現代は「がんイコール死」ではなくなったとはいえ、日本では2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで亡くなっている。身近な人をがんで亡くしたことがないのは珍しいとされているほど、現代人にとってまったく他人事にできない病気だ。
自分ががんと宣告されたら、効果的な治療を受けたい。それは患者共通の思いだが、中には標準治療の抗がん剤や手術に対し、「寿命を縮める毒」「苦しいだけで効果がない」などと悪いイメージを持つ人もいる。その多くの原因はインターネットや書籍などによる情報の氾濫だ。(文:みゆくらけん)
患者に対し「根性改めないといけないから反省文を書きなさい」
何が正しく、何が間違っているのか。未だ正体のはっきりしないがんに対する情報は日々錯綜し、専門医ですら意見が違う場合も。中には「がんは放置するのが一番」だと言い切る医師もいる。こんな状況では、患者が混乱するのも無理はないだろう。
そんなふうに溢れ返る情報の中、「抗がん剤も手術も必要のない治療法でがんを治すことができる」などいう情報が入ってきたらどうだろう。特に、抗がん剤や手術に抵抗を持っていた場合。冷静な頭では「そんな夢のような治療法で治せるわけがない」と思っても、拭いきれない死の恐怖に怯えている当事者からすれば、そこにすがりたくなるのも無理はない。
9月24日の「映像’17 がんとネット~患者を惑わす情報の渦~」(毎日放送)では、医療を否定する情報によって選択に迷い、効果のない自由診療に大金をつぎ込んだ50代女性が登場した。6年前に卵巣がんが見つかって以降5回再発し、現在も治療中のAさん。最初に訪れた漢方の診療院で345万、次に高濃度ビタミンC点滴療法で216万、さらに「がん遺伝子治療」に227万の、トータル800万近くもの大金を支払った。
効果の実感がなく、むしろどんどんおなかが腫れ、病気の悪化を感じ。漢方診療院で院長にその不安を告げると、返ってきたのはこんな言葉だったという。
「根性がダメだから。がんになっている人というのは根性が間違えている。根性改めないといけないから反省文を書きなさい」
まさかのセリフであるが、続けて「そんな心だからこんなにいいサプリメント使っていても一向に治らないんだ」「結果的によくならないのは治そうとする根性や感謝の気持ちが足りないから」「間違った性格を修正するにはちょっとやそっとの修正ではきかない」とも言われたという。
「騙された方が悪い。自己責任」という風潮はおかしい
効果のない民間療法を続けた結果、最初にがんだとわかった時には8センチほどだった卵巣は26センチにまで膨れ上がり、覚悟を決めて訪れた病院で手術中に破裂。散々な目に合ったAさんは精神的に参っていたが、その後現在の主治医である日本医科大学武蔵小杉病院の勝俣範之医師と出会い、前向きに治療を行っている。
抗がん剤治療の第一人者である勝俣範之医師は、がん患者の治療の基本は「エビデンス」と「標準治療」にあると訴えている。標準治療とは科学的根拠に基づいた「今最も効果の高い薬や治療法」を意味する。巷に溢れるトンデモ民間療法を信じ、治療開始が遅れたり誤った治療を受けたりする患者をなくしたい―。そう感じている勝俣医師は、「インチキな治療にだまされないで」と強く呼びかけている。
「騙された方が悪いみたいな、自己責任だみたいな感じの風潮がありますよね。それちょっとおかしいと私は思っています」
患者の不安につけ込み金を吸い上げるトンデモ民間療法。それをなくすためには「声を上げていかないといけない」と勝俣医師。ベストセラーにもなった近藤誠医師の著書『抗がん剤は効かない』に対しても、勝俣医師は『「抗がん剤は効かない」の罪』で真っ向から反論している。