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Perfumeと星野源、J-POPを開拓する2組に通じる点は? 相思相愛の共演から考える

2017年10月01日 10:03  リアルサウンド

リアルサウンド

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■Perfumeが「If you wanna」で再びまとった「違和感」


 8月7日、Perfumeはラジオ「Perfume LOCKS!」で新曲「If you wanna」を初めてオンエアした。3分にも満たないコンパクトな形にまとめられたこの曲は、Perfumeのシンボルであるデジタルサウンドを基調としながら、そこで鳴らされるリズムは今までの楽曲とは一味違うものになっている。サビに該当するパートではボーカルが著しく後退する構成となっている一方で、楽曲全体を通してボーカルの加工度が下がり3人の生歌をしっかりと体感できる。


 新境地とも言うべきこの楽曲に対しては一部ファンから戸惑いの声も上がっていたが、3人もそういった反応はある程度は想定していたようで、ライブでの初披露となった『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2017』では歌唱前にこの曲の「ノリ方」についてのインストラクションがあり(この時はその説明がうまく伝わらず、あ~ちゃんも反省していた)、またテレビ番組出演の際には「フューチャーベースという新しいジャンルです」と明言していた。


 フューチャーベースが本当に「新しいジャンル」かどうかはさておき、今回の楽曲はPerfumeにとって非常に重要な意味を持っているように思える。それは、この曲がかつての3人にとっての武器だった「違和感」を持っているからである。


 早耳の層から支持を集め始め、「ポリリズム」でブレイクを果たし、そこから今に至るまで着実にグループとしての地位を築いてきたPerfume。その道のりはつまり、「世間がPerfumeに慣れていく歴史」でもあった。ことさらに自分たちの凄さをアピールしない3人だからこそその周囲には温かいファンの輪が生まれたが、そんな過程の中で多くの人たちはPerfumeが実現することをなかば当然のものとして受け入れるようになっていった印象がある。ロックフェスで大トリを務めても、コンスタントに海外ツアーを展開しても、『COSMIC EXPLORER』というキャリアハイを大幅に更新するようなアルバムを作っても、その後の「TOKYO GIRL」「宝石の雨」で海外のトレンドを取り入れた楽曲を発表しても…その仕草がナチュラルであるがゆえに、彼女たちが成し遂げてきたことのインパクトはどうにもダイレクトに届きづらかった(オリコン1位を獲得したものの内容面でそこまで大きな話題を呼ぶことはなかったような印象もある『COSMIC EXPLORER』が『RollingStone』の「20 Best Pop Albums of 2016」でブルーノ・マーズやアリアナ・グランデなどと並んで16位に選ばれた、というギャップが象徴的である)。それゆえか最近は「最新テクノロジーとPerfume」という視覚的に違いがわかりやすい側面がフォーカスされることも増えているが、本来はそれ自体がPerfumeの本質では決してない。


 そんな中で今回リリースされた、サウンド面でのはっきりとした違いを体現している「If you wanna」。この曲がテレビの歌番組でパフォーマンスされる際、そこには確かな違和感がある。予定調和を覆すこの雰囲気は、「ポリリズム」がメインストリームで鳴らされた際に多くの人が感じたであろう不思議な感触に近いものがあるのではないだろうか。


 いよいよメンバーが30歳に近づき、アイドルグループとして文字通り前人未到の場所に向かおうとしているPerfume。今回の楽曲では、ダンスや衣装などで大人の女性としての魅力もふんだんに表現されている。彼女たちの新しさ、凄まじさが改めて伝わるきっかけとして、「If you wanna」は機能するだろうか。


■星野源が一変させたJポップの風景


 Perfumeといえば振付師のMIKIKOとの師弟関係が有名だが、今ではMIKIKOもすっかり日本を代表する振付師、プロデューサーとなった。昨年夏のオリンピックのフラッグハンドオーバーセレモニーに関わったことが現状の彼女のポジションに大きく寄与していると思われるが、それに加えて星野源「恋」の振付を手掛けたこともMIKIKOの評価を決定づけた要因の一つとなっているはずである。


 今さら言うまでもないことが、「恋」という楽曲はさまざまな場所に多大な影響を与えた。「恋ダンス」のヒットによってドラマのエンディング演出の流れも変わった印象があるが、特に大きかったのは「アイドルグループでなくても、歌って踊れて、さらには売れるポップソングを作ることができる」ということを星野源が身を持って証明したことだろう。しかも、彼の音楽は「イエローミュージック」という日本人のためのダンスミュージックとでもいうべき壮大なコンセプトのもとに構築されている。細野晴臣が志向したエキゾチックな音も、久保田利伸やDREAMS COME TRUEらが実践していたソウルテイストを日本の土壌に落とし込んだポップスも、それぞれ包含しているのが彼の音楽である。日本の大衆音楽を更新しようという意思とアウトプットのクオリティが結びついた星野源の楽曲がマスマーケットでも支持されたことで、ここ数年存在していた「一部の人たちによる、売れているダンサブルなアイドルソング」と「フェスやネットでうけの良い音楽好き向けの音楽」というような対立構造はかなりの部分で崩壊したのではないだろうか。ポップに売れたい人も、玄人の支持を得たい人も、どちらにも星野源の存在が立ちはだかっているというのが2017年時点での現状であり、おそらくJポップというものが確立して30年弱の間においてこのようなことはなかったように思える。この状況は多くのアーティストにとってタフな環境であると同時に、「いいものは売れる」という形で勇気を与えている側面もあるだろう。


 8月16日にリリースされ、シングルとしては初のオリコン1位を獲得した星野源の最新曲「Family Song」は、スティービー・ワンダーやカーティス・メイフィールドの名前を挙げたくなるようなソウルマナーのゆったりとした楽曲である。性急なビートとMIKIKOとのタッグによるダンスで世の中を踊らせてきた星野源だが、「Family Song」には自身の巻き起こした狂騒を一旦振り返るような趣の穏やかさがある。そんな雄大なサウンドと歩調を合わせるかのように、これまではどちらかというとソフトな印象のあったボーカルもより力強く、そしてより色っぽくなった。というフレーズで家族の本質を射抜いた歌詞も、共同体の形が多様化する昨今の空気を的確に描写しており、ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』以降の彼が果たしている社会の新しいスタンダードを体現するという役割ともマッチしている。


 時代を象徴するスターとしての地位を着実に固めながら、音楽的な進化に関してもいまだ天井の見えない星野源。この先、どんなレベルの存在になるのか、まったく想像がつかない。


■Perfumeフェスで実現した相思相愛の共演


 「アプローチは異なるものの、Jポップに今までにない価値を持ち込もうとしている」「コアな支持を維持しながらマスで戦うスタンスを常に見せている」という部分においてPerfumeと星野源には共通点があり、そういった2組のちゃんとした共演(テレビ番組で一緒になってもパフォーマンスをともに行うことはなかった)を見たいと多くの人が思っていたはずである。9月13日に行われた『Perfume FES!! 2017』の大阪城ホール公演にてついにこの2組の対バンが行われたが、幸運が重なってその場に居合わせることができた。


 すでに各所で報じられている通り、この公演では2組の「恋ダンス」での共演が大きな話題を呼んだ。また、アンコールでも2組のコラボが実現している。その内容については、本サイトに掲載されたこちらの記事も合わせてご覧いただきたい。書き添えておくと、「時よ」のラストでPerfumeの3人が何の前触れもなく(といっても星野源の「ひとりで頑張ります」という曲振りがヒントになっていたのだが)ステージに登場した際のどよめき、および「恋」を歌う旨が告げられた瞬間の会場の「爆発」とでも言うべき盛り上がり方は、ここ最近のライブでは体験したことのない空気だった。


 今回の記事では、それぞれのステージについて触れておきたい。全国ツアー終了直後に『Perfume FES!! 2017』出演という流れになった星野源は、ストリングスやホーンまでを揃えた「ガチ」のバンドで今回のライブに臨んだ。そこで鳴らされる音楽は、日本の往年の歌謡曲と海の向こうのソウルミュージックがシームレスにつながっていくような素晴らしいものだった。彼のソウルミュージック好きの側面が前面に出る端緒ともなった「桜の森」が音源に比べてかなりパワフルにビルドアップされており、ライブミュージシャンとしての充実ぶりを感じることができた。また、Perfumeは前述した「If you wanna」に加えて、そのカップリング曲の「Everyday」でもトロピカルハウス風味のアプローチを見せ、この先のさらなる新たな展開への期待を振りまいた。一方で、『JPN』収録の「MY COLOR」を久々に披露するなどホームのイベントならではの演出もあり、新旧のPerfumeの魅力を堪能できる非常にバランスの良いステージだった。


 Perfumeはこれまでも『Perfume FES!!』でいろいろなアーティストと共演しており、また星野源も自身のラジオ番組において様々なアーティストの音源を紹介している。自分たちの好きな人と一緒にライブがやりたい、自らの好きな曲を知らせたいというピュアな気持ちが活動の端々に見え隠れするアーティスト同士が、相思相愛の関係で同じステージに立ったのはとても貴重な瞬間だった。今回の共演が、双方のアウトプットに何かしら良い影響を及ぼすことを楽しみにしたい。(文=レジー)