近して、前方に割り込んで減速。さらに、ワゴン車を追い越し車線上に停止させて、後ろからきたトラックとの追突事故を引き起こした疑いが持たれている。


事故発生前、静岡市の男性は、手前のパーキングエリアで進路をふさぐように駐車していた建設作業員の男性に対して、口頭で注意してトラブルになった。その後、逆上した建設作業員の男性は車で、ワゴン車を追いかけて、その進路を妨害するなどしていたという。


報道されているかぎり、逮捕された男性の運転・行為は非常に危険だったといえそうだ。今回の逮捕容疑は「過失運転致死傷」だったが、それよりも重い罪で処罰される可能性はないのだろうか。また、後ろから追突した大型トラックの責任はどうなるのか。冨本和男弁護士に聞いた。


●危険運転致死傷で処罰される可能性も

「今回、容疑者は過失運転致死傷で逮捕されましたが、さらに危険運転致死傷で起訴されるなどして、厳しく処罰される可能性があると考えます」


冨本弁護士はこのように述べる。どういう理由だろうか。


危険運転致死傷は、(1)酩酊運転、(2)高速度運転、(3)未熟運転、(4)妨害運転、(5)信号無視運転、(6)通行禁止道路運転――といった極めて危険な自動車運転によって人を死傷させた場合に成立する犯罪です。


危険運転致死傷は、人の生命・身体を保護するための犯罪ですが、極めて悪質かつ危険な自動車運転をした者を厳しく処罰するために定められています。そして、今回のケースは、(4)妨害運転にあたる可能性があります」


妨害運転はどんなときに成立するのだろうか。


「妨害運転の危険運転致死傷は、『人または車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に侵入し、その他通行中の人または車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転』することによって、人にけがを負わせたり、人を死亡させた場合に成立します。


今回のケースにおいて、容疑者の車両は、被害車両の後方から接近して、被害車両の前方に割り込んだと報じられています。その場合、車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に侵入しているといえると考えられます。


したがって、容疑者の車両がある程度の速度で、こうした妨害運転をおこない,それによって人がけがをしたり,亡くなったのであれば危険運転致死傷が成立する可能性があります。危険運転によって人にけがを負わせれば15年以下の懲役、人を死亡させれば1年以上の懲役で処罰されます」


●トラック運転手も処罰される可能性も

危険運転致死傷が成立しない場合はどうだろうか。


「今回のケースにおいて,容疑者が妨害行為によって被害車両を停車させたあと、車を降りて被害者の胸ぐらをつかんだという報道もあります。事実であれば、妨害運転が直接事故につながったといいにくく、危険運転致死傷が成立しない場合があります。


しかし、その場合でも、逮捕容疑である過失運転致死傷が成立すると考えられます。


過失運転致死傷も、人の生命・身体を保護するための犯罪です。自動車の運転によって人の生命・身体が侵害される危険性が大きいことから、運転者に必要な注意をさせて、自動車運転による事故を防止するために犯罪として定められています。


過失運転致死傷は、自動車運転をおこなううえで必要とされる注意義務を怠って、人にけがを負わせたり、人を死亡させた場合に成立します。


今回のケースにおいて、容疑者の車両は、安全に走行する義務があるにもかかわらず、危険な運転をして、夜間の高速道路で被害車両や自分の車を停車させています。自動車運転をおこなううえで必要な注意を怠ったといえます。


その結果、後続のトラックが衝突し、人がけがをしたり亡くなっているわけですから、過失運転致死傷が成立すると考えられます。


過失運転致死傷の罪が成立する場合、7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金で処罰される可能性があります」


後ろから追突したトラックの運転手についてはどうだろうか。


「衝突を回避することができない状況であったのであれば、犯罪は成立しません。しかし、たとえば、前方を注視して適切な対応をとっていれば衝突を回避しえたにもかかわらず、前方を注視していなかったために適切な対応をとれず、衝突したというのであれば、過失運転致死傷が成立する可能性はあります」


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
冨本 和男(とみもと・かずお)弁護士
債務整理・離婚等の一般民事事件の他刑事事件(示談交渉、保釈請求、公判弁護)も多く扱っている。
事務所名:法律事務所あすか
事務所URL:http://www.aska-law.jp