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GT300決勝《あと読み》:GT300で展開された3種類の“戦略のバラエティ”。上位はどんな作戦を採った!?

2017年10月10日 10:52  AUTOSPORT web

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スーパーGT第7戦タイは、決勝スタート直前にスコールがあり、これが各チームの戦略を分ける形に
タイミングとしては、まさに最悪──。スーパーGT第7戦タイの決勝レースは、グリッドでのまさかのスコールに見舞われ、グリッドは混乱を極めることになった。GT500クラスでは、オーソドックスな戦略を採ったチームが上位を占めたが、GT300は3種類の“戦略のバラエティ”が存在した。テレビ中継では伝わりにくかったGT300の戦略をおさらいしてみよう。

 まず、結果からおさらいしておくと、優勝はJMS P.MU LMcorsa RC F GT3。2位はグッドスマイル 初音ミク AMG、3位はD'station Porscheとなった。4位は僅差でARTA BMW M6 GT3、マネパ ランボルギーニ GT3、SYNTIUM LMcorsa RC F GT3と続いている。JAF-GT勢の最上位がUPGARAGE BANDOH 86の7位だった。

●パターンA:ウエットスタート/1ストップ組
主な採用車=JMS P.MU LMcorsa RC F GT3、グッドスマイル 初音ミク AMGなど
 まず、パターンAはグリッドでウエットタイヤを装着し、ドライバーひとりが最低限走行しなければならない周回数(今回のレースは19周がミニマムだった)をウエットで走行し、ピットストップを1回で終わらせるパターン。トップ2がこの戦略を採った。

 この作戦のポイントは、急速に乾き始めた序盤の路面に対して、どれだけウエットタイヤでのタイムロスを少なくできるか。また、GT500の最低規定周回数に対して、GT300はきちんと計算を行わないとミニマムの周回数が予想できない。

 ちなみに、優勝したJMS P.MU LMcorsa RC F GT3は、序盤からウエットタイヤが苦しく、少しずつポジションを落としてしまっていた。「もうタイヤが3周目くらいからキツくて。ガンガン抜かれはじめて、ピットにも『あと何周!?』と聞いているような状況でした」というのは中山雄一だ。

 そこでミニマムの19周を計算しピットインしたのだが、この19周で入ったのが奏功した。ちなみに、後半の坪井翔が43周を走行できたのは、レクサスRC F GT3の燃費の良さがあったからこそだったという。また、初のタイで43周をきっちりこなした坪井も賞賛されるべきだろう。

「ウチはそのタイミングでは、燃費の関係で入れなかった」というのは、グッドスマイル 初音ミク AMGの河野高男エンジニア。グッドスマイルは20周でピットインした。

「グリッドではスリックだと思っていたんだけど、片岡(龍也)がウエットだと言って、スタートの映像を見て、無線で『ありがとうございます』って言った(笑)。途中でスリックに替える作戦もあったけど、タイムロスを考えると、それは採らなかった」という。

 この燃費の差が1位と2位を分けた形にもなった。そしてこの2台が、ランキングでも1位(グッドスマイル 初音ミク AMG=65点)、2位(JMS P.MU LMcorsa RC F GT3=56点)で最終戦に挑むことになる。

●パターンB:スリックスタート/1ストップ組
主な採用車=D'station Porsche、B-MAX NDDP GT-Rなど

 パターンBは、ある意味でギャンブルと言えるスリックタイヤでのスタート。ちなみに序盤の5~6周は、スリック組はコースに留まるのが精一杯……というようなペースで周回を重ねていた。手元で確認したところではスリック組はD'station Porsche、GULF NAC PORSCHE 911、Studie BMW M6、30号車TOYOTA PRIUS apr GT、VivaC 86 MCといったところだったが、そのなかで図抜けたペースだったのが、D'station Porscheのスタートドライバーを務めたスヴェン・ミューラーだった。

 ミューラーはポルシェのファクトリードライバーだが、このウエットのなかでのペースは圧倒的。RRのポルシェはトラクションに優れるとはいえ、序盤、GT500でスリックスタートを選択したWedsSport ADVAN LC500をオーバーテイクするシーンも見られている。実は、チームの武田敏明監督はグリッドではウエットを想定していたが、“鶴のひと声”でスリックを推したのは、まさかの“大魔神”佐々木主浩総監督だという。

「野球でも競馬でも、世界を相手に戦ってきた勝負師の勘でしょうかね」というのは藤井誠暢。これでD'station Porscheはスリックスタートとなったが、ミューラーがスリック組のなかでも最も速いペースで走り、序盤のウエット組との差を1分程度に留め、路面が乾いてからハイペースでギャップを削ったことで勝機が出てきた。

 チームは佐々木総監督のスリックのチョイスで作戦を変更。ミューラーをペースが落ちるまで引っ張り、藤井に交代する作戦を採った。本来であれば、二輪交換等の作戦を採ればさらに優勝のチャンスもあったが、手持ちのタイヤの関係でそこはギャンブルには至らず。藤井が履いたタイヤも組み合わせ的に苦しいものだったが、さすがの技でARTA BMW M6 GT3のショーン・ウォーキンショーの追撃を許さなかった。

 D'station Porscheが示したとおり、この作戦のポイントはスリックでいかにウエット路面を速く走り、タイムロスを最小限にするかだった。これに失敗してしまったのはVivaC 86 MCで、軽い86 MCではさすがに厳しく、連覇の可能性もこれで消滅してしまった。

 VivaC 86 MCはなぜこの作戦を採ったのか。土屋武士監督に聞くと「グリッドでチームメンバーの多数決をとった」というから驚きだ。「グリッド位置から言っても、上位と同じ戦略を採ってもダメだし、みんなで決めたことだから後悔はない。でもあと少し早く乾いてくれていれば」と土屋監督。

●パターンC:ウエットスタート/2ストップ組
主な採用車=GAINER TANAX triple a GT-R、SYNTIUM LMcorsa RC F GT3など
 パターンCは、多くのGT500チームが採った戦略。ウエットタイヤでスタートして、路面が乾き始めてスリックとのタイムがターンオーバーした時点でピットインし、スリックに交換。その後ドライバー交代/給油を行う2ストップ作戦だ。

「3号車(B-MAX NDDP GT-R)や33号車(B-MAX NDDP GT-R)のペースがウエットよりも速くなってきそうなタイミングで、スリックにしました。3号車の前でルーティンの作業がこなせるようにプッシュして、その作戦自体は当たったのですが、33号車のペースが良くてうしろになってしまった」というのはGAINER TANAX triple a GT-Rの富田竜一郎。

「後半フルプッシュして、その後も表彰台が狙えるペースだったのですが、残念ながらガソリンが足りませんでした。すごく残念です」と最終的にはガス欠でストップを喫しているが、D'station Porscheの終盤のペースが苦しかったことを考えると、GAINER TANAX triple a GT-Rも表彰台は狙えた可能性が高い。

 一方、同じ作戦を採ったのはSYNTIUM LMcorsa RC F GT3。吉本大樹が「自分に(ピットインタイミングの)判断を任せてもらったのですが、スリックで走っているマシンのラップタイムを聞きながら走っていた」とウエットスタートからスリックに交換、その後引っ張り、終盤飯田章に交代する作戦を採った。

「(グッドスマイル等と同様に)ミニマムまで走る作戦もあったけど、そこまでは僕たちのレインタイヤはもたなかった。いずれにしても僕たちは下位グリッドだったし、ドライで追い上げる攻めのレースをしたかった」と吉本は言う。

「結果的にラップタイムでは苦しかったけど、入ったタイミングも完璧だったし、上出来な結果だったのではないでしょうか」とこちらは6位フィニッシュ。21番手からのスタートだったことを考えると、吉本の言うとおりだ。

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 結果的に、今回のスーパーGT第7戦タイのGT300は、前述のような3パターンの戦略が存在し、それぞれに結果を残せたチーム、残せなかったチームがいた。これもタイヤ、車種、ドライバーの実力等、さまざまなバラエティに富むGT300だからこそ実現したレースだったのだろう。