2017年10月06日 19:43 弁護士ドットコム
「どうして、まつりでなければならなかったのか…」ーーそう言って、母は涙を浮かべた。
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「まつりの生き様が多くの人に注目され、共感を呼んで、世の中を動かした。世の中を変えたのがどうして、まつりの死でなければならなかったのか。世の中が変わる、そのときまでまつりに生きて欲しかった…」
日本の働き方に大きな一石を投じた電通の違法残業事件。発端となった高橋まつりさんの過労自殺が発表されたのは、2016年10月7日のことだった。
それから1年たった今年10月6日、東京簡裁は労働基準法違反で電通に対し、50万円の罰金を命じた。電通は控訴せず、このまま確定する見込みだ。
しかし、遺族にとって終わりはない。まつりさんの母・幸美さんは、1年前と同じ厚労省記者クラブの会見場で、「未だに死を受け入れれることができません」と変わらぬ娘への思いを語る。
「『娘に何と報告したいか』という質問をよくされますが、これが一番難しい。生きて帰って来て。それしかありません」
この1年をどんな気持ちで過ごしたのか。幸美さんは次のように話す。
「遺族が発言することは問題提起になるに違いない。強い怒りをもって、自分の声でコメントすることが私の使命。遺族が沈黙することは新たな犠牲者を生む」
世論を動かしたのは、まつりさんの置かれた過酷な労働環境だけでなく、幸美さんの言葉でもあった。1組の母娘の「悲劇」が、多くの人々に働き方への疑問を呼び起こさせた。
しかし、それは一過性ではないのか。本当に形になるのだろうか。幸美さんは語る。
「(過労死が起きる都度)企業は『二度と同じようなことを起こさない』と言う決意を表明されていますが、その言葉が空虚に思えるほど、なんどもなんども企業の不当な労務管理により過労死が繰り返されています」
人が死なないと変われない社会。過労死が出たのに、数年たてば元に戻ってしまう企業。
幸美さんは今後、過労死防止についての講演や学校でのワークルール(労働法)啓発活動に参加していくつもりだ。電通とは今年1月に、再発防止などについての合意書を交わした。毎年12月には、実践について報告を受ける約束で、「今後も電通を監視していきたい」と言う。
一人の女性の命を奪い、一人の母親の人生を、家族の生活を大きく変えた過労死。それは決して、特別なことではない。日本では、遺族が申請し、認定されるだけでも、年間200件ほどの過労死が起きている。実際にはこの何倍もの人が、過労が原因で亡くなっているとみられる。亡くなっていないだけで、過労死ラインを超える労働は珍しくない。
幸美さんは言う。「本日の判決が出た今、すべての企業が労務管理を改善していただきたい」
(弁護士ドットコムニュース)