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きのこ帝国 佐藤千亜妃が歌い継ぐ、日本語ポップスの素晴らしさ 第2回ソロカバーライブを観て

2017年10月05日 08:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 きのこ帝国の佐藤千亜妃が、ソロカバーライブ『VOICE2』を9月20日に開催した。ちょうど1年前にも開催され、佐藤の誕生日に好きな歌を歌って過ごす本企画。昨年は自身の音楽人生を立ち返るような選曲が並び、佐藤の歌い手としての軌跡を覗いたようだった。2回目となる今年は、ボーカリスト・佐藤千亜妃の表現のフィルターを通して、時代を超えて愛され続ける名曲たちを“歌い継ぐ”ようなステージが展開された。


(関連:佐藤千亜妃、“表現者”としての軌跡ーー音楽人生を辿ったソロカバーライブを観た


 今回の会場は、キリスト品川教会グローリア・チャペル。荘厳な雰囲気の中で歌声に酔いしれることができる、なんとも贅沢な空間だ。ライブは、ピアノに皆川真人、アコースティックギターに大城拓登を迎えたシンプルな編成で行われた。正面に十字架が掲げられたステージに、ゆっくりと佐藤が登場。呼吸を整えたのち、1曲目を歌いはじめた。


 この日は、大きく分けると3つのテーマによる選曲がなされていたように思う。まずは女性アーティストたちの楽曲、柴田淳「未成年」(2004年)、Aimer「蝶々結び」(2016年)、アリシア・キーズ「If I Ain’t Got You」(2003年)、UA「プライベートサーファー」(1999年)。張り詰めた空気が漂う中、前回の『VOICE』でも1曲目に披露していた柴田淳の楽曲で、頭から堂々とした歌声を響かせた。Aimer「蝶々結び」は一言一言に思いをこめて歌う姿、声を張り上げた際の安定感からはどことなくオリジナルに近い印象を受ける。洋楽カバーに挑戦したアリシア・キーズの「If I Ain’t Got You」は、フェイクを取り入れながら抑揚ある歌声を聞かせ、UA「プライベートサーファー」では「今日の曲の中で一番盛り上がる曲」と紹介し、会場の雰囲気を和ませた。


 次に歌われたのは、男性アーティストたちを中心とした4曲。スターダスト・レビュー「木蘭の涙」(1993年)、尾崎豊「I LOVE YOU」(1983年)、安全地帯「恋の予感」(1984年)と往年の名曲が続き、荒井由実「翳りゆく部屋」(1976年)も披露された。前のパートは原曲に近いかたちで歌われていたが、このパートでは各楽曲が持つ本質的な素晴らしさを、新たなアレンジを施して伝える仕上がりになっていた。その歌声に耳を傾けていると、言葉が聞き取りやすい発音、日本語の美しさや儚さを際立たせる息遣いなど、佐藤のボーカリストとしての特徴にも気づくことができた。


 そして最後のパートは、2000年以降に誕生したJ-POPの名曲たち。Mr.Children「しるし」(2006年)、BUMP OF CHICKEN「レム」(2004年)、ハナレグミ「ハンキーパンキー」(2004年)、チャットモンチー「素直」(2007年)といった選曲には、佐藤の音楽的センスを感じざるを得ない。Mr.Childrenは幅広い音域で見事に歌いきり、BUMP OF CHICKENは朗読するように言葉を音にのせていく。ハナレグミやチャットモンチーは原曲の雰囲気を踏襲しながら歌われた。佐藤は最後に「今年も好きな曲を歌って幸せな時間を過ごすことができました。『to U』という曲を歌って終わります」と告げ、Salyu「to U」(2008年)へ。教会中に高らかな歌声が響き渡る中、本編を終了した。


 アンコールで登場した佐藤は、メンバーが観に来ていることを明かしながら、きのこ帝国の楽曲をソロ歌唱。この流れで聞くと、ここまでに歌われた良質な日本語のポップスの系譜に彼らの楽曲が存在することを改めて思い知る。「ハッカ」の後の「名前を呼んで」では、観客の歌声に包まれながらうれしそうに歌う佐藤の姿が印象的だった。


 きのこ帝国の活動では、佐藤のソングライターとしての才能に焦点が当てられることも少なくない。しかしカバー曲を歌うことで、楽曲が持つ言葉の力やメロディラインの美しさを忠実に伝えるボーカリストとしての力量を再確認できる。佐藤は今後、自らが生み出す楽曲はもちろん、日本語のポップスの素晴らしさを伝えるボーカリストとしての存在感をますます高めていくことになるだろう。(久蔵千恵)