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不況の書店業界を変える?柳下恭平はなぜ本を売るのか

2017年10月03日 09:53  Fashionsnap.com

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柳下恭平 Image by: FASHIONSNAP
校閲会社「鴎来堂(おうらいどう)」の代表で、神保町の書店「かもめブックス」の店主としても知られるエディトリアル・ジェットセットの柳下恭平。今年6月にオープンしたドトールコーヒーの新業態となるカフェ&ブック「本と珈琲 梟書茶房(ふくろう しょさぼう)」では選書を担当し、袋とじの本だけを扱うユニークな取り組みで話題を集めた。先月にはそごう千葉の別館「オーロラモール ジュンヌ」(以下、ジュンヌ)にミニシアターやギャラリーを併設した16の小さな専門書店をオープン。ネット通販が台頭し「街から本屋がなくなる」と言われるほど書店業界が厳しい現状に置かれている中、柳下はなぜリアル店舗に注力するのか。

 「本屋がどんどんなくなっている中で、16店舗が一気にできると面白いのでは」。柳下は、そごう・西武側から打診を受けて構想した。売り場には「みみずく書房」「文鳥堂」「つばめブックセラーズ」「MAGAZINE KITSUTSUKI STAND」「フクロウ堂」など鳥にちなんだオリジナルの書店を棚ごとに展開(大阪に構える映画専門書店「駒鳥文庫」を除く)。それぞれ文芸や実用書、雑誌、コミックなどのジャンルに特化し、選書はすべて柳下が担当している。「新刊がすべてそろっているということも大事なことですが、逆に"こんな本あったんだ"という体験をしてもらいたい」という狙いから在庫の書籍がメインで、近隣にある他社の大型書店とは競合しないという。オープン後は文庫本の売れ行きが好調で、今後はフリーペーパーも豊富に取りそろえるほか、併設のシアターでは週末に上映イベントを開催する予定だ。
 柳下は今年5月に書店をはじめとする店舗の企画・運営を行うプロジェクトチーム「エディトリアル・ジェットセット」を設立。今後はホストが書店員を務める「歌舞伎町ブックセンター」、日本橋高島屋と共同開発する新業態、瀬戸内海の離島には"最初で最後"のかもめブックスの支店の出店を計画するなど、ネット通販の影響で縮小しつつある書店業界では異彩を放っている。出版業界でキャリアを持つ柳下は「"本を作る"ことは皆やっているが、"本を売る"ことに力を注いでいる人がいない」と考え、自身の新しいステップとして"本が売れる本屋"をつくることに挑んでいるという。
 書店数は年々減少しているが、柳下は「一日に出版される本の数や書店の総坪数など逆に上がっている数字もあるので、悲観はしていない」と前置きしながら、「少なくとも"本を大量に売って、大量に買う"という大規模物流の限界値は来ている」と捉える。本屋に限らず、自転車ショップやベビー用品専門店といった売り場の一部で本を売る小規模物流に可能性を感じているといい、柳下自身もそういった店舗を手掛けることで業界の活性化につなげていきたい考えだ。将来的には本を読むための宿泊施設を開発していきたいという。