2017年09月20日 10:53 弁護士ドットコム
2016年、年間出生数は100万人の大台を割り、婚姻件数は戦後最少になったーー。そんな中、石川県かほく市の市役所で8月下旬、子育て中の市民で構成された「かほく市ママ課」と財務省主計官(元石川県総務部長)の意見交換会が開かれた。
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その模様を報じた北國新聞によれば、意見交換会では、メンバーから「独身者に負担をお願いできないか」として、独身税の創設を求める声があがったという。このことが報じられると、ネット上では「独身ハラスメントだ」などと、大反響をよんだ。
これを受け、かほく市は市のサイトで「かほく市および市行政全体として、国に対して独身税を提案するものではありませんし、今後も提案する予定は全くありません。税以外におきましても、市として独身の方々に対して特別なご負担を提案する考えはございません」と、方針を示した。
しかし、独身税とは荒唐無稽な話にも思えるが、かつてブルガリアでは1968年から1989年まで、導入されていたという。日本の税制でも、このような制度を導入することは、制度上、可能なのだろうか。またもしできないとすれば、どのような理由か。蝦名和広税理士に聞いた。
「独身税は度々ネットなどでも議論され、ブルガリアやかつてのロシアでも実際に制度として存在していました。我が国における導入の可否を検討するにあたり、最も重要なのが、何を目的として独身税を導入するかだと思います。
子育て世代の負担軽減を目的としているならば、子育て世代に比して独身者には経済的余裕すなわち担税力があることが大前提になってくるでしょう。確かに独身貴族という言葉があるように、可処分所得が多く経済的余裕のある独身者がいるのは事実です。
ただ、仮に一律に独身者(既婚者以外)に課税を行った場合、離婚や死別をしてしまった人にも課税されることになるでしょうが、これらの人たちが子育て世代に比べて必ずしも経済的余裕があるとは言えないのではないでしょうか。
また近年、低賃金や奨学金返済などの経済的理由で結婚できない若者が社会問題となっていることからもわかるように、経済的余裕は配偶者の有無では判断することはできず、個々人の所得次第ということになります。子育て世代の負担軽減という目的を実現するのであれば、独身税ではなく所得税の枠組みの中で、扶養控除の増額などで調整を図るべきだと考えます。
またすでに、日本は扶養控除や各種子育て関連項目への税金投入により、既婚者や子育て世代は税制上、優遇されているとも言えます。これに加えて、独身税という言わばペナルティーをさらに加える必要はあるのでしょうか。子育て世代の負担軽減をすることが目的であるならば、わざわざ新しい税制を導入しなくとも、単純に扶養控除や子育て支援への税金投入などで十分、対応は可能です」
なお法律上、独身税の導入は可能なのだろうか。
「他方、独身税が少子化対策を目的としたものであれば、現行法制度の下での導入は不可能ではないと考えます。確かに憲法によって法の下の平等が保証されており、独身者という婚歴のみをメルクマールとして課税を行うことは平等に反するという意見もあります。
しかしながら、少子化対策は持続可能な社会ひいては民族・国家存続の根幹に関わる極めて重要な問題であり、そのために独身税を導入して結婚さらには出産を促すことには、独身者と既婚者とで差別的取り扱いを行うだけの合理的根拠があると考えます。
ただし、結婚等を促すという目的達成の手段としてもなお、その加重の程度が極端である場合には憲法に抵触する恐れがあるため、課税額については経済情勢や雇用実態を鑑み慎重に検討することが求められると思います」
【取材協力税理士】
蝦名 和広(えびな・かずひろ)税理士
特定社会保険労務士・海事代理士・行政書士。北海学園大学経済学部卒業。札幌市西区で開業、税務、労務、新設法人支援まで、幅広くクライアントをサポート。趣味はクレー射撃、一児のパパ。
事務所名 : 税理士・社会保険労務士・海事代理士・行政書士 蝦名事務所
事務所URL:http://office-ebina.com
(弁護士ドットコムニュース)