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Deerhoof、アリエル・ピンク……アートか天然か? アバンギャルドなセンス炸裂した新作5選

2017年09月24日 13:02  リアルサウンド

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 バンド結成から20年を越えて、ますます精力的に活動するサンフランシスコ出身のバンド、Deerhoof。前作『The Magic』から1年という短い期間でリリースされる新作『Mountain Moves』には、多彩なゲストが参加している。アルゼンチンのシンガーソングライター、フアナ・モリーナ。Stereolabのボーカル、レティシア・サディエール。シカゴのアバンギャルドなサックス奏者、マタナ・ロバーツ。ラッパー/女優のオークワフィナなど、個性豊かな面々が集まるなか、Deerhoofはパワフルなバンドサウンドと自由奔放な音作りでゲストをおもてなし。混沌としたエネルギーが渦巻くなか、突拍子のないポップセンスが爆発する。ゲストとのセッションが巻き起こす化学反応で、いつも以上に先が読めない展開に翻弄されっぱなし。


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 一方、今やLAのインディーシーンの顔役となりつつあるアリエル・ピンクが、レーベルを<4AD>から<Mexican Summer>に移籍。原点に戻ったような宅録感たっぷりに作り上げた新作『Dedicated to Bobby Jameson』は、60年代に活動したシンガーソングライター、ボビー・ジェームソンの回想録から刺激を受けて作り上げた。ジェームソンは、The Beach Boysの前座を務めたり、The Monkeesのメンバーに誘われたり、フランク・ザッパと共演したりと、その才能を高く評価されながらも音楽業界に反発して孤立してしまい、やがてアルコール依存症でどん底まで堕ちてしまった不遇のミュージシャン。アリエルは持ち前の毒々しいポップセンスを羽ばたかせながら、西海岸ロックや、バブルガムポップ、ディスコなど様々なエッセンスを盛り込んで、ポップミュージックの光と影を妖しく浮かび上がらせる。


 ボビー・ジェームソンやアリエル・ピンクに通じる奇才、ゲイリー・ウィルソンは、70年代にNYアンダーグラウンドシーンで活動した伝説のアーティスト。80年代以降は行方不明になっていたが、ベックが曲の歌詞の彼の名前を登場させたことで再び注目を集めて2002年に活動を再開させた。最近は調子が良いようで、1年に1枚のペースで気前よく新作を発表している。最新作『Let’s Go To Outer Space』は、いつもながらの宅録作品。シンプルだけどグルーヴィーなビートに、鼻歌みたいに能天気なメロディが乗り、ファンキーなキーボードが絡む、ちょっと奇妙で人懐っこい歌。そんななか、「もしかしたらシティポップかも」と思わされる洗練されたムードも漂わせていて、聴けば聴きほどハマるゲイリーの不思議な魅力は本作でも健在だ。


 チャド・ヴァンガーレンはカナダ出身のシンガーソングライター/マルチプレイヤーで、アニメも手掛ける映像作家の顔も持つ男。名門<SUB POP>からリリースされる新作『Light Information』は、いつも通り、ほとんどの楽器を自分ひとりで演奏していて、彼の二人の娘がゲストで参加している。荒々しくてヨレヨレなロックンロールのなかを、シンセや奇妙なエフェクトが飛び回り、サイケデリックで歪んだポップセンスが炸裂。60年代ロックをベースにしたローファイでオルタナティブなサウンドはGuided By Voicesあたりに通じるところもある。ザラついたサウンドのなかに美しいメロディが隠されていて、曲の核にあるのはチャドの生々しい感情。スクラップ置き場を掻き分けるようにアルバムを聴き進むにつれて、内省的でエモーショナルな歌の世界が広がっていく。


 グラムロック~テクノポップ~ニューウェーヴなど、50年近くに渡ってモダンなポップセンスに磨きをかけてきたベテラン、Sparks。そのサウンドは、辛口のモリッシーを魅了するほどオリジナリティに溢れている。そんな彼らの新作『Hippopotamus』は、バンドの中心的存在、ロンとラッセルのメイル兄弟が中心になって緻密に作り上げられた。重厚なオーケストラ、エレクトロ、ギターサウンドと彼らの特徴を巧みに織り交ぜた、奇抜で洗練された音作り。そして、ラッセルの年齢を感じさせないハイトーンボイスと複雑なコーラス・アレンジが生み出すドラマティックでウィットに富んだ楽曲の数々は、まさに“スパークス劇場”。現在、彼らはフランス映画の鬼才、レオス・カラックス監督のミュージカル映画のサントラを制作中だが、カラックスはSparksの大ファンで、なんと本作にゲスト参加している。映画とサントラの仕上がりが楽しみになる快作!(村尾泰郎)