ストフェル・バンドーン、そして2ピエール・ガスリーと2年連続でF1直下のカテゴリーであるGP2(現FIA F2)チャンピオンが、日本のフォーミュラカーレースにおけるトップカテゴリー、全日本スーパーフォーミュラ選手権に参戦していることはご存知の方も多いはず。近年、ヨーロッパをはじめとした世界各地から、スーパーフォーミュラへの参戦を希望するドライバーが増えている。その背景を、世界を知るドライバー、そしてエンジニア、そしてF1関係者たち7人に聞いた。
■スティーブ・クラーク(SUNOCO TEAM LEMANS 大嶋和也 担当エンジニア)
SUNOCO TEAM LEMANS 大嶋和也 担当エンジニアであるスティーブ・クラーク氏。F1ではメルセデス、フェラーリで上級エンジニアを務め、スーパーフォーミュラには2017年シーズン第4戦もてぎからチームに加入した。
クラーク氏はスーパーフォーミュラについて、マシンのパフォーマンスの高さ、特にその『パワー』に驚いたという。
「マシンは軽くてエンジンはパワフル、ダウンフォースはかなりあり、タイヤのグリップレベルも高い。エンジニアにとっても扱うのが簡単ではない、いい素材のパッケージだと思います」
「そして、参戦各チームがみんなハイレベルですね。以前はGP2と同等かと思っていたところもありましたが、スーパーフォーミュラは世界をリードするチャンピオンシップのひとつだと感じています」
■ライアン・ディングル(SUNOCO TEAM LEMANS フェリックス・ローゼンクビスト 担当エンジニア)
クラーク氏同様、SUNOCO TEAM LEMANSのエンジニアとしてフェリックス・ローゼンクビストを担当するのがライアン・ディングル氏。まだ30歳、新進気鋭の若き外国人エンジニアだ。
昨年は主に全日本F3でキャリアを重ね、今年はスーパーフォーミュラとともにスーパーGT GT500クラスのLEXUS TEAM WedsSport BANDOHでデータエンジニアも担当している。
スーパーフォーミュラ、スーパーGTのふたつのカテゴリーで戦うディングル氏が語るのは、ドライバーの実力の高さだ。
「僕は今年、ドライバーにすごく恵まれているんです。本当にラッキーなことで、フェリックスはもちろん、GT500で一緒に仕事をしている関口(雄飛)、国本(雄資)、山下(健太)、(小林)可夢偉、みんな(スーパーフォーミュラを走っている)速いドライバーたちばかりなんです。すごく楽しいです」
■ピエール・ガスリー(スクーデリア・トロロッソ/TEAM MUGEN ドライバー)
実際にドライバーとしてその『速いドライバー』たちと戦っているピエール・ガスリーはこれについてどう見ているのだろうか。
ガスリーは先日のマレーシアGPでF1デビューを果たし、日本GPへも参加。あくまでもF1フル参戦を目下の目標とするガスリーだが、今年のスーパーフォーミュラでも2勝を挙げ、トップの石浦宏明に0.5ポイント差のランキング2位でルーキーイヤーながらチャンピオンの可能性を残している。そのガスリーも、スーパーフォーミュラでの経験は今後につながると感じているようだ。
「(実際に参戦してみて)本当にタフでコンペティティブなチャンピオンシップだということがわかった。F1やLMP1などで実績を残してきた選手をはじめ、経験豊富ないいドライバーも多いし、彼らとこのレベルで競えることがうれしいよ」
■ルカ・バルディセッリ(ウイリアムズF1 ランス・ストロール コーチ)
ガスリーのようなF1を目指す若いドライバーが腕を磨く場として、ライバルチームながらスーパーフォーミュラの魅力に目を向けるのは元フェラーリのルカ・バルディセッリ氏だ。
バルディセッリ氏はフェラーリ時代のミハエル・シューマッハやキミ・ライコネンのエンジニアを務めた経歴を持ち、2017年シーズンはウイリアムズF1ドライバー、ランス・ストロールのコーチを務めている。バルディセッリ氏は、スーパーフォーミュラは行き場をなくしたF1を目指す若いドライバーにとって、とても重要な存在になりつつあると語る。
「かつてのGP2、現在のF2ではタイトルを獲得すると、その次の年は同じカテゴリーにエントリーできないルールになっています」
「F1のシートには限りがあり、そう簡単にステップアップすることができないため、かつてGP2でタイトルを獲得しながらもその後行き場がなくて消えていったドライバーが何人もいました」
「昨年の(ストフェル・)バンドーンや(今年参戦中のピエール・)ガスリーはもしホンダのサポートがなかったら、1年間レースできていなかったでしょう」
ドライバーとして成長期である時期に1年間、レースに参戦できないというのは失うものが大きい。
「スーパーフォーミュラは、F2を卒業した後もF1を目指す若手にとって、(スーパーフォーミュラは)なくてはならない存在になりつつあります」
■クリスチャン・ホーナー(レッドブル・レーシング代表)
レッドブル・レーシング代表のクリスチャン・ホーナー氏もバルディセッリ氏と同様に、F2からスーパーフォーミュラ、そしてF1という流れが今後も続くだろうと考えている。
「スーパーフォーミュラは、F1以上でもなく、F2以下でもない。F1とF2の隙間を埋めるカテゴリーとして、ちょうどいいレベルにあります。そういうフォーミュラはヨーロッパにはないので、ピエールのように、これからもヨーロッパから日本を目指すドライバーは出てくるでしょう」
■ジョニー・ハーバート(元F1ドライバー)
では、元F1ドライバーはスーパーフォーミュラというシリーズをどう見ているのだろうか。1990年代には日本でもレース活動をしていた元F1ドライバー、ジョニー・ハーバートは「F2はパワフルなGP3であるのに対して、スーパーフォーミュラはアジア版F1だ」と語る。
ヨーロッパの下部カテゴリーでは基本的にシャシー、エンジン、タイヤなどがワンメイク。対してスーパーフォーミュラはエンジンはトヨタ、ホンダのコンペティティブだ。ハーバートは「こういうカテゴリーはほかの国では見られない」と言う。
「いまではスーパーフォーミュラもタイヤはワンメイクになったけど、それでもパフォーマンスは高くマシンの限界を引き出すことができる。車体はF2と同じダラーラ製だが、ダウンフォースはスーパーフォーミュラのほうがはるかに高い」
「昨年スーパーフォーミュラとF1の両方のレースを経験したストフェル(・バンドーン)は、『F1よりもスーパーフォーミュラのほうが肉体的にきつい』と言っていたほどだ」
■ストフェル・バンドーン(マクラーレン・ホンダ ドライバー)
ハーバートによるとスーパーフォーミュラのマシンを操る難しさを語っていたというストフェル・バンドーン。バンドーンは2016年にはスーパーフォーミュラに参戦し1勝を挙げ、タイトル争いに加わっていた。成長中の若いドライバーであるバンドーンにとって、日本でのレース参戦は大きな経験になったのだという。
「(スーパーフォーミュラでは)言葉や文化が違うだけでなく、レースをやるうえでも違うチームに所属し、違うメンバーと一緒に仕事する。もちろん、セットアップの進め方もヨーロッパとは違う」
「スーパーフォーミュラには、日本でのレース経験が豊富なドライバーばかり。そういう人たちと一緒にレースをやるという環境はヨーロッパのジュニアフォーミュラにはないから、刺激にもなった。日本のすべてのサーキットを熟知している彼らと戦うのは、とてもタフだったよ」
世界を知る男たちが評価するスーパーフォーミュラ。注目のチャンピオン争いも最終戦を残すのみとなった。全日本スーパーフォーミュラ選手権第7戦『第16回JAF鈴鹿グランプリ』は10月21~22日、鈴鹿サーキットで開催される。世界の中でもハイレベルと評されるレースをぜひ現地で感じてほしい。