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ChouCho、fhána、TRUE、Mia REGINA…『深窓音楽演奏会』に感じた“アニソンの豊穣な音楽性”

2017年09月27日 12:12  リアルサウンド

リアルサウンド

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 “アニメソング”というとひとつの音楽カテゴリーとして括られることが多いが、そのなかには当然のことながらさまざまな音楽表現が存在しており、アーティストの形態にせよ、サウンドのジャンルにせよ、実に多彩だ。シーンには歌い手やクリエイターなど多くの才能ある人材が集っており、そこには無限とも言える可能性が広がっている。そんなアニソンの豊穣な音楽性の一端を、生演奏のライブによって体感することのできたのが、9月17日に東京・新宿BLAZEで開催されたイベント『Lantis presents 深窓音楽演奏会 其ノ四』だ。


fhána、3rdアルバムに向けた変化と挑戦 3人のコンポーザーが互いに与え合う影響とは?


 『深窓音楽演奏会』は、アニメやゲーム関連の音楽を中心に取り扱うレコード会社<ランティス>が主催するライブイベント。毎回、個性的な音楽性を持つアーティストがラインナップされており、2014年9月に行われた第1回のライブ音源がハイレゾ限定でリリースされるなど新しい試みにも力を入れてきた。4回目となる今回は、イベント皆勤賞となるChouCho、fhánaに加え、初参加となるTRUE、そしてオープニングアクトのMia REGINAが出演。<ランティス>所属アクトのなかでも歌の魅力の際立つ4組が揃うこととなった。


 オープニングアクトに抜擢されたMia REGINAは、昨年に結成&デビューしたばかりの女性3人組ボーカルユニット。とはいえメンバー全員が秋葉原ディアステージのキャストとして長く活動しており、TVアニメ『アイカツ!』(テレビ東京ほか)の楽曲を歌うユニット、STAR☆ANISの一員としても数々の大舞台を経験している実力者だ。まずは和装ハイパーメタルといった趣きのアップナンバー「蝶結びアミュレット」で会場のボルテージを一気に上げると、続く「ガールズ・オンリー・ミラクル!」ではキュートなモードに一変。多彩な曲調とそれに合わせて様変わりする3声のボーカルワークという、彼女たちのカラフルな持ち味が発揮される。ラストは田中秀和(MONACA)が手がけるディスコチューン「THAT’S A FACT! ~千里の道も一歩から~」を披露。Wild Cherry「Play That Funky Music」ばりのファンキーなギターリフと共に華々しいダンス空間を作り出し、見事にオープナーとしての役割を果たした。彼女たちのみオケを流してのライブではあったが、3人の多様な歌声を活かした色鮮やかなチャームが発揮されていたように思う。


 続いて登場したのは深窓初出演のTRUE。1曲目から快活極まりないロックチューン「BUTTERFLY EFFECTOR」で元気いっぱいに飛ばしていく。彼女の魅力はとにかくパワフルでエネルギッシュなハイトーンボイス。そのどこまでも伸びやかに広がるような歌声が、生バンドのアグレッシブな演奏とぶつかり合って会場に熱気をもたらす。アニソン系のライブではお客さんがサイリウムを振って楽しむ場合が多いが、この日は会場がライブハウスということもあってか、誰もが自らのこぶしを突き上げて思い思いに楽しんでいたのも印象的だ。


 そのように熱く幕を開けたTRUEのライブだが、「いつもは光を解き放ったり、闇に誘ったりする楽曲が多いんですけど(笑)、今回は『深窓音楽演奏会』ということで上質な音楽をみなさんに楽しんでもらいたい」と、ここからの3曲はアコースティック・バージョンで届けられることに。スツールに腰掛けた彼女は、まず「UNISONIA」を歌唱。いつもよりも艶やかさを増した歌声が、アコギとシャッフルビートの効いたジャジーなアレンジと融和する。シンプルなサウンドゆえにドラマティックな旋律がさらに際立って聴こえた「STEEL -鉄血の絆-」、序盤はピアノ一本をバックにゆったりと、中盤以降はスパニッシュ風のギターも交えて情熱的に生まれ変わった「Divine Spell」と、いずれも楽曲の新たな魅力を引き出す貴重なパフォーマンスとなっていた。


 自身が企画した11月24日開催のライブイベント『鶴松屋フェス』の告知MCを挿み、「この曲、実はひさびさに歌うんですけど、『深窓』のお客さんは好きだと思います」と告げて歌われたのは「フロム」。TVアニメ『終末なにしてますか? 忙しいですか? 救ってもらっていいですか?』のエンディングを感動的に飾っていたナンバーだ。彼女の力強く飛翔するハイトーンは、こういったエモーショナルな楽曲においても素晴らしく魅力的に響く。そこから『響け!ユーフォニアム2』のオープニングテーマ「サウンドスケープ」で一気にギアを上げてラストスパート。サビ部分では熱狂的なクラップが巻き起こり、最後はTRUEの「せ~の!」を合図に会場中が一丸となってジャンプ。彼女は走りながら前方のお客さんとタッチを交わし、投げキッスのオマケも付けて満面の笑顔でステージを去っていった。


 そしていまや『深窓音楽演奏会』の顔役となったChouChoの出番だ。ストリングスとビートが合わさった瑞々しいイントロを伴って登場した彼女は、メジャーデビュー曲でもあるTVアニメ『神様のメモ帳』のオープニング曲「カワルミライ」からライブをスタートさせる。ChouChoの聴き手を柔らかく包み込むような高音ボイスは、TRUEの力強さとはまた違った輝きを放つもの。その両者の美声を同じバンドメンバーによる演奏で聴き比べられるとは、何と贅沢なイベントなのだろう。MCではいつもの若干ユルさを感じさせる関西弁トークで場を和ませつつ、2曲目「優しさの理由」へ。清涼感いっぱいのギターサウンドに彼女のしなやかで芯のある歌声が溶け合い、爽やかな高揚感を生み出していく。


 そこから間髪入れず、凛々しさと激しさが同居したアップ「BLESS YoUr NAME」へと移行。赤と青のライトが明滅するなか、陰影を深めて迫力を増したChouChoの歌声が高らかと響き渡る。この日のバンドマスターを務めた佐々木“コジロー”貴之(Gt)による燃え上がるようなギターソロも炸裂し、間違いなくイベントのハイライトと言える場面に。歌唱後、「ちょっと心拍数が……」と笑いを誘いながら一息つく彼女。ここからは彼女のキャリアにとって大切な作品である『Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ』の関連曲が続く。


 同シリーズのテーマ曲を何度も歌ってきたChouChoは、現在公開中の最新作『劇場版 Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ 雪下の誓い』にて自身初となるアニメ主題歌での作詞/作曲に挑戦。作品世界に寄り添いながらソングライターとしての成長と進化も刻んでみせた。彼女は「第1期からずっと関わらせていただいてる『プリズマ☆イリヤ』という作品で初めて作詞作曲をやらせていただいたので、燃え上がる思い、溢れ出る抑えきれないほどの思いをこの2曲に詰め込みました」と語り、その主題歌「薄紅の月」と「kaleidoscope」を続けて歌唱する。弦楽を含むしっとりとしたサウンドに神秘的な声を浮かべた前者、その深い余韻を突き破るようなダイナミックさに溢れた後者。まったく表情の異なる2曲だが、どちらもふくよかな声の魅力が強調されて聴こえる。12月3日に『ChouCho Acoustic Live “naked garden” vol.3』が開催されることを初告知したのち、最後は青春を顧みながらも未来への一歩を踏み出す決意の歌「peace of youth」。その普遍的なメッセージは、会場にいたすべての人の心に、それぞれの思い出に共鳴する形で響いたのではないだろうか。


 この日のライブのトリを務めたのはfhána。キーボードの佐藤純一、ギターのyuxuki waga、サンプラーとグロッケンのkevin mitsunagaというメンバー3人に加え、ベースになかむらしょーこ、ドラムスに“よっち”こと河村吉宏のサポートを迎えたフルバンド編成でのライブとなる。ブレイクビーツ風のSEが流れて会場の期待が一気に膨らむ中、メンバーたちが次々とステージに登場。一拍の沈黙を置いて、紅一点のボーカリスト、towanaが「Outside of Melancholy ~憂鬱の向こう側~」の一節を歌い始めると、フロアからは喜びの歓声が上がる。“セカイ系”を主題のひとつに据えた彼らのテーマソングとも言えるこの楽曲、繰り返される日常を超えて、まさに憂鬱の向こう側へと誘ってくれるような晴れやかなサウンドは、現実を忘れさせてくれるハレの舞台であるライブの幕開けにふさわしい。


 そこからシームレスに「君の住む街」へと繋げるfhána。バンドの軽快に跳ねまくる演奏につられて、towanaも佐藤の方を向いてピアノを弾くフリをしたり、お茶目に踊ってみせたりと、ウキウキとしたムードを会場中に広げていく。kevinのノリノリな煽りと眩しい笑顔も、彼らのライブにおける楽しさの大事なポイントだ。続いて、A-beeの助力を得て推進力全開のダンスビートを採り入れた新たなアンセム「Hello!My World!!」で会場の熱を一気に高めると、次はfhána初のラップ曲「reaching for the cities」でまったりとしたグルーヴを聴かせる。ここまでの3曲は最新シングルからのナンバー。そのいずれにも、彼らの新しい世界へと歩み出そうとする意識が表れており、いわば彼らの現在のモードを体感できるセットリストと言えるだろう。


 MCでは佐藤が現在制作中の3rdアルバムについて触れ、「ヤバイ曲がドンドン出来上がってます!」とアピール。歓喜の声に包まれるなか、ライブの鉄板曲「divine intervention」がスタートし、towanaの繊細さと芯の強さを併せ持つ歌声が会場をドラマティックに盛り上げていく。最後は「この曲はみんな一緒に踊ってください!」(towana)と「青空のラプソディ」を披露。メンバーの踊るMVがYouTubeで1,000万回以上再生され、fhanaにとっても最大のヒットとなっているこのナンバー。この日会場に集ったファンはもちろんすでにダンスを会得していたようで、towanaやkevinのダンスに合わせてすし詰めのフロアも右に左にと動いて踊る、なんとも感動的な光景に。佐藤も後半ではショルダーキーボードに持ち替えてステージ上を動き回り、フィリーソウルを思わせる流麗なディスコサウンドが祝祭感を生むなか、凄まじいまでの一体感と共に彼らのステージは終了した。「青空のラプソディ」は間違いなく、彼らのライブバンドとしての存在感を一段階押し上げるナンバーに育っているように思う。


 そしてイベントの締め括りとなったのは、この日の出演者全員の参加によるChouCho「starlog」。『Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ』の第1期オープニングテーマであり、過去の『深窓音楽演奏会』でも欠かさず歌われてきた彼女のライブでの定番曲が、TRUE、towana、Mia REGINAら豪華な歌姫たちとの共演によって新しい光を獲得する。個々としても眩いばかりの輝きを放つその歌声が重なり、夜の闇を照らす星のような瞬きとなって、会場中に降り注ぐ。TRUEが最後の挨拶で「あらためて音楽ってヤベーじゃんって思いました!」と発していたが、まさにその言葉通り音楽の素晴らしさを肌で実感できるステージだった。


 アニソンといえば複雑なメロディ展開や構成を持つ楽曲が多く、それらを歌いこなすにはズバ抜けた歌唱力はもちろん、歌詞の内容も含めた楽曲の細かなニュアンスを声で伝える表現力が必要になってくる。そういったシーンの最前線で活躍する今回の出演者の歌声の魅力は、CD音源などでも充分に味わうことはできるが、生のライブだとさらなる凄みを持って迫ってくるものだ。それを演者と観客の距離感の近いライブハウスで体感できる『深窓音楽演奏会』が特別なイベントだということは、その日会場を訪れた誰もが感じたことに違いない。(北野 創)