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日テレ音楽特番『THE MUSIC DAY』総合演出が語る、アーティストの魅力伝える映像へのこだわり

2017年10月06日 08:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 音楽の魅力を広く伝えるメディアとして、大きな機能を果たすテレビの音楽番組。CD全盛期に比べて番組数が減少する中、それぞれ趣向を凝らした番組づくりが行われている。そんななかでも、注目すべき番組に焦点をあてていく連載『テレビが伝える音楽』。第四回は、日本テレビの音楽特番『THE MUSIC DAY』『ベストアーティスト』で総合演出、『バズリズム』(10月6日放送より『バズリズム02』)の演出を手がける利根川広毅氏にインタビューを行った。特番/長時間番組ならではの演出面での工夫や、アーティストの魅力をテレビパフォーマンスで伝えるための強いこだわり、さらには同氏が思い描く音楽特番の理想像などについて話を聞くことができた。(編集部)


(関連:『バズリズム』プロデューサーが語る、音楽との“フラット”な向き合い方


■“1年中歌を撮っている”という環境が何年も続いた


ーーこれまで手がけられてきた番組について教えてください。


利根川広毅(以下、利根川):僕はもともとフリーランスで日本テレビの音楽番組『Music Lovers』(2006~2013年)などでディレクターをやっていて、日本テレビに中途採用で入社しました。今年の10月1日で、入社丸4年になりました。これまでは、WOWOWのグラミー賞授賞式や『SUMMER SONIC』テレビ中継の総合演出など、日テレ以外にも各局音楽番組や特番の総合演出を担当してきました。入社してからは、DREAMS COME TRUE・中村正人さんがMCの『LIVE MONSTER』(2013~2015年)や、バカリズムさん・マギーさんがMCの『バズリズム』(2015年~)の演出、『ベストアーティスト』『THE MUSIC DAY』という音楽特番では総合演出を務めています。


ーー現在のお仕事を志したきっかけは?


利根川:音楽とスポーツが昔から好きで。学生時代はHIPHOP、R&B、SOULにハマってレコードを買い漁ったり、クラブでDJをやったりしていました。そのうちに音楽制作にも興味を持って、レコード会社の就職を目指しました。しかし、当時はほとんど採用がなくて、受けた数社も落ちてしまって。その後知人からテレビで音楽を扱う仕事があると紹介を受けたことがきっかけで、最初は制作会社にアルバイトとして入社したんです。


ーー日テレで初めて音楽番組を手掛けられたのは?


利根川:『Music Lovers』ですね。6人くらいディレクターがいるうちの1人、ローテーションのディレクターとして番組に携わりました。1カ月に1回くらい担当回が回ってくるんですよ。もちろん毎回収録にはいるんですけどね。『バズリズム』もそうですけど、ウィークリーの番組は、担当週でスタッフを分けて準備をしていくことがほとんどです。


ーー同じ番組でも担当回のスタッフによって変わる部分も?


利根川:その人なりの演出はある程度の腕が必要ですが、それぞれのカラーはやっぱり出ますね。現在の『バズリズム』では5人の担当ディレクターがローテーションを組んでいます。それを僕が常に管理して、方向性を決めながらクオリティを整えてオンエアしているんです。『Music Lovers』時代はローテーションで動く方のスタッフでした。


ーーその時代に学んだこと、今のキャリアに繋がっていることはありますか?


利根川:たくさんありますが、とにかくその頃は卓に座って歌を撮る、照明を決める、バックの映像をどのようにデザインして、どういうふうにカメラワークをして、そのカット割りをして、実際にライブを撮る、というのを1000本ノックのように年間に100曲、200曲やっていました。歌撮りのテクニックや演出力は、その時にかなり身につきましたね。その内にアーティストご本人との関係や、事務所、レコード会社とも信頼が築けていくので、どんどん仕事がしやすい環境になっていきました。全てが今に繋がっています。『Music Lovers』時代は日テレも音楽特番が多くて、ゴールデン時間帯の2時間の音楽特番とか、『ベストアーティスト』とか、年間何本も放送していました。自分はフリーでありながら、その画撮りーー中継車に座ったり、チーフのディレクターなどをやらせてもらって。とにかく特番があると、僕がその全部の歌を撮るみたいな循環になっていましたね。フェスの中継もその他の仕事でしていたので、1年中歌を撮っているという環境が何年も続いていました。その経験にはかなり鍛えられましたね。


■音楽特番のポイントは、放送時間帯の研究


ーー『THE MUSIC DAY』の2017年の放送を終えた実感や感想は?


利根川:生放送の番組をリアルタイムでたくさんの方に観ていただくことは常に考えていますし、もちろん今回もそれが大テーマでした。時間帯の研究と企画の選定、とにかく視聴者をテレビの前に集めることについて考えましたね。いろいろなことを実際にやってみて、来年に向けての課題もありました。毎年終わってみると「もう少しこうすれば良かった」という点はあります。終わってから言うのは簡単なんですけど、そこが番組作りの難しさでもありますね。


ーー今年の放送では、DREAMS COME TRUEはユニバーサル・スタジオ・ジャパン、乃木坂46は東京・明治神宮野球場、ディーン・フジオカさんはシンガポールなど、様々な場所からのライブ中継も見どころの一つでした。


利根川:メイン会場がホールというクローズドの場所なので、外の画をどのように入れるかについては、いつも考えていて。昼に始まって夜に終わる、10時間の放送の中で時間経過を感じられるように、中継の映像は有効的に活用しています。真昼間の外の画を使ったり、時差を感じる海外の画も入れたりして。各地の時間経過を意識しながら、臨場感や広がりを演出しています。


ーー中継の放送時間帯はすべて計算しているんですね。


利根川:そうなんですよ。ロケハンに行って日の角度も計算して。日の入りの時間も調べて、ベストタイミングはどこかを探っています。


ーー10時間の生放送は、そういう意味でも普段の音楽番組と違った演出が必要になってくる。


利根川:大きい番組だからこそできるスケール感も絶対に必要で。今年はその一つに、アジア6カ国での同時生放送がありました。GEMという日テレとソニーピクチャーズが作ったエンタテインメントチャンネルを使ったもので、去年から始めた取り組みなんですが、そのGEMの本拠地がシンガポールということもあり、今回ディーン・フジオカさんのライブ中継をシンガポールで行うことができました。東南アジアにいる人がGEMで日本の音楽番組を観ていると、いきなりシンガポールの画が出てくる。そうやって画面上で海外にいる視聴者とのつながりを持たせたかったということもありましたね。


ーー長時間番組は言わば、各放送局の技術力を披露する場でもあるのでは。


利根川:そうですね、本当に総動員で。中継を増やすとカメラマンや音声さんなど技術スタッフもたくさん必要になります。自分の中で、毎年『THE MUSIC DAY』ではテクニカルな新しいことを必ず取り入れるというテーマがあり、今年はセンターステージにドーナツリフターという、無限にステージが回転・昇降するという仕組みを初めて入れました。あとは、フライングモンタというカメラを去年から取り入れています。4本のワイヤーで釣られていて、自由な高さ・アングルで撮影することができるので、今までにない角度の画を撮ることができるんです。ドームやスタジアムなど大会場でのライブ収録ではよく使われていますが、それをテレビの歌番組でカット割りの中に入れて使うのはなかなかないのかなと。かなりコストもかかるので。


ーー特番の予算感だからこそできる見せ方。


利根川:歌を演出するツールとして、テクニカル、ハードの部分でも新しいことを取り入れながら、より良く歌を届けようという努力は毎年行っています。


■熱量が伝わる映像へのこだわり


ーー今年出演されたアーティストで印象に残っている方はいますか?


利根川:僕がブッキングした方々で言うと、布袋寅泰さん、竹原ピストルさん、UVERworldですね。布袋さんに関しては、今回番組のテーマ曲を書いていただきました。僕が小学生の時って、BOØWYが一番の“アイドル”だったんです。だから布袋さんとは話しているだけでも緊張しますが、テーマソングの書き下ろし、しかもそれをオープニングで弾いてほしいという企画書を持っていったのはかなり緊張しましたね。ご一緒できることが決まってからはどんな曲にするか意見を出させてもらったり、布袋さんがいつも使っているロンドンのスタジオでのレコーディングに立ち合わせてもらったり、カメラで密着させてもらったり……とても貴重な日々を過ごさせていただきました。


ーー布袋さんの『THE MUSIC DAY』への出演、一番よかったと思う点は?


利根川:僕としてはBOØWYを知らない若い世代に、布袋寅泰さんの音楽やギタリストのかっこよさを伝えたいという思いがあって。最近バンドシーンも少し元気がよくなってきましたけど、もう立ち姿だけでかっこいい、演奏してやっぱりかっこいい、カリスマ性のある人たちが少ないと感じているんです。そういうかっこいいミュージシャンの存在を知ってほしくて、布袋さんにご出演いただいたという経緯もあります。布袋さんは今年でキャリアが36年目なんですが、その間には映画『キル・ビル』のテーマ(「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY」)や嵐の「心の空」、ももいろクローバーZの「サラバ、愛しき悲しみたちよ」、今井美樹さんの「PRIDE」、もちろんBOØWYの楽曲など、ソロ以外にもたくさんの曲を手がけられてきていて。番組ではそれらを全部凝縮したメドレーも披露していただきました。ほとんどの曲はギターインストで、「さらば青春の光」だけワンコーラス歌っていただきました。ソロのギタリストというかっこいいジャンルがあることを、若者に知ってもらえるきっかけになっていたら嬉しいです。


ーー竹原ピストルさんは、どういった点が印象に残っていますか?


利根川:竹原さんは、僕がここ数年とにかくライブで一番衝撃を受けた方で。ライブを観て完全にやられてしまって、「一緒になにかやらせてください」とアプローチし続けていた一人ですね。彼はライブをたくさんやる方で、特に土日は早くから埋まってしまうので、ブッキングできるかわからない状態の時から放送日のスケジュールを空けておいていただくようお願いしていました。それくらい出てほしかった。僕が竹原さんのライブで一番やられた曲が、番組でも披露した「Amazing Grace」。特番の出演であれば、CMで使われていた「よー、そこの若いの」、ドラマ『バイプレイヤーズ』(テレビ東京系)の主題歌だった「Forever Young」を歌うのが普通の流れだと思うんですけど、彼にはどうしても「Amazing Grace」を歌ってほしくて。


ーー歌唱時の映像の熱量が、ネット上でも話題になっていた記憶があります。


利根川:竹原さんの歌唱シーンで特にこだわったのは、照明をピンスポットのみにしてステージを真っ暗にしたこと。あと、僕が竹原さんを撮る時は、絶対カット割りをしないようにしていて。歌に画が引き込まれるというか、カメラマンもスイッチャーも照明も、なにも手出しできない感じになるんです。彼が歌い出すと引き込まれて、表情のアップで押し切りたくなる。カメラワークをしなくてもいいんですよね。逆光でエッジが出た横顔を映すのが一番熱量が伝わるし、陰影ができることで歌っている時に飛ぶツバまではっきり映るんですよ。それがかっこよくて。


ーー画面に動きをつけずに暗がりの中で見せ続ける。かなり勇気のいる演出なのでは。


利根川:そうですね。勇気はいりますけど、迷わなかったです。テレビの画面は明るい方が数字が取れるという定説があるんですが、僕はそれを全然信じてなくて。最初に日テレに来た時もよく演出の人に「暗いぞ。どういう発注してるんだ」と怒られていました(笑)。自分が演出をやるようになってからもブレずにどんどん暗くしていて、たまにチーフプロデューサーからやりすぎだと怒られることもあるくらい(笑)。


ーーアーティストごとにもっとも良い見せ方を追求しているんですね。竹原さんのステージは、まさにライブで観た時のような臨場感がありました。


利根川:もちろんアイドルは明るくていいですし、アーティストや曲によってですよね。曲とその方の世界観に合っているかどうかだけだと思うので。


■テレビ出演への道を切り開いていくという役割


ーーそして印象に残っているアーティストのもう一組、UVERworldも今回の出演が視聴者の間で大きな話題を呼びました。どういう経緯で出演が決まったのでしょう?


利根川:昨年、復活タイミングでTHE YELLOW MONKEYに出演してもらったのですが、これがかなりインパクトがあったようで、その流れでいろいろなテレビ番組が決まるなど、1年間の盛り上がりの一端を担えた感じがありました。そのTHE YELLOW MONKEYのチームの近いところにUVERworldのチームがいて、「来年はUVERworldを盛り上げましょう」と声をかけたのがきっかけです。彼らはここ6年くらいほとんどテレビには出ていなかったのですが、まずは秋の『バズリズム LIVE 2016』に出てもらったりしながら、『THE MUSIC DAY』の出演へとつなげていきました。


ーーアーティストのテレビ出演への道を切り開いていくのも、役割の一つなんですね。


利根川:まさに僕らのやりがいでもあります。スタッフ一丸となって培ってきた、ミュージシャンとの信頼関係を大事にしながら進めている部分でもありますね。音楽番組のレギュラーは深夜枠の『バズリズム』しかない、あとは年に2回の特番しかないチームなので、正直アーティストに出演交渉することが難しい立場ではあって。だからこそ小さな番組でも良い仕事をして、特番の1回でも一生懸命良いかたちでオンエアして……という日頃の積み重ねです。昨年のTHE YELLOW MONKEYの出演がなかったら、UVERworldの出演もなかったと思いますし。布袋さんも実はかなりの年月をかけて交渉して、やっとご出演いただけた一人なんです。


ーーテレビ出演に対するミュージシャンの考え方は、今と昔で違いがもちろんあるとは思いますが、出たいという方ばかりではもちろんないですよね。


利根川:テレビに出ない方々の、出たくない理由もよく分かります。テレビに出るとかっこ悪く見えるんじゃないかとか、テレビに出る必要がそもそもないとか。でも、僕らは良いと思ったミュージシャンが少しでもいろんな人に届くお手伝いができると信じていて、少しでも多くの人に音楽を届けたいし、知ってほしいと思っています。UVERworldもすでに人気があるアーティストですが、彼らのライブの凄さをまだ知らない人たちに少しでも届けたいという思いで臨みました。


ーー特番はより多くの人が観る番組ということもあり、どうしても視聴者が望む、誰もが知っている出演者を揃えるというイメージもありましたが、新たな出演者にも積極的に目を向けていると。


利根川:ブッキングに関してはチーム全体で近い感覚を持つことができていて、新しいミュージシャンたちにもどんどん出演いただきたいという思いがあります。


■特番を通してミュージシャンたちの新しい魅力をどう届けるか


ーー改めて利根川さんが描く音楽特番の理想とはどのようなものでしょう?


利根川:『THE MUSIC DAY』には「年に1回ぐらい音楽漬けになろうよ」ということが根底のテーマにあると思っています。「テレビだからより分かりやすく、より派手に」を意識しつつ、素晴らしいミュージシャンたちが脚光を浴びる日にしたい。特番は多くの視聴者の注目が集まる場でもあるので、新しいスターを生み出したり、もう一段上のレベルに引き上げたりしたいですね。……テレビマンとしては正しくないかもしれないですけど、音楽や音楽業界全体が活性化するための力になりたい。視聴率が取りたいって、本当は言わなきゃいけないんでしょうけど、結果として視聴率が取れればいい。なんとか音楽の魅力を伝えていく。その結果、人がたくさん集まったという番組にしたくて。そのためにも、ブッキングは頑張らなければいけないなと思っています。


ーー良い番組を作って、結果、数字がついてくる。


利根川:それが理想ですよね。数字を追い求める中にミュージシャンを置くと、時に傷つけてしまうことがあるので、そういうことからはミュージシャンを守らなければいけない。紹介のVTRを面白くおかしく作らなきゃいけないみたいな、テレビの常識にはめることによってファンや本人が「だからテレビは出たくないんだ」って思うかもしれない。あと、特番ってどうしても披露する曲が名曲や代表曲に寄りがちで。視聴率だけを考えたら、大ヒット曲をとにかく並べるのがたぶん正解なんですよ。でも、そうではなく、僕はどうやって特番を通してミュージシャンたちの新しい魅力を届けるかを考えていきたいんです。


ーー今年の『THE MUSIC DAY』は新曲の初披露が多かったですよね。


利根川:周年を迎えた方や大ヒット曲を歌うべき人もなかにはいます。でも、日テレの特番は容赦なく新曲を歌わせてくれるとミュージシャンや視聴者の方々に思っていただけるようになったら嬉しいです。


ーー年末も近づいてきていますが、冬の音楽特番『ベストアーティスト』の放送予定は?


利根川:まだ番組の有無も情報が出ていないので、方向性ははっきり言える段階ではありませんが、またやるとなれば『THE MUSIC DAY』とはちょっと違う攻め方にはなるかなと。年末のイベントなので、どうしても今年の総ざらい的なことにもなるのですが、またみなさんを驚かせたり、楽しませることができるといいなと思っています。