自分は必ずいつか死ぬ。漠然と理解はしているものの、ピンとくるような実感はない。たとえば病気で余命宣告を受けるような状態になったのなら、死を身近に感じざるを得ないのだろう。けれども日々健康に過ごしていると、永遠に「今日」が続き、死なずにずっと生きて行くような感覚にすらなってくる。そんなふわっとした死生観を持つ筆者の胸に、ある女性の言葉が刺さった。(文:みゆくらけん)
「幸せって、こんなかたちで突然終わるんだってビックリした」
9月24日の「ボクらの時代」(フジテレビ系)に出演し、そう語ったのは新潮社の中瀬ゆかりさん。「私の人生のほぼすべてだった」という内縁の夫・作家の白川道さんを2年前に突然亡くした中瀬さんは、最近になってようやくその死を受け入れられるようになったという。
元気だった最愛の人が、ある日突然、大動脈瘤破裂で死ぬ。普段と同じ部屋の風景の中でその「一瞬の死」を目の当たりにし、すぐに受け入れられるわけがない。その後は「ただ生きてゆくこと」に必死で
「とにかく生きなきゃって、義務のように。生きていることと自分を結びつけるものを切っちゃいけないって、2年ぐらいバカみたいに人と会って毎日宴会して。とにかく気持ちを繋いでいった」
と振り返る。中瀬さんは以前、自身のエッセイで白川さんについて「お互いに『魂の双子』と呼び合い、どこにいくのも何をするのも一緒」だと語っていた。
「わしが死んだらどうするんや。ペコマル(中瀬さんの愛称)は生きていけんだろう」が白川さんの口癖で、結論はいつも「あと20年頑張って、ほぼ同時に逝く」(※白川さんが19歳年上だったため)だったそうだ。このやりとりがしょっちゅう行われていたというエピソードからしても、二人が強い愛情でお互いを思いやっていたと分かる。そんな中起こった壮絶な別れをきっかけに、中瀬さんは人生に対する考え方が変わったと話す。
「人生っていつ何時、残酷だけども断ち切られるか(わからない)。普段は死ぬとか意識せずに生きているけど、人間は誰でも致死率100%」
「死」は思っていたより身近にあり、人生は有限だと実感した中瀬さんはこうも続ける。
「人生は一度きりしかないからっていうのが口癖みたいになった。それからは何かに迷っても、一回しかない人生だから迷ったらやれっていう、そういうのはとうちゃん(白川さん)が死んでからすごく強くなった」
悲しみを乗り越えた人が持つ言葉の重みには、ズシンとくるものがある。私事になるが、実はここ数カ月ほど、なかなか白黒付かない迷いに直面・混乱していた。中瀬さんの「一回しかない人生だから、迷ったらやれ」という言葉は、今の筆者にとって、これ以上ないアドバイスだ。背中を押された気分になった。