日本ではいま、単身世帯が増え続けている。自ら選んでシングルを貫く人も多い一方で、心の隅によぎるのは「孤独死」という言葉だ。だが、それを気にするのは何も本人だけではない。
9月19日放送の「ガイアの夜明け」(テレビ東京)が、高齢の単身者が賃貸物件を借りにくいという現状を伝えたところ、ネット上では「他人事ではない」とつぶやく人が相次ぐなど話題になっていた。(文:okei)
大家は高齢単身者の「事故物件」になるのを怖れているが…
17年間、東京都内で一人暮らしを続けてきたUさん(67歳・男性)は、建て替えを理由に今年の10月末での立ち退きを迫られていた。しかし、大家の約60%が「高齢者の入居に拒否感がある」という現在、新しい住まいはなかなか見つからない。
多くの賃貸オーナーは、後始末が大変で事故物件になるリスクが高い高齢単身者の「孤独死」を怖れているのだ。
そこで頼ったのが、65歳以上だけに物件を紹介する「R65不動産」だ。社長の山本遼さん(27歳)は、かつて不動産会社の営業だった。高齢者が部屋を借りられず困窮するのを目の当たりにしショックを受けた経験から、この会社を立ち上げた。
山本さんがすごいのは、借りづらいなか粘り強く交渉を続けるだけでなく、オーナーの不安を解消しようと様々な取り組みを行なっているところだ。7月に開催された賃貸展示会で、多くのオーナーたちをこう口説いていた。
「健康状態や身内の有無、緊急時の対応をしっかり把握しておけば問題ないんですよ」
「高齢者は一度入ると長く入居してくれる。今後空き家は増えていきますが、高齢者を入れることで、空き室に対してリスクヘッジができる」
人口が減少に向かう中、ずっと「高齢者は拒否」では済まないだろう。そこに備える意味でも心を動かされたオーナーは多いようだった。
「最終的には『R65不動産』が無くなる世の中が幸せ」
他にも、照明メーカーのNECライティングに依頼し「見守り機能のある照明」を開発中だ。センサーで住人の異常をインターネット回線で大家に伝えるしくみで、来年春の発売を目指して実証実験も始まっている。
プライバシーの問題はあるかもしれないが、何かあった時早めに発見できれば、死後腐敗してから発見されるという最悪の自体は免れる。
山本さんは、単身の高齢者が借りにくい状況が徐々に無くなり、
「最終的には『R65不動産』という言葉が無くなる世の中が、僕らにとっても幸せだと思っています」
と語っていた。自分の会社の仕事が「本当はない方がいい」とは、なかなか言えない言葉だ。冒頭のUさんは、山本さんの尽力で希望通りの新居に移ることが出来ていた。
「歳とってから路頭に迷う可能性は誰にでもあるよ」
良いことばかりに見えるが、山本さんの会社には毎月約40件の相談が寄せられ、そのうち決まるのは5件ほどだともいう。身内がおらず緊急対応が難しい場合や、認知症や火事、金銭面の不安は残るので、ますます"ふるい"にかけられるということでもあるだろう。
同じように、番組を見て身につまされる人は多かったようだ。ツイッターには「他人事じゃない」と書き込む人や、R65を称賛する声が相次いだ。
「高齢者には部屋を貸せない。年齢差別。人ごとではないな。歳とってから路頭に迷う可能性は誰にでもあるよ」
筆者は独身ではないが、いずれ単身になる可能性は誰にでもある。すでに一人暮らしの老母を思うとセンサー付き照明にも興味深々だ。厳しい現実はあるかもしれないが、今後ますます単身者が増える中、賃貸に限らず、こうした弱者のニーズを捉えるヒトやモノが増えて欲しいと思う。