スーパーフォーミュラでルーキーシーズンながら2勝を挙げてランキング2位、2016年GP2(現F2)チャンピオンの名に恥じず、国内モータースポーツ界に衝撃を与え続けているピエール・ガスリー(TEAM MUGEN)。その活躍ぶりは日本のモータースポーツ界だけでなく、フランスでも大きなインパクトを与えているようだ。
第6戦SUGOの現場で、金曜日からガスリーを密着するフランス人のテレビカメラマンと数人のスタッフたち。彼らはフランスの有料放送局CANAL+(キャナル・プリュス)の番組製作スタッフで、フランスからわざわざ来日して、スーパーフォーミュラの現場を取材しているという。その詳細、そしてフランス国内でのガスリー評について聞いた。
「ガスリーを番組でフォローするために日本に来て、スーパーフォーミュラを取材しています。彼は今、F1にステップアップする大きなチャンスを迎えていますし、近い将来、フランスのモータースポーツ界を背負う素晴らしいドライバーになる可能性をもっていますからね」と話すのは、来日したCANAL+チーフF1エディターのニコラス・アリックス氏。
「私たちの局はフランス国内でF1を放送していますが、来年のF1については大きなチャンスになると思っているので、そこに向けたドキュメンタリー番組を制作しているところなんです」
CANAL+はフランス国内では有料番組としてF1中継を放送している。来季、F1デビューの可能性が高いガスリーを今から追いかけ、はるばる日本まで来たという。SUGOの現場ではガスリー本人だけでなく、山本尚貴など日本人ドライバーにもインタビューを行い、ガスリーを取材するオートスポーツWEBの様子も収録。さらには仙台市内でホテルに泊まるガスリーの様子も撮影するなど、まさに全方位で日本でのガスリーをカメラに納めている。
フランスには現役F1ドライバーのロマン・グロージャン、エステバン・オコンをはじめ、ステファン・サラザンやセバスチャン・ボーデなどなど世界的なドライバーが多いが、その中でもガスリーはフランス国内でどのくらい認知されている存在なのだろう。
「フランスのモータースポーツファンの中では、ガスリーはすでにとてもポピュラーな存在になっています。ガスリーはルックスも人柄もいいし、会話をするときはいつも笑顔を絶やさないナイスガイなので、非常にいいイメージを持たれています。一緒に同じ時間を過ごす時には、相手を楽しませる才能がありますしね。もし来年、F1に行くことができたら間違いなく、フランスでもっとも人気の高いドライバーになるでしょうね」
世界的にF1の人気が低迷している中、フランスのモータースポーツ事情についても聞いた。
「フランスのF1の人気はここ数年、減少していることは事実です。ただ、この傾向はフランスに限ったことではなくて世界的なもの。私たちは3年前から有料放送でF1を放送していますが、契約者数はこの5年、ほとんど変わっていません。フランスでは年間4戦だけ国営TVでF1が無料放送されています。私たちは来年、F1の放送権を新しく更新しますし、ガスリーがF1に行くことになってF1人気がさらに上がることを期待しています」
まさに、フランスのモータースポーツ人気を一身に背負うガスリー。そのガスリーがランキング2位と活躍している現在のスーパーフォーミュラに、ニコラス氏はどのような印象を受けたのか。ニコラス氏はCANAL+のプロデューサーであるとともに、F1の現場ではコントロールルームに入って、コメンテーターやコースサイドのレポーター、カメラマンにスイッチングなどを指示するディレクター的な役割も行う、レースのプロでもある。
「スーパーフォーミュラはベリーエキサイティング。僕はF1の現場にも取材で行っているので、世界のいろいろなサーキットや鈴鹿サーキットのような大きなコースも知っています。でも、このSUGOは小さなコースだけどいろいろ便利だし、コースと観客の距離がとても近くて雰囲気がグレートですね。鈴鹿のF1の時も感じたけど、日本のモータースポーツファンは熱狂的で、これは世界的にとてもユニークなことだと思っています。日本のモータースポーツファンはちょっと特別な感じを受けます。特に、F1の鈴鹿はクレイジーとしかいいようがない(笑)」
「今回のスーパーフォーミュラに限って言えば、コンペティションがとても激しいカテゴリーだという印象を受けました。経験豊富なベテランドライバーのアドバンテージも小さくて、全体のタイム差が拮抗しているし、とても緻密な戦略が必要にななる。昨年、(ストフェル)バンドーンが参戦して1勝を挙げましたが、チャンピオンにはなれなかった。それでも彼はF1で活躍しているわけで、そのくらい、スーパーフォーミュラはレベルの高いカテゴリーだということ。とてもよい印象を受けています」
もし来年のトロロッソ・ホンダにガスリーが乗ることになったら、フランスのモータースポーツファンはホンダをどのように見るのだろう。
「今の段階ではおそらくとしか言えないけど、ガスリーがトロロッソからF1にデビューしたら、フランスのモータースポーツファンはトロロッソと同じくホンダに親近感を覚えるだろうし、マクラーレン・ルノーとの戦いは楽しみになるでしょうね(笑)」
日本のF1ファンにとっても、来年のマクラーレンには複雑な感情が入り交じるが、それはフランスでも同じなようだ。ガスリーを応援するのか、フランス企業のルノー絡みでマクラーレン・ルノーを応援するのか、なかなか選択は難しい。
「ホンダはインディカーでも成功しているし、F1でもインプルーブして、マクラーレンとのアクシデント(苦笑)を乗り越えて、トロロッソとともに成功することを心から願っていますよ」
頼むぜホンダ、と言わんばかりのニコラス・アリックス氏。もしガスリーのF1昇格、そしてトロロッソ・ホンダからのデビューとなれば、ホンダF1は日本だけでなく、フランスのモータースポーツ人気にも大きな重責を担うことになりそうだ。