トップへ

遠藤憲一、クスリとさせる独特の面白さ 『わろてんか』“ギョロ目の鬼さん”の魅力

2017年10月07日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

写真

 テーマは「笑い」。朝ドラ『わろてんか』(NHK総合)が、10月2日より元気にスタートした。明治35年、大阪が商都として栄えていた時代。老舗薬種問屋「藤岡屋」の長女として生まれた藤岡てん(新井美羽)が、京都を舞台に日本中を幸せの笑顔に包んでいく物語だ。


(参考:松坂桃李、『わろてんか』子役との恋模様が話題に どんな設定も乗りこなす“素直さ”を読む


 第1週「わろたらアカン」では、個性豊かな人物が続々と登場した。てんと運命的な出会いを果たす旅芸人一座の藤吉(松坂桃李)、てんの幼馴染のコミカルな役回りの風太(鈴木福)、てんに優しい言葉を投げかけてくれる兄の新一(千葉雄大)。中でも、今週の山場とも言える10月6日の放送で、視聴者の涙を誘ったのがてんの父、儀兵衛(遠藤憲一)だ。


 “ギョロ目の鬼さん”の異名を持つ儀兵衛は、ほとんど笑うことのない頑固一徹。笑い上戸なてんに、大事な商談を台無しにされたことに怒り、彼女へ笑い禁止令を出すことから物語は回り始める。ある日、藤岡屋では台所に置いてある客用の酒が、夜な夜な減っていくという“化け猫”事件が起きる。てんと風太は夜中に台所を張り込むと、そこには儀兵衛が現れる。儀兵衛は普段、人前では酒を飲まない。てんは自分の失敗のせいで、父が酒を飲むようになってしまったと誤解してしまう。全てを見透かしていたしず(鈴木保奈美)は、儀兵衛が店の将来のためにドイツの薬品会社と取引をしたいと考えていること、しかし思うようにはいかず彼が飲めない酒を飲むようになってしまったことをてんに教える。儀兵衛は、ハツ(竹下景子)に仕事ぶりを見込まれ、入り婿になった。藤岡屋の当主として、その看板の重さに耐える儀兵衛を誰よりも理解しているしずの聡明さが感じられる。


 てんがドイツ人社長に謝りに出向いたこと、自分を責めていることを知った儀兵衛は、家族みんなが見ている前で酒瓶の中身を全て捨て、「これで化け猫は出てこうへん! てんが化け猫を退治してくれたわ」と話し、てんの笑い禁止令を解く。“ギョロ目の鬼さん”と言われた儀兵衛の表情には笑顔が満ち溢れ、父親としての貫禄と共に、娘を思う慈悲深さも垣間見える。時折見え隠れする心のほころび、厳格な父親の姿とのギャップに、思わず見ているこちらも心を掴まれる。そして、久しぶりに藤岡屋に笑い声が溢れた瞬間でもあった。


 振り返れば、てんが習い事の琴で「さくら」を弾くシーンでは、見守る儀兵衛が琴の音程に合わせユニークに音程を外し、周囲の人望も厚い儀兵衛が街中で大胆にくしゃみをするシーンでは、一斉に周りを歩く人々がコントのようにコケていた。思わずクスリとさせられる、独特の笑いを届けてくれるのが儀兵衛。明るい人物の多い『わろてんか』の中で、唯一のポジションにいるのが彼なのである。


(渡辺彰浩)