厚労省が10月に発表した「過労死白書」によると、2016年度の精神障害の労災申請件数は、過去最高だった前年度を71件上回り1586件だった。申請件数は2012年度にはいったん減少したもの、翌年以降は増加の一途を辿っていて、支給決定件数も400件台で高止まりしているのが現状だ。
精神障害による自殺事案、最も多いのは「仕事内容・量の大きな変化を生じさせる出来事」
2016年度に精神障害の労災申請が最も多かった業種は「医療・福祉」の302件で、前回より48件増加している。支給決定件数は「製造業」の91件が最も多い。
今回の白書では、2010年から2015年までに全国の労働局・労働基準監督署に蓄積された過労死等事案のデータを集計・分析。過去に精神障害で労災認定された事案が多い業種は、順に「製造業」(349件)、「卸売業・小売業」(290件)、「医療・福祉」(230件)だった。
労働者100万人あたりの精神障害事案数が最も多い業種は「漁業」の16.4件で、2位以下の「情報通信業」(13.5件)、「運輸業・郵便業」(13件)に差をつけている。漁業は、脳・心臓疾患の事案数でも100万人あたり38.4件と、唯一の30件台を記録していた。
精神障害で労災認定された労働者の年齢は、男女共に30代以下の若年層に多く、その後年代が上がるにつれて減少していくことが分かる。脳・心臓疾患の労災認定が50代にかけて増えていくのとは対称的だ。一方、精神疾患による自殺は男性の40代、女性の29歳以下に多く、男女で傾向が分かれた。
労災認定理由は、精神障害事案、精神障害による自殺事案共に「仕事内容・量の大きな変化を生じさせる出来事」 が最も多いが、2位は、精神障害事案では「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」だった。職場での嫌がらせやいじめに関する相談件数は年々増えており、昨年は過去最多の7万917件に上っている。自殺事案の2位は月160時間以上の時間外労働を指す「極度の長時間労働」だった。
周囲にハラスメントを受けている人がいるだけでもメンタル状況に悪影響
2015年度の調査結果の分析からは、職場環境とメンタルヘルスの関連が示唆された。メンタルヘルス状況は日本版GHQ(精神保健調査票)に基づき、1点~12点で評価している。
ハラスメントを受けていない状態を0点とすると、自分がハラスメントを受けている場合は1.9点上昇する。また、自分が被害に遭っていなくとも、周囲にハラスメントを受けている人がいるだけで0.56点上がっており、職場環境が労働者のメンタルヘルスに及ぼす影響の大きさが改めて提示された。
このほか、労働時間の正確な把握や残業手当の全額支給はメンタルヘルス状態を良好にするとも示唆されている。政府は、こうした調査結果を元に将来的に過労死をゼロにしたい構えだ。