2017年10月10日 19:43 弁護士ドットコム
「アート引っ越しセンター」で知られる引っ越し会社グループ「アートコーポレーション」で働いていた元従業員の男性3人が10月10日、同社と同社の労働組合に、未払い残業代や、給料から天引きされた引っ越し事故の賠償金、天引き同意のない組合費の返還など計約376万円の支払いを求め、横浜地裁に提訴した。
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男性らは、
(1)同社がつけた賃金台帳と男性らが計算した残業代の差額の支払い
(2)「引っ越し事故賠償制度」に基づいた賠償金の返還
(3)制度があると知らされていなかった通勤手当の支払い
(4)業務連絡で使用した私用の携帯電話代金の支払い
(5)天引き同意がなかった労働組合費の返還
を求めている。
訴状などによると、今回提訴したのはアート引越センター横浜都筑支店の元社員2人と元アルバイト1人。いずれも2011年4月~2013年4月の間に入社し、2016年8月~2017年5月の間に退社した。
社外の労働組合を通じた未払い残業代に関する団体交渉の中で、同社は2017年6月13日、「当社が把握していた労働時間と実際の勤務時間に異なるところがあったため、正しい勤務実績に基づいて賃金を算定した場合の不足分を支払う」と差額があることを認めた。しかし、その後の労基署を交えた交渉においても、未払い残業代などの支払い範囲は一定程度とし、さらに内容を口外しないといった条件がつけられたため、訴訟に至ったという。
提訴後、元社員の男性(24)と代理人の指宿昭一弁護士らが厚労省記者クラブで会見し、同社の「引っ越し事故賠償制度」の問題点について説明した。
これはベテランや中堅の正社員、常勤アルバイトなどの引っ越し作業のリーダーに対して、1件の事故につき1人3万円を上限に損害賠償金を負担させる同社の制度だ。顧客のクレームがあり会社が賠償金を支払った場合、ほぼ自動的にリーダーが賠償金を支払わされていたという。
男性らがいた横浜都筑支店では、同意がないまま給料から「引っ越し事故積立金」として勝手に天引きされていた。男性によると、1日500円の積み立てだったが、それで賄えない分については月1回の現場会議で金額を提示され、リーダーで割り勘して支払っていたという。
指宿弁護士は、「とりわけ重過失があったり、故意に落としたような事故であれば、支払いはやむを得ないが、同社が請求していたのは通常の業務で生じている損害だ。こういったものは使用者側が支払うべきで、リーダーの責任として請求するのはおかしい」と主張した。
会見に参加した元社員の男性(24)=横浜市=は、「毎月過酷な残業をして心身ともに疲れ切って、毎日睡眠不足に襲われている中で、物を壊したらお金を払えということがずっと続いていた。(事故賠償金について)自分以外にも、かなり多くの額を勝手に天引きされている人がいる。『放っておくことができない』と皆で声をあげて、訴訟を提起した」と話した。
また、今回の裁判とは別に、数か月以内に原告3~4人による、「引っ越し事故賠償制度」に基づく賠償金の返還請求事件の提訴も予定しているという。指宿弁護士は、「同社で全国的に行われている制度のため、今後訴訟が大きく広がっていく可能性がある」と話した。
アートコーポレーション広報部は弁護士ドットコムニュースの取材に対し、「訴状が届いておらず、内容がわかりかねるためコメントできない」とコメントした。
(弁護士ドットコムニュース)