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【F1シンガポールGP無線レビュー】速さと戦略、全てがかみ合ったメルセデスのチーム力

2017年09月20日 11:41  AUTOSPORT web

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F1第14戦シンガポールGP 予選グリッドから考えれば最高の結果を手にしたルイス・ハミルトンバルテリ・ボッタス
ルイス・ハミルトンは予選まで絶不調というほどの苦戦を強いられながらも、スタート直後の混乱でトップに立ってからは独走でシンガポールGPを制した。しかしその背景にはメルセデスAMGの盤石の戦略とチーム力があった。 

 スタート直後の多重事故でセーフティカーが導入されると、首位のハミルトンにレースエンジニアのピーター・ボニントンが冷静に語りかけた。

メルセデス(以下、MGP)「ルイス、このレースはクルマを1ピースで持ち帰ることが最も重要だ」

ハミルトン(以下、HAM)「あぁ、まさにそれを思い知らされたところだよ」
 5周目にレースが再開されてからは2位ダニエル・リカルド以下の後続を引き離していったハミルトンだが、ダニール・クビアトのクラッシュでセーフティカーが導入されると他車が続々ピットインして新品のインターミディエイトに履き替えたのに対して、メルセデスAMGはステイアウト。タイヤ交換ができなかったハミルトンは不安を募らせたが、チーム側は温度管理も含めて自信を持っていた。

HAM「全員タイヤを交換したって、どういうこと?」

MGP「我々はトラックポジションを優先したんだ」

HAM「それが良い選択だったのか僕には分からないな」

MGP「大丈夫、RBR(レッドブル)は我々とは逆の戦略をやろうとしているだけだよ。RIC(ダニエル・リカルド)は今P2だ」
 グレイニングを懸念するハミルトンに対して、メルセデスAMGは安心させるようにパワーユニットのモード変更でペースを上げさせた。

HAM「新品タイヤの連中の方がこのタイヤより速く走り始めるはずだ」

MGP「さっきのラップは0.9秒速かった。ギャップは1.2秒だ。ストラット5、回生パワーがアップするよ」
 結果、タイヤに問題はなくハミルトンは再び後続を引き離していく。20周目ハミルトンは路面の乾きが遅いことをボニントンに報告する。

HAM「タイヤはまだOKだ。路面は乾くのがすごく遅い」

MGP「さっきのラップは0.55秒速かった」


HAM「路面はスリックタイヤに交換できるようになるまであと10周くらいかかると思う」

MGP「良い情報だ。マシンバランスはどう?」

HAM「少しアンダーだ」
 24周目にケビン・マグヌッセンが先陣を切ってドライタイヤに交換するが、路面の乾きが遅いためインターミディエイトの摩耗はそれほど進まず、27周目を迎えてもまだハミルトンのインターミディエイトタイヤは“健康な”状態を保っていた。

HAM「路面はまだベタベタしている。このタイヤでもまだ充分いける」
 しかし28周目に2位リカルドがピットインしたため、これに合わせて29周目にチームがハミルトンをピットに呼び寄せる。

HAM「どのタイヤに換えるの?」

MGP「ウルトラソフトだ。RICと同じだよ」
 ここでさらにERSのデプロイメントを増やすストラットモードに変え、プッシュ。3番手バルテリ・ボッタスの追い上げに対して2番手リカルドもペースを上げてきたため、ハミルトンにもペースアップの指示が出される。

 そんな矢先の38周目にマーカス・エリクソンがクラッシュして再びセーフティカー導入。またしてもギャップが帳消しにされることに苛立ちを見せるハミルトンだが、ボニントンはこれを上手くなだめる。

HAM「どうしてまたSCを出すんだ!? 間違いなくVSCで充分だろ? あんなにギャップがあったのに、信じられないよ……」

MGP「SCが入るまでのペースはすごく良かった。タイヤにもダメージはないよ」

HAM「一体何をやってるんだ? SCが遅すぎるよ。温度をキープするのが難しい」

MGP「フロントのキャリパーだけが問題だ。それ以外はコントロールできている」
 42周目にレースが再開されると、メルセデスAMGは再びセーフティカーが導入されたときのことを考慮して後続を引き離しすぎないようハミルトンに指示をする。リカルドがついてきて後方に大きなギャップを築けば、セーフティカーが入った時にポジションを落とすことなく新品タイヤに交換できてしまうからだ。


MGP「RICとのギャップは4秒。集団が密集した状態にしておきたい。SCが入った時に誰もフリーストップできないようにしておきたいからだ」

HAM「僕にどうして欲しい? もっと縮める?」

MGP「4秒あれば我々的には完璧だ」

HAM「どういうこと?」

MGP「RICの後ろにたくさんクルマがいる状態にしておきたいんだ」

HAM「意味がよく分からないよ。どんなペースで走れば良いか言ってくれ」

MGP「OK、今余裕を持って走れているならペースを上げてくれ」
 49周目にはハミルトンが左フロントタイヤにゴミを拾ってしまい不安を口にする場面もあったが、ボニントンはデータをチェックして「バイブレーションの問題はないしタイヤにも問題はないよ」とハミルトンを落ち着かせる。後続のペースも随時伝えながらハミルトンのペースをコントロールし、後続を寄せつけずそのままトップでチェッカードフラッグを受けた。

MGP「やったな、ルイス! 素晴らしいドライビングだった」

HAM「なんて言えば良いんだろう。なんて展開だ。戦略も素晴らしかった。本当に素晴らしい1日だったよ」
 スタート直後の混乱に助けられて手に入れたトップの座だったが、それをしっかりと守り抜き勝利を掴み獲ったのはハミルトンの速さとメルセデスAMGの盤石のチーム力あってのことだった。