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構想から完成まで20年、杉本博司がランドスケープ「江之浦測候所」を公開

2017年10月07日 13:33  Fashionsnap.com

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杉本博司 Image by: FASHIONSNAP
現代美術作家の杉本博司がファウンダーを務める小田原文化財団が、10月9日に開館する複合文化施設「小田原文化財団 江之浦測候所」(以下、江之浦測候所)を公開した。構想に10年、建設工事に10年と計20年を費やしたという杉本は現在の心境を「燃え尽き症候群」と表現し、達成感をにじませた。

 「江之浦測候所」が位置する小田原市江之浦地区は、箱根外輪山を背にして相模湾が望めるなど自然遺産に囲まれている。杉本が幼い頃、旧東海道線を走る湘南電車から見えたこの海景が「人間としての最初の記憶」だったという。
 同施設は海抜100メートル地点に設置された100メートルのギャラリー「夏至光遥拝100メートルギャラリー」をはじめ、石舞台、光学硝子舞台、茶室、庭園、門、待合棟などから構成。「京都市電 軌道敷石」(明治28年~昭和53年)や「京都五条大橋礎石」(桃山時代)、「光井戸」(室町時代)など、それぞれの建築物で日本で使われてきた建築様式および伝統工法を用いて、日本建築史を通観できるようにした。造園の石材では、数十年にわたり収集されてきた古墳時代から近世までの考古遺物および古材が中心に使われた。
 主な見どころの一つである「光学硝子舞台」は、京都 清水寺の舞台などで知られる懸造りの上に光学硝子を敷き詰めており、イタリア・ラツィオ州のフェレント古代ローマ円形劇場遺跡をモチーフにした観客席からは、硝子の舞台が水面に浮いて見えるように設計された。また、古人がかつて天空を側候していたことがアートの起源と呼ばれることから着想し、敷地内に冬至・夏至・春分・秋分それぞれの時期の日の出を見られるポイントを設定。光学硝子舞台では冬至の日の出を拝むことができる。
 「旧奈良屋門」は、2001年に廃業した箱根の名旅館「奈良屋」別邸の門を再現。関東大震災後の大正~昭和初期に作られたとされ、旅館では近衞文麿らが戦後の日本国憲法草案の一部を書いたほか、岸信介元首相が夏の別荘として使っていたと言われている。また、門の巨大な踏入石は旧笹川良一邸から移築。旧奈良屋門には戦後"A級戦犯"に指定された3人の存在が背景にあるなど、杉本は「一つ一つの建築物にストーリーがある」と説明した。
 同財団が取得した農地約1万1,500坪に対し、江之浦測候所の開発面積は約3,000坪。基本設計・デザイン監修は杉本と榊田倫之によるユニット「新素材研究所」が務めた。今後は光学硝子舞台で行うパフォーミングアートの公演を企画しながら、初期生命が発生した5億年前から生命の多様化が進んだ2000年前までの化石を展示する「化石窟」の建設を進めていく。「寿命と資金が続く限り、ここで建築作品を作っていく。それが終わるまでは死にきれない」(杉本)。入館料は税別3,000円。予約・入替制で入場を受け付けている。
■小田原文化財団 江之浦測候所所在地:神奈川県小田原市江之浦362番地1交通案内:最寄駅 JR東海道本線 根府川駅または真鶴駅主要用途:美術館・展示施設及び野外舞台、茶室等建築主:公益財団法人小田原文化財団構想:杉本博司基本設計・デザイン監修:株式会社新素材研究所実施設計・監理:株式会社榊田倫之建築設計事務所施工:鹿島建設株式会社特別支援:ジャパン・ソサエティー(ニューヨーク)開館日:木曜日~火曜日 週6日休館日: 水曜日入館方法:完全予約・入替制見学時間:4月~10月 1日3回/10時・13時・16時(約2時間・定員制)     11月~ 3月 1日2回/11時・14時(約2時間・定員制)入館料: 一律 3,000円(税別)※団体や前売り他、各種割引制度は実施なし※中学生以下の来館不可
公式サイト