2017年10月06日 17:22 弁護士ドットコム
オーガニックのヘアケア・スキンケア商品を販売する米国発祥の化粧品ブランド「ジョンマスターオーガニック」が、商品の成分表示ラベルに不備があったとして、38商品121万個を自主回収している。同社は9月21日、お詫びとお知らせをHPに掲載した。
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同社によると、対象はシャンプーやコンディショナーなどの商品。自主回収の対象製品の一部に、シリコンなど天然由来とはいえない合成成分が含まれていたことが確認された。健康被害の発生報告はなかったという。
「ジョンマスターオーガニック」はオーガニック植物や天然由来の商品であることを前面に打ち出し、若い女性を中心に人気を集めている。コンセプトは「地球に敬意を払うラグジュアリーブランド」とあるように、シャンプーが473MLで4212円(税込)とドラッグストアなどで販売している他社商品と比べて割高だ。
ネット上では「オーガニックを売りにして高いわけだから、回収して済む問題じゃない」「腑に落ちない」「使ってない成分にシリコンって確信犯」などといった厳しい意見が相次いでいる。
自主回収対象の商品は、「正しい表示の製品と交換」されるという。今回のケースは、何らかの法律違反にならないのだろうか。返金を求めることは可能なのか。岡田崇弁護士に聞いた。
化粧品の表示について、規制はないのか。
「化粧品といわれているものについては、薬機法(いわゆる薬事法)上、化粧品と医薬部外品に分類されます。
化粧品は人体を清潔に保ち保護するという衛生的な目的と、見た目を変えるという美容的な目的を持っています。それに対し、医薬部外品は穏やかながら人体に何らかの薬理作用を与えるという目的があります。そのため医薬部外品には、薬効を目的とした成分が配合されています。
本件の製品は、シャンプーやコンディショナーですが、これらは化粧品に該当します。化粧品については、化粧品基準というものが設けられています。これは化粧品に配合される原料に、入れてはいけないものと、入れる場合に配合制限があるものなどを示しています。
また、使用した全ての成分を表示しなければならず(全成分表示)、表示の順番は配合量が多い順(ただし、1%以下は順不同)とされています」
成分表示ラベルの不備には、どんな問題があるのか。
「メーカーによれば、本件製品については化粧品基準を満たしており品質に問題はないため、重篤な健康被害が発生するおそれはないとのことです。
しかしながら、独立行政法人医薬品医療機器総合機構のHPに掲載されたリコールの公示で新しい表示とこれまでの表示の成分を比較してみると、例えば『イブニングPシャンプー』では、旧表示では第1順位で主成分だったアロエベラ液汁が、新表示でははるか下になっており、ほとんど含まれていないのではないかと推察されます。また、コカミドプロピルベタイン、オレフィン(C14-16)スルホン酸Naといった成分が表示されていなかったのに含まれていました。
『C&Nデタングラー』(コンディショナー)では、同様にアロエベラ液汁がほとんど含まれていないと推察されるほか、シリコーン(ジメチコン、アモジメチコン)やセトリモニウムクロリドが表示されていなかったのに含まれていました。
『G&Cリーブインコンディショニングミスト』(コンディショナー)では、やはりアロエベラ液汁がほとんど含まれていないと推察されるほか、旧表示で表示されているブロッコリー種子油は入っていなかったことが分かります。また、セトリモニウムクロリドが表示されていなかったのにも関わらず、含まれていました。
リコールで公示されているのは36商品ですが、上記で述べた3商品以外の33商品についても、同じような成分や含有率の相違が見られます。
そもそも、薬事法が化粧品に全成分表示を求めている趣旨は、特定の成分で肌アレルギーを起こしたことのある人がそれを見ることで製品の使用を避けることができることになることからしても、本製品の表示は、薬事法の趣旨に反するのではないかと思われます」
このように偽った表示についての制裁はないのか。
「商品やその内容などを偽って表示することを規制する『景品表示法』という法律があります。商品やその内容などを、実際のものよりも著しく優良であると示した場合、景品表示法が禁止している不当表示(優良誤認)に当たります。
本件の場合、『植物由来100%』をうたっていたにもかかわらず、実際には一部の商品にシリコーンなどの化合物が入っていただけでなく、表示されていた成分や含有率が全く異なっています。
中には含まれていなかった成分もあることから、優良誤認にあたるといえるのではないでしょうか。不当表示には、再発防止などの措置命令の他、課徴金制度もあります」
消費者は返金を求められないのだろうか。
「旧表示を信頼して購入した消費者は、化粧品を購入した販売店に対して、消費者契約法の不実告知・不利益事実不告知に基づく取消や錯誤無効などを主張して、返金を求めることができる可能性があります。
のみならず、これだけ表示が誤っている以上、メーカーに対して、損害賠償請求を行うことも考えられそうです。ただ、この商品の単価で訴訟を提議するということになると、あまりメリットがないかもしれません」
そうなると、消費者は諦めるしかないのか。
「平成28年10月1日に集団的被害回復制度(消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律)が施行されています。
この施行日以降に締結された契約については、特定適格消費者団体による集団的な被害回復が可能になりました。この団体は東京と大阪に各1団体あります。
今回製品が多岐にわたっているので難しい面もあるかもしれませんが、今後、特定適格消費者団体による検討が待たれるところです。
今回の不祥事で十分メーカーの評判やイメージは落ちてしまったでしょうから、今後離れていく消費者もいるかもしれません。メーカーは、自主回収するとしていますが、自主回収しても表示を新しくした製品を交付するだけでは、旧表示を信頼して購入した消費者は救済されません。誠意ある対応を求めるところです」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
岡田 崇(おかだ・たかし)弁護士
日本弁護士連合会・消費者問題対策委員会委員
事務所名:岡田崇法律事務所
事務所URL:http://www.okadalaw.jp