今回の4社によって行われた新しい契約。ホンダはF1からの撤退を防ぎ、マクラーレンは現在よりも競争力のあるルノーPUを手にし、ルノーはカルロス・サインツjr.を獲得した。では、トロロッソにとってのメリットとはなんだったのだろうか?
これまでは、今回の契約はトロロッソの背後でレッドブルが動いており、レッドブルが総合的に判断したと思われていた。もちろん、それは間違いではない。正式な発表こそしていないが、レッドブルは2018年限りで切れるルノーとの契約を更新する意思はなく、ホンダにシフトしようと考えていることは、公然の秘密である。
だが、トロロッソもレッドブルとは関係なく、ホンダにかなり前からラブコールを送っていたことがシンガポールGPで明らかになった。
今回の契約に関して、ホンダ側が直接トロロッソ側とコンタクトをとったのはイタリアGP後。だが、ホンダがトロロッソと接触したのは、それが初めてではなかった。トロロッソ代表のフランツ・トストによれば、実はトストはすでに2013年にホンダと話し合いを行なっていた。
「私が最初にホンダを訪れたのは、4年前の10月です。日本GPの前に栃木の(HRD Sakura)研究所を訪れました。非常に素晴らしい施設で、彼らはそこで新しいパワーユニットに関する研究を行っていたようでした」とトスト。
ホンダがマクラーレンと組んでF1に復帰することを発表したのは、この年の5月。つまり、その5カ月後にトストはホンダの研究所に行ったことになる。その目的をホンダのある関係者は次のように説明する。
「F1を復帰するにあたって、FIAから『他チームから要請があった場合、複数にチームへ供給できる体制を整えておくように』という指示があった。そこでわれわれは他チームにホンダPUを搭載する可能性がないかどうか打診したところ、トロロッソが興味を示してくれたんです」
だがこの件は、その後ロン・デニスによって破談となった。つまり、トロロッソは4年前からホンダに興味を持っていたことになる。
トロロッソがホンダに興味を示したのは、それだけではない。2015年の日本GPではトストが今度はトロロッソのホスピタリティハウスでホンダ関係者と話し合っていたこともあった。この年、トロロッソはルノーPUの信頼性の低さに頭を悩ませ、ルノーとの契約を解消。翌年は型落ちのフェラーリPUを搭載することになった。
さらに昨年、2016年のロシアGPでもトストはホンダと密会していた。今回のトロロッソ・ホンダの誕生を一部では『トロロッソがハズレくじを引かされた』というような形でとらえられているようだが、実はホンダとの提携はトロロッソにとって4年越しの成就だったのだ。
トストはこう言って笑みをこぼす。
「ホンダは今シーズン、急速にPUを向上させてきています。最近はわれわれと常に接近した戦いを演じています。したがって、彼らが今後3年間、われわれに対して、強力なPUを供給してくることは間違いないと確信しています」