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Dream Theater『Images And Words』は奇跡の1枚だった 現在と原点を見せた日本武道館公演

2017年09月20日 17:03  リアルサウンド

リアルサウンド

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 Dream Theaterのジャパンツアー『IMAGES, WORDS & BEYOND 25th Anniversary Tour』が9月9日から14日にかけて開催。9月11日には日本武道館でライブを行った。このツアーは1992年に発表された彼らの2ndアルバムにして出世作の『Images And Words』が今年でリリース25周年を迎えたことを記念して行われたもので、ライブは同アルバムの完全再現を含む2部構成、計3時間にも及ぶもの。また、彼らが武道館のステージに立つのは2008年1月の『Chaos in Motion World Tour 2008』以来約10年ぶりとあって、会場には大勢のファンが駆けつけた。


 定刻通りに会場が暗転すると、場内にはクラシカルなSEが流れ始める。暗闇の中、ステージに一人、また一人とメンバーが登場すると、客席からは大歓声が沸き起こり、バンドはそのままオープニングナンバー「The Dark Eternal Night」をプレイし始める。ジョン・ペトルーシ(Gt)の低音が効いたヘヴィなギターリフを筆頭に、ジョン・マイアング(Ba)&マイク・マンジーニ(Dr)による鉄壁なリズム隊、ジョーダン・ルーデス(Key)のテクニカルなプレイが融合することで、このバンドでしか成し得ない強烈なアンサンブルが展開されていく。そして、曲の途中からジェイムズ・ラブリエ(Vo)が加わり、その伸びやかな歌声を会場に響き渡らせる。変拍子や複雑なプレイを要所要所に含む、10分近くにもおよぶこの曲は通常のヘヴィメタルのライブだったらオープニングにふさわしくない1曲かもしれないが、この日はDream Theaterのライブ……こんなにも今の彼らの個性や魅力を端的に表した、ライブの1曲目にぴったりなナンバーはほかにないのでは? と納得させられてしまう。


 曲中盤にインストパートではラブリエがギターアンプ裏にさがり、各プレイヤーがこれでもかと各々のソロプレイを披露。マンジーニがメタリックな高速ビートを叩き出したかと思うと、ペトルーシの速弾きソロやルーデスによるホンキートンク調ピアノソロなど、非常に緩急に富んだアレンジも登場する。一瞬たりとも見逃せない、聴き逃せない彼らのパフォーマンスに、ただただため息ばかりが溢れてしまう。


 そういえば、この日のステージセットも非常に印象的なものだった。通常ならこの手の規模のライブだとメンバーの表情や各プレイヤーの姿、あるいは曲に沿った映像演出を映し出すスクリーンが用意されることが多いが、今回のステージにはそういった演出は皆無。メタルバンド特有の、ステージ後方によく貼られたバックドロップ(バンドのロゴ、あるいは最新作のアルバムジャケット)もなく、非常にシンプルなものだった。あったのは曲中カラフルな照明を用いた演出のみで、ここに彼らの「目で、耳で自分たちの歌や演奏を感じてほしい」という信念が感じ取れた。そしてその思いに応えるかのように、観客も拳を上げて盛り上がりつつも、プレイヤーたちの演奏をじっくり観察しているようだった。


 1曲目から激しいインタープレイの応酬に、大いに湧くオーディエンス。ラブリエは『Images & Words』発売25周年、そして長きにわたりサポートしてくれた日本のファンに対する感謝の言葉を述べ、次の曲へと続ける。バンドはドラマチックな「The Bigger Picture」、ペトルーシのメロウなソロを大胆にフィーチャーしたインストゥルメンタル・ナンバー「Hell’s Kitchen」、ポップな曲調の「The Gift Of Music」と個性的な楽曲を連発。「As I Am」に突入する前には、名ベースプレイヤーのジャコ・パストリアスの「Portrait Of Tracy」をフィーチャーしたマイアングのベースソロもあり、改めて彼の非凡さを強く印象づけた。また「As I Am」のエンディングでは、ヘヴィなミドルナンバーの定番と言えるMetallica「Enter Sandman」もワンコーラス飛び出し、メタルファンたちの熱気が急上昇。こういった“お遊び”が随所に散りばめられているのも、Dream Theaterのライブの魅力と言えるのではないだろうか。そして「Breaking All Illusions」にて第1部を締めくくると、バンドは一度ステージをあとにした。


比較的最近の楽曲を中心とした第1部を終え、バンドは20分の休憩を挟んでから第2部『Images And Words』完全再現ライブへと突入。オープニングにはリリース当時を振り返るようなラジオの音声が流れ、Nirvana「Come As You Are」やPearl Jam「Even Flow」、Metallica「Nothing Else Matters」、Red Hot Chili Peppers「Under The Bridge」、U2「One」など当時ヒットしていたロックバンドの楽曲が流れる。80年代後半からメインストリームにいたヘヴィメタルがシーンの隅に追いやられ、代わりにグランジやオルタナロックが頂点に君臨した、メタル不遇の時代のスタートともいえる1992年に『Images And Words』という異色作(と、あえて言わせてもらう。これについては後述したい)が発表されて高く評価された事実、そしてあれから25年経った現在も多くのメタルファンに愛され続けているという現実。今回のライブではその理由を改めて確認することができる、非常に貴重な機会なのではないかと筆者は密かに期待していた。


 そんな期待を煽るようなラジオ音声が、『Images And Words』のオープニングナンバー「Pull Me Under」をアナウンスすると、ペトルーシによる不穏なアルペジオが聴こえ始める。彼らのライブでは常に演奏され続けている「Pull Me Under」だが、やはり今回のライブでは観る側にとって特別な感情があるようだ。イントロの時点で第1部以上の完成が沸き起こり、ラブリエの歌が加わるとその盛り上がりはさらに加速する。サビではこの日一番の大合唱も発生し、いかにこの瞬間が待ち望まれていたか、そしていかにこの曲や『Images And Words』という作品が愛され続けてきたかが、いつも以上に強く感じられた。


 ライブはアルバムと同じ構成で進行。「Pull Me Under」に続くのは、フュージョンチックな雰囲気を持つバラード「Another Day」だ。オーディエンスはこの曲でも合唱をやめることなく、この日ハイトーンが若干苦しそうだったラブリエの歌をサポートする。曲の終盤では原曲にはないキーボードソロパートも追加され、このライブが単なる“25年前のアルバムの再現”ではなく、“2017年のDream Theaterが25年前のアルバムを再現”しているのだと実感させられた。考えてみれば『Images And Words』制作時のメンバーはすでに5人中3人(ラブリエ、ペトルーシ、マイアング)のみで、そこにルーデスとマンジーニという新たな個性が加わることで『Images And Words』の楽曲たちが新たな形で生まれ変わるのは当然の結果なのだ。そこを踏まえた上でこの完全再現ライブに臨めば、懐古主義とは異なる現在進行形のDream Theaterの姿を確認することができたはずだ。


 アルバムどおりに進行することもあり、どの曲にも確かに懐かしさは感じた。だが、ちょっとしたプレイや歌い回し、新たに付け加えられたフレーズや音色の変化などもあって、同時に新鮮さも感じられた。そんななか、この第2部で特に圧巻だったのが「Metropolis Part I: The Miracle And The Sleeper」「Under A Glass Moon」の大作パートだろう。前者では曲中盤にマンジーニのドラムソロがフィーチャーされ、往年のプログレッシヴロックや王道ヘヴィメタルのライブを思い浮かべた方も多かったのではないだろうか。しかも、そのドラムソロに続く各プレイヤーのインタープレイの応酬には、“ノる”よりもただ“見つめる”しか成す術がないほど。それに続く「Under A Glass Moon」も圧巻の一言で、この2曲でDream Theaterというバンドが何たるかを改めて実感できたことだろう。


 ラブリエとルーデスの2人のみで演奏されたバラード「Wait For Sleep」に続いて、大作「Learning To Live」で第2部もクライマックスへ。こうして約70分におよぶ贅沢な時間は幕を下ろした。


 ライブ開始からすでに2時間半を超えていたものの、オーディエンスはアンコールを求める声援をハンドクラップを続ける。するとステージに戻ったDream Theaterのメンバーは、最後の最後に20分超の組曲「A Change Of Seasons」をプレゼント。この曲のリリース自体は1995年だが、思えば『Images And Words』制作時には存在した楽曲で、同作への収録も検討されたという。そういう意味では、この日のラストにふさわしい1曲ではないだろうか(そもそも、この組曲を“1曲”と呼んでしまっていいものか疑問ではあるが)。長尺のこの曲では音を詰め込むというよりも、音の“隙間”が要所要所に用意されており、それが20分以上にわたるこの曲をよりダイナミックなものへと進化させている。また、『Images And Words』の楽曲群が当時のサウンドプロダクションのせいもあって非常に原色っぽいのに対し、「A Change Of Seasons」はどこかパステル調の印象が強い。こうした違いを楽しめたのも、この日の大きな収穫だった。


 3時間にもおよぶこの日のライブを終え改めて感じたことは、“メタル冬の時代”到来時にリリースされた『Images And Words』というアルバムの凄味と、このアルバムを分岐点にDream Theaterというバンドの個性が新たに確立されていったという事実だろう。先に『Images And Words』と「A Change Of Seasons」の違いについても触れたが、Dream Theaterは『Images And Words』を完成させたのちに、そのサウンドをよりダークでヘヴィな方向へとシフトさせている。これは時代性が大きく関係していると思われるが、そういった意味でも『Images And Words』は“メタル冬の時代”前夜に制作されたからこその奇跡の1枚だったのではないか……それが先に述べた“異色作”という表現につながるのだ。


 現在のスタイルを凝縮した第1部、そしてバンドの原点を現在のスタイルで表現した第2部とアンコールで構成された久しぶりの武道館公演。Dream Theaterというバンドは個性的で他のどのバンドにも似ていない唯一無二の存在なんだとつくづく感じた、そんな一夜だった。(文=西廣智一)