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福士蒼汰、さわやかイケメンから“非情な男”へ 『愛したって、秘密はある。』で見せた怪演を考察

2017年09月20日 06:33  リアルサウンド

リアルサウンド

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 衝撃の結末で幕を閉じた『愛したって、秘密はある。』(日本テレビ系)。主演を務めた福士蒼汰のイメージといえば、はにかむような笑顔が印象的なさわやかイケメン。その彼が最終回で見せた変貌ぶりに驚いた人も多いのではないだろうか。


(参考:『愛してたって、秘密はある。』は作り手の意図を超えた? 秋元康が仕掛けた“企画”を読む


 2011年に『仮面ライダーフォーゼ』(テレビ朝日系)でTVドラマ初主演を果たした福士だが、一般的な知名度を高めたのはNHKの朝ドラ『あまちゃん』(2013)だろう。ヒロイン・天野アキ(能年玲奈・現在はのん)の初恋相手であり、憧れの先輩・種市浩一を演じ、そのカッコかわいい魅力で、アキだけでなく、視聴者の心もわしづかみにした。実際、この年の上半期ブレイクランキング1位、翌年の2014年ブレイク俳優第一位に輝いている(オリコン調べ)。


 ここから彼の快進撃が始まり、『好きっていいなよ。』『神さまの言うとおり』(共に2014)といった映画に主演し、綾瀬はるかと共演したTVドラマ『きょうは会社休みます。』(日本テレビ系)では理想の年下彼氏を演じ、またしても女性のハートをメロメロに。クールなエリート図書館隊員を演じた『図書館戦争』シリーズは別として、これまでの福士は“イケメン俳優”の枠から出ることなく、自分に与えられた役回りをそつなくこなしてきた。でも、それは決して悪い意味ではない。俳優というものは自分に求められたものを提供するのが仕事だからだ。


 しかし、今回の『愛したって、秘密はある。』で、福士は完全にその枠を飛び越えたように思う。父親を殺してしまった罪の意識を抱えて生きる黎と、突如出現した朔という別人格。心優しくまじめな青年の黎を演じているときの福士は、黎の揺れ動く感情を繊細に表現しており、それこそ“福士蒼汰”のイメージを壊すことは無かった。それが最終話にして登場した朔になった途端、自己中心的で傲慢な朔を、目を見開いた狂気的な演技で体現して見せた。それはまさに怪演と呼ぶにふさわしい演技で、「こんなふりきった芝居ができるのか」と驚かされた人も多いのではないだろうか。しかし、今思い返してみると、その片鱗はすでに『無限の住人』で見せていたのかもしれない。彼が演じたのは、江戸中の道場荒らしをする剣客集団の統主。野心にあふれ、血も涙もない非情な男という、自身にとって初の悪役となるチャレンジングな役柄に全力でぶつかっていた。そのときに見せた冷酷さは、温度差こそあるものの、『愛してたって、秘密はある。』の朔につながっているように思えた。


 かつてのインタビューで「役に引っ張られることはないけど、(演じている間は)ずっと役が心の中にいて、いつその役をやれと言われても、すぐにできるような感覚ではいたい」と語っていた福士。黎、そして朔を演じていたときは、どういう心持ちだったのだろうか。それは福士本人にしかわからないことではあるが、『愛してたって、秘密はある。』によって俳優として大きくステップアップしたのは間違いないだろう。


 今後も映画『曇天に笑う』(2018年3月21日公開)、『BLEACH』(2018年公開)、『旅猫リポート』(2018年公開)、『ラプラスの魔女』(2018年公開)、そして初舞台となる『劇団☆新感線「髑髏城の七人」Season月/上弦の月』(11月23日~2018年2月21日)など出演作が目白押し。俳優として次のステージに立った福士の活躍から目が離せなさそうだ。


(馬場英美)