電通が社員に違法な長時間労働をさせたとして、労働基準法違反に問われている事件の初公判が9月22日、東京簡易裁判所で開かれた。報道によると、公判には同社の山本敏博社長が出廷し、「間違いありません」と起訴内容を認め、謝罪したという。
検察は罰金50万円を求刑し、即日結審した。判決は10月6日に言い渡される。公判後、亡くなった高橋まつりさん(享年24)の母・高橋幸美さんと代理人の川人博弁護士が厚生労働省で記者会見を開いた。高橋さんは「社長にいくら謝罪をされても娘は戻ってこない」と涙を滲ませた。
サービス残業ではなく「社内飲食、懇談、自己啓発」の時間だと申告させていた
幸美さんは、公判で山本社長が「新しい電通をつくる」と述べたことに対し、「にわかに社長の言葉を信じることはできない」と語った。
「労働環境の改革計画を検討・実施していると表明されていましたが、娘が入社する前にも、電通は、立派な計画は発表していました。しかし、娘は、土曜日も日曜日も休むことができないほどの業務を担当させられたのです。立派な計画や制度を作ったとしても、本当に実行しなければ、意味がありません」
電通はこれまでにも違法な長時間労働で労働基準監督署から是正勧告を受けてきた。しかし同社は、36協定の特別条項を利用するなどして、形式的な合法性を取り繕うことに終始してきた。2014年のCSRレポートでも「ワーク・ライフ・バランスの推進」を謳っていたものの、実行力のある対策は取られていなかったという。
そのため、まつりさんも過酷な長時間労働を強いられていた。例えば、2015年10月26日には、6時5分に入館し38時44分(翌日の14時440分)に退館したことが、ゲートの通過時刻から明らかになっている。
しかし勤務状況報告表では、9時30分に出勤し、22時に退勤したと記録されている。電通は、この時間の差を飲食や懇談、自己啓発といった私的な理由で社内に留まっていたと自己申告させていた。検察官はこの「在館私事理由」の信用性を否定している。
幸美さんは、「社長にいくら謝罪されても、娘はもう戻らない。電通の職場環境改善するためには、計画をどう実行していくかが問題だ」と語った。
川人弁護士も、「電通は過去にも過労死を繰り返してきた。今度こそ、違法な長時間労働を一掃し、従業員が健康に働くことにできる労働環境の実現を求める」と訴えた。