2017年09月21日 11:13 弁護士ドットコム
アジア太平洋地域の法律家などでつくる団体「ローエイシア」の東京大会が9月18日から21日まで開催され、様々なセッションが行われた。20日にあった「デジタル時代におけるクリエイターへの対価還元と著作権の集中管理」というテーマでは、韓国やシンガポールなど5人のスピーカーが講演し、日本からは著作権に詳しい福井健策弁護士が登壇し、デジタルアーカイブを推進するうえでの課題について語った。
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日々大量のコンテンツが生み出される中、本であれば絶版したりインターネットではサイトが消えたりと閲覧できなくなってしまうものがある。そこで、世界的に注目されているのがデジタルアーカイブだ。日本では、国立国会図書館で収集・保存しているデジタル資料を検索・閲覧できる「国立国会図書館デジタルコレクション」や、過去の絶版になった漫画が見られる「マンガ図書館Z」などがある。また、文化庁もマンガ、アニメーション、アートなどのメディア芸術作品を保存し、公開・販売する「メディア芸術アーカイブ推進事業」を行っている。
一方でデジタル化を進めていくには、様々な壁もある。人材不足、資金、そして著作権に関する問題だ。福井弁護士によると、NHKでは過去に製作した85万以上のテレビやラジオ番組をアーカイブしており、11年の歳月をかけて権利処理を進めた結果、現在9000を超える番組が公表された。しかし、これでも全体の1.1%にしか過ぎないという。
なぜデジタル化が進まないのか。その大きな理由として、福井弁護士は「権利処理コスト」を指摘した。このコストは、権利者に対する金銭的な支払いだけを指すわけではない。権利者を探して交渉する際に、懸命に探しても見つからないという意味での負担も含まれている。
どうすればこの権利処理コストを下げられるのだろうか。福井弁護士は権利を効率的に集中管理することを提案する。その例として、国内外の約374万曲が公開されているJASRACの作品検索データベース「J-WID」を挙げ、「簡単に大量の作品を1つのゲートで管理できるようにならないといけない」と訴えた。
また著作物を円滑に利用できるようにするため、「柔軟な権利制限」(フェアユース)規定を設けるべきだともいう。「今年日本ではJASRACに関する論争があったが、権利の集中管理を高めて、より力を与えるとなると戸惑う人が多い。透明で説明可能な仕組みを作り、社会の理解を高めていかないといけない」と話した。
(弁護士ドットコムニュース)