近年、アニメーションにおけるCGの重要性は言うまでもない。上記の制作会社は現在、いずれも高い技術でヒット作を残し、日本のCGアニメ業界をけん引している。実際のところ、各社のクオリティは拮抗しており、その差を見出すことは難しい。が、その一方で内情を見ると、各社それぞれ作品に対する取り組み方が異なるという。
「あにつく2017」で行われたセッション「CGスタジオ5社がアニメCGのいまを語る」では、グラフィニカ取締役の吉岡宏起氏、サブリメイションCGディレクターの須貝真也氏、サンジゲン取締役の瓶子修一氏、ポリゴン・ピクチュアズCGスーパーバイザーの長崎高士氏、ラークスエンタテインメントのCGディレクターの入川慶也氏が参加。終始和やかなムードの中、前後編の2回にわたって、CGスタジオから見たアニメCGの現場、そして今後の展望について語られた。
そもそも通常のアニメスタジオとCGスタジオの違いは何か? サンジゲンの瓶子氏は「モノの移動がないこと。アセット(共用資産)があること。」が、デジタル制作ならではのメリットと挙げた。基本的にデータでのやり取りのため、カット袋を運ぶ必要がなく、人的コストの削減や交通事故などのリスクの削除が可能に。また、制作中に作られたCGモデルなどは、アセットとして今後再利用できることがメリットだと語った。
セッションでは鳥やカバンといった現実にあるモノだけでなく、『ブブキ・ブランキ』で登場した万流礼央子などを例に、キャラクターまでもアセットで作ることができる例が紹介された。
その最たる例として紹介されたのが『ガールズ&パンツァー』だ。グラフィニカが同作で制作した60台にのぼる戦車のモデリングについて、瓶子氏は「戦車をアニメで描くということをこの作品で数段レベルをあげてしまった。」と、アニメ業界のエポックメイキングだったことを明かした。
続いて話題はプリプロダクションへ。一般的にプリプロは、監督や脚本家、デザイナーに発注をかけるところから始まるが、特殊な事例として挙げられたのがポリゴン・ピクチュアズの『亜人』。実は同作、なんと絵コンテをほぼ作らずに制作されているという。ポリゴン・ピクチュアズの長崎氏はその意図について、「(アニメ制作では)コンテが遅れてボトルネックになってしまうるケースがある。ある一人の肩方に乗っかっている重荷をどうにかみんなで分散してやっていく方法はないだろうか、という議論の中で出てきたアイデアでした」と話す。
また、他にもプレスコ(プレスコアリング。絵ができる前にセリフを収録すること)やステージング、モーションキャプチャーなど、『亜人』の中で採用された様々なプリプロ手法術についても紹介。余談としつつ瓶子氏は、サンジゲンでアニメらしい原画ポイントを意識したモーションキャプチャーを撮ろうとアニメーターが実際にチャレンジした結果、ろっ骨を折ってしまうという悲劇も明かしていた。モーションキャプチャーでアニメを表現しきるには、身体能力が欠かせないらしい。
現在、完全オリジナルの新作アニメを制作中というサブリメイションには、CGスタジオでは珍しく社内に音楽スタジオがあるという。須貝氏は「SEを作る人と音楽を作る人の2名を音楽班で持っていて、オリジナルを作るときにすごく助かる。音楽のイメージを気軽に検討できるのは強み」とメリットを語った。
CGモデリング例では、グラフィニカの吉岡氏が前述の『ガールズ&パンツァー』で作った戦車たちを披露。特に戦車が壊れる前と後のモデリングパターンを作る際は、とにかくきつかったと心境を吐露した。
また、舞台となった大洗町のステージングでは、実際に市内を撮影して歩いた時の苦労話も。ハイエースに乗って助手席からカメラを回すことで戦車の潜望鏡のイメージを再現したり、戦車から身を乗り出すヒロインの西住みほのCG制作は急きょ決まったなど様々な開発秘話が明かされ、来場者から笑いと感心の声が上がっていた。
CG5社によるセッション前半はここで一旦終了。その後のアニメーションやコンポジット作業については後半で触れていく。
あにつく 2017
www.too.com/atsuc/
『亜人』
(C)桜井画門・講談社/亜人管理委員会
[アニメ!アニメ!ビズ/animeanime.bizより転載記事]