2017年09月25日 10:43 弁護士ドットコム
学習塾の講師が年度末までは勤務するのは「業界の暗黙の了解」。それを守れないなら、損害賠償請求をしたいーー。学習塾の経営者が、インターネットのQ&Aサイトにそんな投稿をしていた。
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この経営者は、「生徒や保護者に対して余りに無責任」だと断罪。後任がいないのに退職することは、「債務不履行にあたる」と考えている。さらに、この講師の退職の影響で辞めていく生徒の授業料や、塾の信頼を損なったことに対して損害賠償を求めたいそうだ。
この講師は退職の2カ月前に申し出ていたそうだが、学習塾は、経営に大きなダメージがあることを理由に損害賠償請求できるのだろうか。講師の側は、このような請求をすると言われた場合、どうすればいいのか。杉山和也弁護士に聞いた。
「塾講師という立場上、道義的には、担当する生徒の進級を待って退職することが望ましいのかもしれません。しかし、会社との関係においては、従業員が会社を辞めるか否かは、従業員の自由です。原則として、会社が『辞めさせない』とか『辞めたら損害賠償請求する』といったことはできません。
今回のケースでは、後任の講師がいないことや、講師が辞めることによって塾の評判が悪くなることを経営者側は問題視していますが、これらは会社の運営体制の問題なので、従業員の責任にはなりにくいと考えられます」
ということは、損害賠償が認められる可能性はないのだろうか。
「民法と労働基準法には、従業員が会社を辞める際に、いつまでに辞める意思を伝える必要があるのかが定められています。この予告期間を守らずに、退職を伝えた翌日から出社しないといった対応をとれば、会社から損害賠償を求められる可能性があります。が、この予告期間を守っている限り、会社を辞めたことについて損害賠償が認められる可能性は低いと考えられます」
ちなみに、法律上はいつまでに辞める意思を伝える必要があるのか。
「雇用契約には、期間の定めのない雇用契約(正社員)と期間の定めがある雇用契約(有期雇用)があります。期間の定めがない雇用契約の場合、法的には、従業員は、原則として、2週間前までに退職を申し出れば、いつでも退職することができます。
なお、会社の就業規則において、法律よりも短い日数を定めていることがありますが、そのような規定があるときは、就業規則に定められた日までに退職を伝えれば良いことになります」
今回のケースは、どう判断できるだろうか。
「今回のケースでは、講師は2か月前に退職を伝えているため、この講師が正社員である場合には、損害賠償請求が認められる可能性は低いと考えられます。
これに対して、有期雇用の場合は、従業員は、原則として、やむを得ない事由がない限り、雇用期間が満了するまで、退職することができません。
やむを得ない事由とは、職場で深刻なパワハラに遭っているとか、重病で入院したというような特殊なケースを意味しています。よほどのことがない限り、雇用期間が満了するまで、退職は認められないことになります。ただし、雇用期間が1年を超える労働契約については、やむを得ない事由がなくても、辞めることができるとされています。
今回のケースでは、この講師が1年以内の有期雇用であって、雇用期間の途中で、やむを得ない事由もなく退職する場合には、一定の範囲で損害賠償が認められる可能性があると考えられます」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
杉山 和也(すぎやま・かずや)弁護士
労働事件を中心に、中小企業の法務、相続、離婚に注力。特に、解雇・パワハラ・セクハラ問題について取扱多数。「オーダーメイドの法律事務所」として、1人1人の依頼者に寄り添いながら、ぴったりの解決方法を提案することをモットーとしている。
事務所名:鳳和虎ノ門法律事務所
事務所URL:http://www.houwatoranomon.com/