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アイドルの声優活動なぜ増加? 2つのシーンに起こった変化を読む

2017年10月10日 12:52  リアルサウンド

リアルサウンド

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・増加するアイドルから声優への転身


 10月1日、Dorothy Little Happyの髙橋麻里が、声優活動を開始することを発表した。彼女は同日付けで声優プロダクションのオブジェクトに声優として所属。今後はDorothy Little Happyと声優の両活動を並行して行っていくという。かねてよりアニメ好きであることを公言していた髙橋。2015年にはGEMやX21のメンバーらも参加したドリーム・ユニット、マジカル☆どりーみんの一員としてTVアニメ『ジュエルペット マジカルチェンジ』のオープニングテーマ「マジカル☆チェンジ」を歌ったことはあるが、声優としてはこれが最初の一歩となる。今後の活躍が期待されるところだが、実は近年、彼女のようにアイドルと声優を兼業したり、あるいはアイドルから声優に転身する例が増えているのだ。


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 現役で活躍するアイドルのなかで声優業も盛んに行っている人物といえば、9nineの佐武宇綺(『スペース☆ダンディ』QT役、『モブサイコ100』ツボミ役ほか)や、グループのコンセプト自体がアニメと密接に関わる「アニメ“勝手に”応援プロジェクト」ことA応Pの広瀬ゆうき(『UQ HOLDER! ~魔法先生ネギま!2~』時坂九郎丸役、『南鎌倉高校女子自転車部』秋月巴役ほか)などが思い浮かぶ。さらに今年に入って声優業に本格進出したのが、乃木坂46の松村沙友理だ。まず『少年アシベ GO!GO!ゴマちゃん』にてTVアニメ初出演すると、4月にDVDがリリースされたドイツとウクライナの合作によるCGアニメ映画『ドラゴン・キングダム ~魔法の森と水晶の秘密~』では主人公のニッキー役を担当。さらに7月クールのTVアニメ『クリオネの灯り』でもミノリ役で主演し、まだ荒削りながらも存在感のある演技を披露している。


 また、AKBグループからも多くの声優が輩出されている。元AKB48の仲谷明香は声優をめざすため2013年3月にグループを卒業。その後、MAGES.のタレント事業部にあたるアミュレートに所属し、『アイドル事変』や『CHAOS;CHILD』といった作品の主要キャラを演じている。元SKE48の秦佐和子は現在マウスプロモーションに籍を置き、この秋には新アニメ『このはな綺譚』(TOKYO MXほか)でメインキャラの皐役を担当。元AKB48の佐藤亜美菜は2014年5月の卒業直後に大手の大沢事務所に移籍し、同年に『アイドルマスター シンデレラガールズ』(以下、デレマス)の橘ありす役を掴んだ。2016年6月にAKB48を卒業した石田晴香は、この夏に放送された『アクションヒロイン チアフルーツ』で元アイドルという設定の青山勇気と、その双子の妹である青山元気の2役を演じ分けるなど、しっかりと実力を付けてきている。この4人はいずれもAKB48をモチーフにしたアニメ『AKB0048』のメインキャストを決める声優選抜を勝ち抜いたメンバーであり、そのころから声優という仕事に対する情熱や憧れを表に出していた。


・声優シーンでも“ステージ経験”が求められるように


 その佐藤はデレマスのライブ公演において橘ありす役として舞台に立ち、アイドル時代に培ったパフォーマンス力を発揮して好評を得ているが、同様に昨今の二次元コンテンツではキャラクターとそれを演じる声優をシンクロさせた2.5次元的なステージを展開するケースが増加。いまや演者には声の演技のみならず、歌やダンスでキャラを表現することも求められるわけだ。そんななかで即戦力として活躍できるのが、ステージ経験の豊富なアイドルという人材。例えば、リズムゲーム『スクールガールストライカーズ ~トゥインクルメロディーズ~』に登場する5人組アイドルユニット、アプリコット・レグルスのキャストには、callmeのMIMORIこと富永美杜、仮面ライダーGIRLSの秋田知里、鷲見友美ジェナが起用されている。このユニットはゲーム内での活動のみに留まることなく、現実でもキャスト陣によるライブを積極的に行っているのだが、5人中3人が経験者ということもあって安定したステージを展開している。


 リズムゲームということであれば、『ラブライブ!』シリーズの新作アプリ『ラブライブ!スクールアイドルフェスティバルALL STARS』も注目すべきタイトルと言える。2018年に配信開始となるこのゲームには、μ’s、Aqoursに続く存在として、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会(PDP)という9人組のグループが登場。そのメンバーのキャストとして、元X21の大西亜玖璃と、声優とアイドルのハイブリッド・ユニットであるi☆Risの久保田未夢が選出されているのだ。『ラブライブ!』といえば、現在の2.5次元アイドル人気を決定付けたコンテンツのひとつ。いまのところPDPの具体的なライブ活動は予定されていないが、今後の展開を見越した人選と考えてもおかしくないだろう。


 さらにバンドを題材としたメディアミックス作品『BanG Dream!』のリズムゲーム『バンドリ!ガールズバンドパーティ!』には、元SUPER☆GiRLSの前島亜美が参加。アイドル・バンドのPastel*Palettesでボーカルを務める丸山彩役に起用されている(同バンドのメンバーである若宮イヴ役には秦佐和子の名前も)。同作品からは、今年8月に日本武道館公演を行ったPoppin’Party、ゴシック・メタルなスタイルで人気を集めるRoseliaといった、声優陣が実際にライブで演奏も行うバンドが生まれており、Pastel*Palettesの2.5次元的な展開にも期待が高まるところだ。そのほかにも、KONAMIの新作アプリ『ときめきアイドル』に、元虹のコンキスタドールの岩倉あずさが参加するなど、音楽やアイドルと親和性の高いリズムゲーム界隈においては、今後もアイドルのキャリアを持つ人材の声優としての登用が増えていくのかもしれない。


 そのほかにもユニークな事例として、元さくら学院の佐藤日向の活躍が挙げられる。彼女は2014年3月にさくら学院を卒業後、TVアニメ『くつだる。』にメインキャストとして参加。2016年放送の『ラブライブ!サンシャイン!!』では、主人公グループであるAqoursのライバル的ユニット、Saint Snowの鹿角理亞役を演じるなど、数は少ないながらも声優仕事を行ってきた。そんな佐藤が今年新たに射止めたのが『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』の星見純那役だ。この作品はミュージカルとTVアニメーションが相互にリンクして展開するという、新しいタイプの2.5次元系メディアミックス・プロジェクト。メインキャストには、舞台女優出身の声優・三森すずこや、ミュージカル『美少女戦士セーラームーン』でセーラーマーキュリー役を担当した小山百代など、舞台での演技経験者が多く抜擢されている。佐藤もまた舞台出演歴があり、この9月に初演されたミュージカル『少女☆歌劇 レヴュースタァライト -The LIVE-』においても、堂々とした演技と歌唱、そしてダンスでの細かな動きで観客の目を奪っていた。


・“声優アイドル”を謳ったグループも続々登場


 このように、いまや声優という職業は演技だけでなく複合的なスキルを求められる傾向が強まっており、そのことがステージでのパフォーマンス力の高いアイドル出身者、あるいは現役アイドルの声優業への進出を後押しする一因となっている。加えて、先述のi☆Risや、アイドルを題材にしたアニメ作品『Wake Up, Girls!』から誕生した声優ユニットのWake Up, Girls!のように、声優を軸足にしつつアイドル的な活動を行うグループの躍進もまた、そういったシーンの垣根を取り払う役目を果たしているように思われる。


 ここにきて、秋元康×アニプレックス×ソニーミュージックのバックアップによる22/7、指原莉乃がプロデュースする=LOVE、アイドル専門レーベルの<Stand-Up! Records>から登場したピュアリーモンスター(アイドルカレッジの中島優衣が兼任で在籍)といった、声優アイドルを謳ったグループが続々と誕生しているのも象徴的だ。ももいろクローバーZや私立恵比寿中学などの人気アイドルを抱えるスターダストプロモーションも昨年に声優部を新設し、そこに所属する7人の女性声優でサンドリオンというユニット活動を展開している(先述の小山百代もメンバーのひとり)。


 もちろん声優が人気職となったいま、単純に将来の進路として声優になることを選んだり、アイドル卒業後のステップアップの道として声優業に進む人も多いことだろう。元アイドリング!!!13号の長野せりなは以前から声優を志していたことで知られ、現在はその夢をかなえて声優事務所のアクセルワンに所属している。アフィリア・サーガ・イースト(現・純情のアフィリア)のレイミー・ヘヴンリーこと八島さららや、コヒメ・リト・プッチこと小日向茜もグループ在籍時から声の仕事に就いており、いまや声優として活躍中だ。


 声優といえばまず演技力が必要とされるわけだが、さまざまな役柄を自分のなかでイメージして表現していくには、想像力はもちろんのこと人生経験の豊富さが役立ってくるはず。それであれば、アイドルという誰しもが経験できるわけではない特別な活動を行っていたことは、演技の大きな糧となることだろう。実際に日高のり子や櫻井智、岩男潤子、宍戸留美のように、アイドル活動を経て声優としての評価を得た人物は多い。なによりタレントにはやはり何かしらの華が求められる。声優がアイドル視され、アイドル的な活動が求められる事例の多くなったいまこそ、ここで紹介した彼女たちが声優として大きな華を咲かせるタイミングなのかもしれない。(北野創)