F1シーズンを転戦していると、いろいろな人との出会いがある。そんな人たちに、「あなたは何しに、レースに来たのか?」を尋ねる連載企画。今回は長年F1で車検委員を務める今戸知行だ。
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開幕戦のオーストラリアGPの『あなたは何しに?』でも紹介したことがある国際自動車連盟(FIA)のオフィシャルとして日本から派遣されている今戸知行の姿が、マレーシアGPが開催されているセパン・インターナショナル・サーキットのピットレーンにあった。
今戸は1978年から鈴鹿サーキットで車検の仕事をスタート。その後、国内外のモータースポーツを長年サポートし、今年で車検歴39年間、となるベテランだ。
通常は車検室の中でマシンのチェックをする今戸だが、マレーシアGPのフリー走行2回目のセッション中では、車検室から出で、ピットレーンの入口に立っていた。いったい、何をしているのか?
「走行しているマシンをピットインしてきたタイミングで抜き打ちでチェックしているんです」
これまでウェイング(車重検査)は車検室の中にある固定式のインジケータ(計量機)で測定されていた。ただし、車検室に入れるにはピットインしてきたマシンの向きを直角に変えなければならず、不慣れなマーシャルが担当した場合は何度か向きを切り返さなければならず、時間を要していた。
そこでFIAは最近になって、移動式のインジケータをピットレーンの入口に設置して、わずかな方向転換で計測できるようシステムを変えた。今戸が立っているのは、そのインジケータの前。マシンが止まると自動で計測され、車重がプリントアウトされ、それをドライバーに渡すのが任務だという。
「セッション中、特に予選ではドライバーはすぐにもピットに帰って次の準備をしたいので、ウェイングが終わるとエンジンをかけてすぐに発進してプリントアウトされた検査結果を受け取らないドライバーもいます。そういうときはその場に残っているメカニックに渡します」という。
なお、ウェイングはFIAが任意で抜き打ちするのだが、その判断は技術委員のジョー・バウアーに任されているという。その基準はセッション中に突然速くなるなど、通常とは違う何か行なっている可能性があるマシンを、バウアーが長年のカンで見抜くのだという。その鋭い目は、最後となるマレーシアGPでも光っていた。