2017年09月21日 10:03 弁護士ドットコム
「研修中の勤務に問題があり、研修後も正社員として雇うのは難しいのでアルバイトになってもらう」。弁護士ドットコムの法律相談コーナーに、会社からこのような処遇を受けたという相談が寄せられました。
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相談者が会社側に理由を聞いても、詳しくは教えてもらえず、アルバイトとして働くくらいなら、退職しようと考えています。しかし、契約時に「就労1年未満で退職する場合は違約金を支払わなければならない」という誓約書を書いているため、違約金を払わなければならないのかと、心配しています。
正社員として採用されて働いているのに、会社側が勝手に雇用形態を変えることに、法的に問題はないのでしょうか。村松由紀子弁護士に聞きました。
「今回の相談では、『研修期間』とのことですが、研修期間自体に法的な意味があるわけではありません。入社してから、契約期間がある『試用期間』ではなく、その後の『無期雇用契約』に移行していることを前提にお話しします。
まず、正社員からアルバイトへの降格ですが、法的に認められないでしょう。会社が降格を行う場合、大きく分けて、人事権によるものと、懲戒権によるものとがあります。
人事権は、労働契約上、会社に当然認められるものです。ただし、人事権の行使による降格も無制約に認められるわけではなく、その降格が『労働契約で合意された職種の範囲を超える』場合や『権利の濫用』とされる場合には、無効となります(労働契約法3条5項)。
正社員は一般的に無期の正規労働者であるのに対し、アルバイトは有期の非正規労働者です。したがって、正社員として採用したにもかかわらず、アルバイトへ降格させることは『労働契約で合意された職種の範囲を超える』ものといえ、このような人事権の行使は無効です。
懲戒権の行使は、一種の制裁罰であり、有効とされるには厳格な要件が求められますので、理由すら教えてもらえない相談者のケースはあてはまらないですし、いずれにしても懲戒権の行使としても範囲を超えているでしょう。
以上から、相談者においては、会社に対して降格の撤回、正社員としての雇用継続を申し入れることができます」
退職時の違約金を明記した誓約書については、どう考えればいいのか。
「仮に相談者が退職を希望される場合ですが、労働基準法第16条は、労働契約の不履行について違約金を定めることは、退職の自由を奪うものとして禁止しています。
誓約書は上記条文に反し無効となりますので、退職にあたって、違約金を支払う必要はありません」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
村松 由紀子(むらまつ・ゆきこ)弁護士
弁護士弁護士法人クローバーの代表弁護士。同法人には、弁護士4名が在籍するほか、社会保険労務士3名、行政書士1名が所属。交通事故をはじめとする事故、相続等の個人の問題から企業法務まで幅広く扱う。
事務所名:弁護士法人クローバー
事務所URL:http://www.yun-ken.net/