2017年10月09日 09:42 弁護士ドットコム
里親の元で暮らす割合を7年以内に75%に、特別養子縁組を5年で倍増させるーー。厚生労働省の有識者会議(新たな社会的養育の在り方に関する検討会)が8月はじめ、特別養子縁組を5年間で倍増させ、年間1000件の成立などを目指す報告書をまとめた。
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特別養子縁組は、「父母による養子となるお子さんの監護が著しく困難又は不適当であること等の事情がある場合において」、「養子となるお子さんの実親(生みの親)との法的な親子関係を解消し、実の親子関係を結ぶ制度」(厚生労働省サイトより)だ。実親の同意、養親の年齢、養子の年齢、半年間の監護などの要件を満たした上で、家庭裁判所の決定を受け、成立する。
厚生労働省の有識者会議「新たな社会的養育の在り方に関する検討会」がまとめた報告書「新しい社会的養育ビジョン」の中で、主に次のような提案をしている。
・未就学児(小学校入学前の子ども)は、原則として児童養護施設や乳児院への新規入所措置を停止する
・親元で育てられない子どものうち、未就学児の75%以上、小学生以上の50%以上を里親らの元で暮らせるようにする
・特別養子縁組を5年間で倍増。年間1000件の成立を目指す
現在、親元で暮らしていない子どもの数は、全国で約4万5000人(2016年、厚生労働省調査)。里親などの元で暮らす子どもは約6000人、残りの子どもは児童養護施設や乳児院などに入所している。
昨年、成立した改正児童福祉法は、家庭的な環境での養育を推進するとしており、今回の報告書は、そのための解決策として特別養子縁組の促進を提示したと考えられる。
特別養子縁組に詳しい弁護士は、どう評価しているのだろうか。
小野寺朝可弁護士は、今回の提案について「理想としては素晴らしいと思いますが、特別養子縁組は単純に成立だけすればよいというものではありません。数字だけを追い求めるあまり、肝心の子どもの福祉につながらないという結果にならないでしょうか」と、慎重な見方を示す。
「特別養子縁組の事案を通じて、子どもにとって特定の人から愛情を受けることの大切さ、家庭的養護の素晴らしさを実感しています。ただ、反面、家庭に子どもを委託できさえすればよいということではなく、そこには多くの難しい問題があることも事実です。どの親にどの子を託すのかというマッチングにはケースワーカーとしての知識や経験も重要になると思います。
今でさえ、児童相談所では抱える案件が多く、人手が不足していると聞きます。そのような問題を含んだ特別養子縁組に対応するだけの余裕があるのか疑問はありますね」
そこで、小野寺弁護士は、国主導ではなく、民間のあっせん団体の活用を提唱する。
「出産後の遺棄や虐待死から子どもたちを守るためには、望まない妊娠で悩む女性たちを支援する必要がありますが、そのような支援に対応する公的な窓口は十分ではありません。
他方で、民間のあっせん団体の中には、窓口を設けて、自分で育てられない女性たちをカウンセリングなどを通して出産前から支えている団体もあります。出産前からの継続的な支援によって、出産後の遺棄や虐待死を防ぐこともできますし、また実親さん自身にとっても、妊娠・出産をなかったことにするのではなく、自分自身で受け止めて新しいスタートを切ることが可能になります。
厚生労働省には、民間のあっせん団体が養子縁組あっせんにおいて適切な支援ができるよう、現場の声も聞きながら、一定の指針を作り、適切に管理監督していくことが、今まさに求められています。
また、日本で特別養子縁組が広がっていくためには、この制度に対する社会の受け止め方を変えていく必要があります。特別養子縁組制度というのは、子どもを欲しい人のための制度と捉えられがちですが、第一に子どものためのもの。
『子どものためにどうしたらいいのか』という発想に立ち、数字を追うばかりではない指針を作る必要があるのではないでしょうか」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
小野寺 朝可(おのでら・ともか)弁護士
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