2017年09月30日 09:23 弁護士ドットコム
全国各地に拠点がある企業や官公庁の男性と結婚した女性が直面する大きな壁が、急な転勤命令です。「転勤族の妻」として、夫についていくことになると、引越しの準備はもちろんのこと、やらなくてはならないことが山積みです。特に、仕事関連で悩みを抱えている人も多いのではないでしょうか。
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夫の転勤先でも仕事を続けたいと考える女性は多いでしょうが、知らない土地でスムーズに再就職するのはそう簡単なことではありません。そんなときに、失業手当を受給できれば、家計的にも精神的にも多少は不安が和らぐでしょう。
実はかくいう私も転勤族の妻で、それまで勤めていた企業を退職し、今年の4月に東京から香川に引っ越してきたばかり。失業手当については、自分自身が当事者になって初めて知ることが多く、大変困惑したのを覚えています。そこで今回は、制度を見落として損をしないためにも、転勤族の妻が知っておくべき失業手当の受給の流れについてまとめました。(ライター・岡安早和)
夫の転勤に伴い退職した妻は、一般的な自己都合退職者とは区別され「特定理由離職者」となります。
特定理由離職者とは、疾病や親族の看護など、やむを得ない事情によって退職せざるをえなかった人のことを指し、転勤族の妻の場合は、「配偶者の事業主の命による転勤若しくは出向又は配偶者の再就職に伴う別居の回避」を理由とした正当な自己都合退職として扱われます。
夫の転勤や再就職によって引越しを余儀なくされ、それまでの職場への通勤が困難になった妻が該当しますが、ここでいう「通勤が困難」とは、一般に片道2時間以上かかるかどうかが判断基準だといわれています。
また、特定理由離職者は、やむを得ない事情で退職したわけですから、以下の点で一般受給者よりも手厚く保護されています。
(1)被保険者期間は6ヶ月以上あればOK
通常、失業手当の受給資格を得るには、被保険者期間が12ヶ月以上(離職以前の2年間)必要です。しかし、特定理由離職者は、被保険者期間が6ヶ月以上(離職以前の1年間)あれば良いとされています。
入社して1年経たないうちに夫の転勤が決まった、という場合でも被保険者期間を満たしている可能性があります。
(2)受給制限を受けない
通常、失業手当の受給資格の決定がなされてから約3か月は受給制限のため失業手当を受け取れませんが、特定理由離職者にはこの受給制限がありません。
失業手当受給までの基本的な流れは、以下のとおりです。
(1)失業/離職票の入手:退職した企業より雇用保険被保険者離職票(離職票)を受け取ります。
離職票には、離職理由を記載する欄があります。退職理由が夫の転勤である旨記載されているか、必ず確認しましょう。
(2)受給手続:ハローワークに求職票、離職票等を提出し、面接を受けます。
(3)待機期間(7日間):(2)の後、その人に失業手当の受給資格があるのか判断する期間が設けられています。
(4)雇用保険受給説明会:雇用保険の受給についての説明を必ず受けなければなりません。
(5)失業認定/失業手当受給:失業認定がなされたら、失業手当を受給できます。
なお、失業とは、「就職する意思と能力があるにもかかわらず就職することができず、積極的に就職活動を行っている状態」をいいます。失業認定とは、この状態にあるかどうかを確認するためのものであり、受給期間中は、原則4週に1度、失業認定を受けることとなります。
夫の転勤に伴う退職の場合、受給手続に必要なものは、以下のとおりです。
(1)離職票
(2)個人番号確認書類(マイナンバーカード、通知カード、個人番号が記載されている住民票等)
(3)身元確認書類(マイナンバーカード、運転免許証等)
(4)印鑑
(5)写真(縦3cm×横2.5cm)×2枚
(6)本人名義の預金通帳またはキャッシュカード
(7)転勤辞令などの資料離職理由は、退職した企業と本人の主張だけで判断されるわけではないため、夫の転勤辞令など、離職理由を客観的に確認できる資料が必要です。
知らない土地での生活は何かと不安に思うことが多いかもしれません。そんなときでも、スムーズかつ前向きに新生活をスタートさせるために、活用できる制度を知っておくことは非常に重要となります。
さて、ここまで転勤族の妻が知っておくべき失業手当受給の流れについて説明してきた私ですが、実は失業手当を受給しませんでした。引越し後すぐに興味のある仕事に応募し、採用されたからです。今思えば、そんなに急ぐ必要もなかった気がしますが、数年間という短い赴任期間において転勤族の妻がのんびりと就職活動をしていられないのもまた事実です。
私は、何より早く仕事に就くことを優先しましたが、抱える事情は皆、様々だと思います。赴任期間や、金銭面、求人の内容など、様々な事柄を踏まえた上で、自分が一体何を重視するのか冷静に考えることが大切なのではないでしょうか。
(弁護士ドットコムニュース)