2017年09月20日 11:02 弁護士ドットコム
東京学芸大は9月12日、教員が学生と研究室卒業生に対してアカデミックハラスメントを行っていたため、懲戒処分として諭旨解雇したと発表した。東京学芸大や報道によると、教員は教育学部の50代男性教授で、2014年3月から10月にかけて、指導していた研究室に所属する学生の就職内々定を取り消そうと、内々定先の企業に連絡を取ろうとしたという。
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他にも、学生が登録するメーリングリストで「留年してください」と送ったこともあり、東京学芸大は「複数の学生がこれらの一連の行為を起因とする精神疾患を発症し、卒業後の就労にも多大な支障が生じた」としている。
教授はすでに辞職しているというが、今回のアカハラが「尊厳や人格権を侵害」したと東京学芸大では判断している。このような悪質なアカハラについて、刑事責任、民事責任は問えるのだろうか。神尾尊礼弁護士に聞いた。
「民事刑事双方からの責任追及が考えられます。最初に民事上の責任ですが、不法行為責任を問える可能性があります。学生に生じた損害の賠償を請求することになります。ここでいう『損害』とは、主に治療費や慰謝料ということになります。
内々定が法的保護に値するのかという議論もあるところですが、昨今の就職環境を考えれば、少なくとも内々定に対する学生の『期待』『安心感』は、法的に保護すべきものでしょう。したがって、内々定が取り消されそうになったという精神的苦痛も法的に保護されるべきであり、その苦痛を補てんするのが慰謝料ということになります」
大勢の学生が読めるメーリングリストで、「留年してください」と書かれたメールも流されたと報じられている。
「その場合、通常は精神的苦痛が生じたとみるべきことが多いでしょう。治療費については線引きが難しいところですが、心身ともに健康だった学生が精神疾患を発症したのであれば、その治療費は因果関係ありとみて請求の対象になりそうです。
なお、本件は国立大学法人なので、不適切とはいえ教育活動上の行為といえれば大学が代わりに責任を負担することになります。動機やメーリスの性質などを吟味する必要がありますが、仮に国家賠償法が適用されるとなれば、教授の支払能力に問題があっても被害救済されることになります」
刑事的責任はどうなるのか。
「メーリスでの書き込みの内容などによっても変わってきますが、名誉棄損罪などが考えられるところです。なお、当然のことですが、刑事上の責任は、大学が負うことはなく、教授のみが負うことになります」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
神尾 尊礼(かみお・たかひろ)弁護士
東京大学法学部・法科大学院卒。2007年弁護士登録。埼玉弁護士会。刑事事件から家事事件、一般民事事件や企業法務まで幅広く担当し、「何かあったら何でもとりあえず相談できる」事務所を目指している。
事務所名:彩の街法律事務所
事務所URL:http://www.sainomachi-lo.com