2017年10月08日 10:33 弁護士ドットコム
「脱税を密告したい」。こんな相談がネットのQ&Aサイトなどで散見されます。
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その対象は、自分の在籍している会社、元夫が経営する会社など様々ですが、自分が密告者だとバレるのは避けたいようです。
もし、脱税を知ってしまい、税務署に伝えようと考えた場合、どのような手段をとればいいのでしょうか。実名で告発してもバレずに済むのでしょうか。久川秀則税理士に聞きました。
税務署への内部告発の脱税情報提供は少なくありません。
ただ、内部告発をしてくださる従業員などの方々が、会計や税務に関する知識が乏しいことが多く、必ずしも脱税として社会的な制裁を受けるということにならない事案が多いと思います。例えば取引先からリベートやキックバックをもらっていても、正しく帳簿に収益として計上しているならば、税務では特段の問題にはなりません。内部告発情報から、直ちにマルサ、国税局の査察部が動くことはまれで、基本的には税務署での税務調査において、その内部告発情報は活用されます。
社会的な制裁を受けるレベルの脱税として取り扱われるのは、例えば不正な申告漏れを行っている所得が1億円以上、とご理解いただければいいでしょう。ただ内容によっては5千万円程度の不正所得であっても、査察が動くこともありますので、注意が必要です。
不正所得が1億円規模の脱税事案であれば、ほぼ100%、マルサ、つまり国税局の査察部が動くことになり、脱税事案として、立件告発して、脱税犯として裁判所送りになり、刑罰が課せられることになります。
脱税事件は公開裁判ですので、被告となればマスコミに報道されることも普通で、社会的な制裁を受けることになるのは間違いありません。場合によっては取引先から取引を打ち切られ、銀行取引も難しくなり、よほどのことがなければ、同じ場所で同じ名称で事業を継続することは困難になります。
1000万円以下の不正な申告漏れの場合には、税務署による税務調査によって、修正申告・納税を求められ、原則重加算税を課される処分が行われますが、事案は税務署や国税局の内部で処理されてしまうため、社会に公開されることはありません。
重加算税の賦課という厳しいペナルティはあっても、事業の継続自体が不可能になることはほぼないといえるでしょう。
内部告発を行う場合によく行われるのは、手紙や資料などを差出人不明の郵便物、投書で所轄税務署に送るという方法です。実名を明かしての税務署への内部告発は極めて少ないと思います。
もちろん、税務署では実名を公表しての内部告発をしてくれた場合には、個別に内部告発者と面談して事実や資料の確認を詳細に行いますが、具体的な税務調査の結果は、守秘義務がありますので内部告発者には開示されません。
実名の内部告発を行った人の情報は、秘匿が必要な場合には税務調査においてはもちろん秘匿して行われますし、内部告発があったことがわからないように税務調査を行います。
しかし資料情報の内容から、誰から内部告発が行われたのか推察可能となってしまう場合もあり、また、税務調査の過程で、経営者から内部告発者が特定されるようなことも、場合によっては起こりえますので、内部告発したことを絶対に秘匿したい場合には、慎重に行う必要があるといえます。
なお、公益通報者保護法では、通報者はそのことによる解雇等はされないよう保護されていますが、脱税等税金に関するものは、公益通報者保護法の対象外となっていますので、その点も注意が必要です。
【取材協力税理士】
久川 秀則(ひさかわ・ひでのり)税理士
東京国税局で敏腕国際税務専門官として多くの税務調査を行った後、退職。現在税理士として執筆やセミナー講師だけでなく、中小企業の経営・財務アドバイスや資金調達サポートまで幅広い分野で親身に関与先のサポートを行っている。
事務所名 :税理士法人 原・久川会計事務所(平塚橋事務所)
事務所URL: https://www.zeikei-support-tokyo.com/