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「PTAって全員加入?」「役員希望者いない」…親たちが「PTAの悩みごと」冊子に

2017年09月24日 11:13  弁護士ドットコム

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「PTAには全員入らなければいけない?」「役員希望者が見つからない」「名簿の作成で、学校から情報の提供を受けていい?」。かつてPTA活動では「常識」だったことでも、現在では難しい場面も多く、現場の悩みは尽きない。全国でトラブルから、訴訟にまで発展するケースもみられる。しかし、事前にトラブルを回避し、子どもたちのために活動できるよう、解決を模索する動きもある。


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その一つが、千葉市PTA連絡協議会(市P連)が今年3月に発行した冊子「本当に聞きたかったPTAの悩みごと」(http://chiba-city-pta.jp/about/pta-qa)だ。当初は市内の小中学校に配布していたが、全国から大きな反響があり、9月に公式サイトで全文公開に踏み切った。冊子は、悩みや疑問を持ちながらPTAに携わっている現場の親たちが中心となり、2年がかりで作成した。市P連では「それぞれのPTAや学校で話し合う指針になれば」と話している。一体、どのようなことが書かれているのだろうか。


●「PTAは全員入らなければいけないんですか?」

冊子の冒頭は、PTA会長を務める女性「ミサト」と夫の会話から始まっている。


「新入生の保護者から質問が来ててね、PTAの加入は義務なのか、入らないと何か子どもに不利益があるのかとかね」「へえ、こんな田舎でもそんなこと言う人がいるんだね。僕が子どもの頃は保護者がPTAに入るのは当たり前って雰囲気だったけど」


会話は続き、夫はミサトに尋ねる。


「新聞で見たけど、裁判になってるところもあるみたいだからこじれないといいね。新入生の保護者には二月くらいに説明会があったけど、PTAのしくみはちゃんと説明したの?」「それが…皆さんにもどこかの学年でPTAの役員をやっていただきますよ、とか、役員もやってみると楽しいですよ、友だちもできますよって話はしたけどね。あんまり込み入った話はしてないのよねーー」


これは、多くのPTAが抱える悩みの一つだ。実際、PTA加入をめぐって2014年、訴訟が起きている。熊本市の男性がPTAに強制加入させられた上、退会届が受理されず不当に会費を徴収されたとして、 PTAを相手取って会費の返還などを求め、熊本地裁に提訴したのだ。この裁判は今年2月、福岡高裁で和解するまで争われた。


冊子では、ミサトの悩みがPTAのメンバーと意見交換によって整理されていくというQ&Aスタイルになっている。例えば、PTAは「全員加入」なのかかどうか、こんな会話が交わされている。


「たぶん、どこのPTA会則でも、『会員』についての項目があって、『○○学校に在籍する児童(生徒)の保護者、○○学校に在籍する教職員を会員とする』といったような規定があると思うんですが、これって保護者は全員自動的にPTAに入会するっていう意味なんですかね?」


「いや、ここで言ってるのは、保護者か教員は会員になることができるっていう『資格』についてであって、強制的に加入しなきゃいけないっていう意味ではないと思うよ」


ミサトはこうしたメンバーの見解を聞きながら、意見をまとめた。


「加入が任意であることは自明だから、あえて会則に書く必要はないけど、あくまで加入するかどうかは任意ってことね」


これまでの「全員加入」というPTAの「常識」や「慣習」を見直し、会則をどう解釈すれば良いのか、ミサトはメンバーとの話し合って結論に達した。熊本のPTA訴訟でも、和解条項には PTAが入退会自由な任意団体であることを今後、保護者に十分に周知することなどが盛り込まれている。


●「役員希望者が見つからない。どうしたら?」

これ以外にも、冊子では「入会していない家庭の児童・生徒に対して記念品の類を贈呈する場合、実費を集めるべきですか?」といった非会員への対応についても、議論されている。これも、裁判になった事例がある。


昨年3月、大阪府内の私立中学で、ある生徒だけが卒業式の際に花飾りのコサージュをもらえなかった。コサージュは保護者会が会費で購入しているもので、生徒の父親が保護者会を退会していたため、配布されなかったのだ。父親は実費負担を申し入れたいたが、認められなかったという。卒業式という学校の公式行事で、子どもにまで影響があるのはおかしいと訴え、父親は堺簡裁に提訴。全国的な議論を巻き起こした。


この悩みについて、ミサトはやはりメンバーと議論の上、次のようにまとめている。


「PTAからの記念品は、あくまで、子どもたち全体へのプレゼントなので、親が会員かどうかは問わない。ただし、会員と非会員の負担のバランスが悪いようであれば、PTAの活動としての位置づけを見直した方がいい、ということかしらね」


また、おなじみのこんな悩みも掲載されている。「役員希望が見つからない。どうすれば気持ちよく引き受けてもらえますか?」。ミサトたちの結論はこうだ。


「PTAの仕事は『できる人が、できることを、できるときに!』が原則だからね。役員の仕事の中身を会員によく知ってもらうことができれば、役員を引き受けてくれる人が増えるかもしれないわね」


●「学校から名簿情報の提供を受けたいのですが?」

冊子は、最近の悩みとして登場した個人情報の扱いにも及んでいる。「会員名簿を作成するために、学校から名簿情報の提供を受けたいのですが?」という問いに対しては…


「PTAは任意団体なので、学校が収集した個人情報をPTAに提供することは目的外使用になるんじゃないのかな?」


「いずれの方法で取るにしても、名簿を作るために情報収集することをはっきり明示した上で、会員の同意を得る必要があるんじゃないかな?」


最後にミサトは話し合いをこう結論づけている。


「PTAが会員の個人情報を収集する場合も、何らかの形できちんと利用目的を明示して、会員の同意を取る必要があるってことね」


冊子にはこうしたテーマが6つのジャンルに分けて掲載。どの疑問や悩みもリアルで、すぐにでも参考になりそうな、実践的な内容になっている。これは、2年前に市P連が「PTA運営の支援になるようなものを」と、特別委員会を設置。PTA活動に熱心な親たちが中心となり、自分たちの体験を通じて、2年間何度も話し合いを重ねて作ったためだ。


市P連事務局の神尾祝子次長によると、今年3月に冊子が完成してから、千葉市内のPTA加入校108校に配布。8月に新聞記事で紹介されたり、全国の政令指定都市PTAの情報交換会で配布したりすると、県外の教育委員会やPTAから「送ってほしい」という依頼が寄せられるようになったという。


「皆さんから、『こういうものが作りたかったんです』と言われ、手応えを感じました。このようなニーズは全国どこにでもあるのだなと思いました」と神尾次長は話す。冊子のさらなる活用を目的に、9月11日には公式サイトで全ページを公開することにした。多くの悩めるPTAや親たちの参考になりそうだが、この冊子は必ずしも「正解」を示すものではないという。「この冊子を元に、皆さんで相談したり、話し合ったりする指針になればと思っています」と神尾次長は話している。


(弁護士ドットコムニュース)