ヨーロッパやアメリカ、中東、そしてアジアと、各地域で熾烈な戦いが展開されているワンメイクシリーズ、ランボルギーニ・スーパートロフェオ。専用車両のウラカンLP620-2を使って争われるシリーズだが、今季アジアシリーズで、無類の強さを発揮しているマシンがある。
日本のトップカテゴリーで活躍してきたドライバーたちも数多く参戦するこのランボルギーニ・スーパートロフェオ・アジアで、2017年シリーズの開幕戦セパンのレース1こそ3位だったものの、その後はすべてのレースで勝利を飾り、プロクラスのランキング首位を独走するのが、マレーシア出身のアフィーク・ヤジッドと日本のケイ・コッツォリーノがドライブするクラッツィオ・レーシングの11号車だ。
スーパートロフェオ・アジアに参戦する他の多くのチームもホワイトとオレンジに彩られたマシンをマークしているが、なかなかその独走を止めることができないでいるのが現状だが、このクラッツィオ・レーシングの強さはいったいどこにあるのか。第4ラウンドの富士でも圧倒的な強さで連勝を飾ったコッツォリーノに聞くと「オーナーの熱意がすごいです。僕たちはプレッシャーもありますが、いい刺激になっている」と語ってくれた。
コッツォリーノが語る「オーナーの熱意」とは──。チームオーナーを務める、株式会社イレブンインターナショナルの板倉剛代表取締役社長に話を聞いた。
■ランボルギーニ好きから始まったレース参戦
イレブンインターナショナルは、『Clazzio(クラッツィオ)』のブランドで非常に大きなシェアをもつシートカバーを手がけている。『もっと素敵にもっと楽しく、快適なシートでドライブを楽しみたい』というドライバーの要望に応えて作り出されたシートカバーは、カー用品店等で見かけたことがある方も多いはずだ。
板倉社長はクラッツィオブランドを大きく育てる一方で、「中学生の頃スーパーカーブームで、近くのジャスコにカウンタックが展示されていたんです。それを見て『いつかこれに乗るんだ』と決めた」と、夢であったランボルギーニを所有してみせる。「まわりの友だちは『無理だ』と言っていましたがね。仕事を頑張った結果です」と板倉社長。
そんな板倉社長のもとに、ランボルギーニ・ジャパンから「レースをやりませんか」という話が来たのが、スーパートロフェオ参戦のきっかけ。レースといえば趣味の延長というケースもよく見られるが、板倉社長の場合、理由がしっかりしているのがビジネスマンらしい。
「日本国内の自動車市場は縮小しつつあって、どうするかと言えば海外に向けてマーケットを切り拓くしかない。このスーパートロフェオ・アジアは、アジア各国でレースがあって、最後はワールドファイナルとしてイタリアのイモラでレースがあるんですよね。アジアはマレーシア、タイ、中国、そして日本があるので、そこに目をつけました」
「マレーシアはクルマのチューニングが盛んですし、タイも日本やヨーロッパの自動車工場もあります。日本は私たちの国ですし、中国もこれからクルマの用品販売が盛んになっていく国です。そこで、クラッツィオというブランドをまず知ってもらうためにレースをやろうと。そして次に買ってもらって、その評価をしてもらおうということですね」
日本で非常に高い評価を受けるクラッツィオというブランドの訴求のためにレースを使おう──。ここまでは当然理に適っているのだが、ここから先が板倉社長の“らしさ”だ。
「レースはいちばんブランドの訴求にはいいだろうと思っているんです。でも、勝たないといけない。映像にも映らないですし、ドライバーも速い選手を組ませたいと思いましたし、チーム体制も勝てる条件を揃えろと。みんなで話し合いをして、『絶対にいちばんになる』と決めた。そこでレースをやることにしました」
■クラッツィオの“いちばん”へのこだわり
板倉社長は、もともと中古車販売を手がけていたという。その後自動車用品を扱いはじめるが、そのなかで特にヒットし始めたのがこのシートカバー。高いクオリティで月産100セットほどが売れていたが、その後海外に拠点を模索。当初は輸送のコストと採算が合わない懸念があったが、「選択と集中で、これ一本でいくと決めたんです。社員みんなで一生懸命売りましたね」と販売数を増やしていった。
とくにヒットとなったきっかけは、それまで「中古車につけたら売れると思っていたんです」という考えを、新車向けに切り替えたことだ。中古車で傷んだシートにカバーをつけてキレイに見せるよりも、新車を汚れないように、最初からカバーで覆いたい……という人が多かったのだろう。新車にターゲットを切り替え、雑誌に広告を出したところ、さらなるヒットを呼んだ。加えて、大手自動車用品店からのオファーが舞い込んだ。
こうしてクラッツィオのシートカバーの販路は一気に広がり、出荷量も拡大していった。しかし、それにともなって車種への対応の要望、そして不良品の数も増えたと板倉社長は明かす。
「お客様から見て魅力的な会社というのは、売れても売れなくても『自分の車種の型がちゃんとある』ということが大事だと思うんです。もちろん作ってもロスすることもありますが、売れ筋の他の車種の部分で取り返せると思うんです」と板倉社長。
「それに、100人のお客さんがいて、そのなかのひとりのお客さんがクレームを出したら、それは会社にとっては1%。でも、そのお客さんにとってはそれが100%なんです。だから、それは絶対に許されない。絶対にクレームはゼロじゃなければならないんです。だから工場にも、クレームが減るように根っこの部分から改善しろと伝えています」
そして板倉社長のポリシーは、優れたこだわりの商品作りに繋がっていく。現在大阪、淡路の工場をはじめアジアに4カ所の工場を構えているが、売れ筋のものは海外できっちりと作り上げ在庫を確保し、オーダーや納期が短いものなどは日本国内で生産するなど、クオリティと生産数を両立させる工夫も導入。また、「3Dスキャナーを使ってシートの形を取り込んで、2Dに展開してふたたび3Dで縫製できる技術は、他のメーカーさんよりも先行している。おそらく自動車メーカーさんよりも先行しているのではないでしょうか」という先端技術も導入された。
「いちばんのメーカーは、どこをとってもいちばんでなければならないと思います。車種もクオリティも、納期もいちばん。箱を開けたときのキレイさでもいちばん。すべてを追求しなければならないと思うんです。どこかで妥協すると、それがお客様に分かってしまう。そんなメーカーの商品に魅力は感じないと思うんですよね」
■シートカバーでも、レースでも“いちばん”を
シートカバーでも世界でいちばん。当然、レースでもいちばん──。板倉社長の考え方は明快だ。「やるならやる、やらないならやらない。中途半端はいちばんロスをすると思っていますから」
その“美学”は、レースでも見え隠れする。「レースではブレーキパッドもタイヤも、新しいものを使えと。でも、その代わりに勝たなきゃいかんと言っています。そして有頂天になったらダメだと。慢心にならずに、しっかり準備をしなきゃと伝えています。今回は勝ったけど、必ずしも次のレースに勝てる根拠にはなってない。1レースごとに新しいレースだし、まわりにもマークされていますから」
この取材をさせてもらったその日、コッツォリーノとヤジッドは、ライバルたちのプレッシャーをはねのけ見事レース1を制覇。そしてその翌日も、富士スピードウェイをトップで駆け抜け、板倉社長の期待に応えた。レースで勝ち、そして日本発の、世界ナンバーワンのシートカバーを作る──。板倉社長とクラッツィオの夢は、今季11月16~19日にイタリアのイモラで開催される、ランボルギーニ・スーパートロフェオのワールドファイナルに繋がっている。
クラッツィオ ホームページ
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