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佐藤健は真の“アクション映画”を生みだすーー『亜人』卓越した運動神経とストイックな役者魂

2017年10月07日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 「アクション映画」というジャンルは、映画のジャンルとしてはかなりポピュラーな部類にありながらも、日本映画のそれは何だかそのイメージとは少しばかり違っていた。たとえば香港のジャッキー・チェンやジェット・リー、ハリウッドではトム・クルーズのような、いわゆるアクションスターが、自らフィジカルの限界に挑んでいくというタイプはほとんどなかったのである。


参考:佐藤健と綾野剛が“エンドレスリピートバトル”繰り広げる姿も 『亜人』予告映像


 ところがこの10年ほどで、ドラマから映画化された『SP』シリーズで、V6の岡田准一がアイドルとして培ってきた身体能力を遺憾無く発揮してみたり、『十三人の刺客』で従来の時代劇よりも格段と激しい大立ち回りが繰り広げられたりと、徐々に日本の「アクション映画」自体が変わろうとしている風潮が見られるようになった。


 そして最近、実写化不可能と言われたアクション漫画が相次いで映画化され始めているのも、その風潮のひとつとして考えることができよう。ただ視覚効果で紛らわすのではなく、実際に生身の人間が演じるからこそ生まれる臨場感や迫力は、これだけ映像技術が進んだ今だからこそ、重宝され始めているのだ。


 現在公開中の映画『亜人』もまた、漫画雑誌「good!アフタヌーン」で連載されて人気を博し、アニメ化もされたアクション漫画のひとつだ。不死身の肉体を持ち、死はリセットと呼ばれ、何度でも戦える男たちが繰り広げる終わりなき戦い。到底映像化不可能と思われていた作品も、『踊る大捜査線』で知られる本広克行の徹底した娯楽要素を追求した演出によって、華麗なアクション映画として具現化することができたのである。


 絶対に死なない男が、大量殺人を目論む“絶対に死なない男”たちに戦いを挑むこの物語は、ビルに飛行機が突っ込むという衝撃的な場面を繰り広げたり、“幽霊”と呼ばれる黒い分身を動かしたりといったCGを駆使した描写の強さが印象的だが、それ以上に、役者たちの体を張ったアクションに目を奪われ続けるのだ。


 何と言っても、主人公を演じる佐藤健。彼は、日本映画界に真の「アクション映画」を生みだすためには欠かすことのできない俳優なのかもしれない。なにせ、2012年から3作シリーズで公開された『るろうに剣心』で主人公・緋村剣心の役を、ノースタントで演じきったというツワモノだ。役者生命をかけてでも、自分自身で壮絶なアクションに挑んだ彼の選択は、作品の迫力を増長させ、結果的に日本だけでなくアジア全土でのヒットに導いた。


 出世作『ROOKIES』(TBS系)で野球のセンスを発揮したり、プロフィールの特技欄にブレイクダンスと書かれているように、卓越した運動神経を持っている佐藤。デビュー作の『仮面ライダー電王』でも、その身体能力が数段抜けたものであることを見せつけている。とはいえ、彼をアクションスターに仕立て上げたのは、その身体能力だけではなく、前述した『るろうに剣心』のときに見せたような、とてつもなくストイックな役者魂があったからではないだろうか。


 今回の『亜人』では、強力な敵となる綾野剛(彼もまたライダー出身のアクション向き俳優の一人だ)の襲撃から逃れようと、序盤から狭い研究施設の中を走りぬけたり、ビルの屋上からジャンプ。そして終盤の決闘場面では、毒ガスの詰められた容器を死守するために全身を使ってより激しいアクションを見せつける。


 とりわけ、敵に向かっていくときに彼が見せる視線の強さは、演じているキャラクターとしてではなく、彼自身の肝の座り方が露わになっていると思わせる。彼のようなアクションスターが誕生したからには、日本のアクション映画は世界レベルへと進化していくはずだ。


■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。