インディカー・シリーズのシーズンを終えると毎年F1日本GPに姿を見せる佐藤琢磨だが、今年の鈴鹿凱旋は本人の期待以上に盛り上がった。
琢磨自身もインディ500日本人初制覇の偉業が、このように祝福されるとは思っていなかっただろう。
金曜日に現地入りした琢磨は、午後からサーキットに入った。まずはデモランをするHONDA RA300のシート合わせをし、そのあとはVIPラウンジやパドッククラブの訪問など、分刻みでスケジュールをこなしていく。
土曜日朝のステージでは登壇するやいなや、場内から拍手と祝福の声援が鳴り止まず、琢磨本人もどうしていいか迷ってしまうほどだった。それでも琢磨はまずファンへ感謝を述べた。
「僕の夢でもあったインディ500を今年勝つことが出来ました。多く人のサポートがあってアメリカでレースしてきて、8年目で叶った夢でしたけど、ファンの皆さんがここまでサポートしてくれたおかげだと思います。もうありがとうの言葉しかありません」
そして、その礼を表すように右手のチャンピオンリングをファンに見せる。場内のファンもオオ!と言う歓声が上がった。
琢磨を祝福したのはファンだけではない、パドックにいたレース関係者、イベントで同席したゲスト、誰もが琢磨に向けて「インディ500優勝おめでとう!」と開口いちばんに語った。
ステージで同席したデイモン・ヒルは「父(グラハム)以外で、初めて会ったインディ500チャンピオンだよ」と言い、琢磨の偉業を讃える。また前夜祭で意外にも初共演になった小林可夢偉も、「インディ500は朝までテレビで見ていて、全然寝られなかったですよ」と興奮をステージで話していた。
琢磨はトークショーをするだけでなく、50年前のF1マシンHONDA RA300で鈴鹿を走行。鈴鹿のコースを懐かしむように爆音を響かせファンを沸かせていた。
どこへ行っても引っ張りダコの琢磨だったが、そんな琢磨にいちばん食い付いていたのは、この日本GPを制したルイス・ハミルトンだった。
レースを制し、表彰台に上がると琢磨は国際映像に放映されるインタビュアーとしてポディウムに登場。流暢な英語でハミルトンの優勝を讃えた。するとハミルトンは琢磨のリングを注視、「すげえリングだな、カッコいい」と琢磨に呟く。
その後マックス・フェルスタッペン、ダニエル・リカルドのインタビューを終えて、再びハミルトンに戻ると、今度はハミルトンが「ちょっとはめていい?」と琢磨からリングを借りて、自分の指にはめてポーズを取った。
これが全世界に放映されたのは、思う壺だったろう。琢磨がインディ500チャンピオンであることは、世界中何億人と言うモータースポーツファンに知れ渡ったのだ。
琢磨はこの鈴鹿でインディカー・シリーズのアンバサダーとしても最高の仕事をしたことになる。
今年アロンソがインディ500に出場したことも、ルイスがチャンピオンリングを欲しがったことも、インディ側にとっては格好のプロモーションになったはずだ。
琢磨は月曜までトークショーを行って鈴鹿を後にした。F1時代とはまた違う鈴鹿へのカムバックだったが、今年ほどファンに祝福されたこともなかっただろう。琢磨がレーシングドライバーであり続ける限り、鈴鹿はいつまでも琢磨の故郷なのだ。