世界三大レースのひとつである『ル・マン24時間』をシリーズの1戦に組み込むWEC世界耐久選手権。静岡県・富士スピードウェイでは今年もシリーズ第7戦富士6時間レースが10月13~15日に開催されるが、そもそもWECとはどのようなシリーズなのか、WEC富士の前におさらいしておこう。今回は知っているとWEC観戦をより一層楽しめるルールの一部を紹介する。
WECの規則のなかでも、とりわけ独特なのが決勝レース前日に行われる公式予選のフォーマットだ。多くのモータースポーツの場合、予選順位はアタッカー1名ないしチーム内の最速タイム記録者のラップタイムによって決定する。
しかしWECではル・マンを除き、LMP1とLMP2、LM-GTEプロ/アマに分かれて行われる20分間のセッションのなかで、1台のクルマにつき、ふたりのドライバーがタイムアタックを実施。それぞれが記録したベストタイムの平均を予選タイムとして採用している。
このうち、ラインアップに1名以上のジェントルマンドライバーを起用することが義務付けられるLMP2クラスとLM-GTEアマクラスは、2名の予選アタッカーのうち1名はアマチュアドライバーでなければならない。
WECがこのような予選フォーマットを採るのは、耐久レースがチーム単位の戦いであることを強調すると同時に、セッション中、マシンが走行する時間を増やす狙いもある。
事実、各ラウンドの予選では大半のマシンが7周以上走行しており、アタックを複数回行うチームでは10周以上することも。サーキットを訪れたファンは予選日から多くの走行を目にすることができる。
ミシュランとダンロップが各クラスに供給するドライ用スリックタイヤは1レースごとに使用本数、セット数が制限される。各クラスの内訳はLMP1が練習走行用12本、予選・決勝用16本に追加供給のシングルタイヤ2本が加わった計30本(7セット+2本)。
LMP2はLMP1と本数は同じだがセット数で管理され、その数は練習走行用3セット、予選・決勝用4セット、追加分2本だ。LM-GTEプロ/アマは練習走行用4セット、予選・決勝用6セット、追加分2本と、ふたつのプロトタイプクラスに比べてゆとりのある供給数となっている。なお、ウエットタイヤは全クラスで本数制限はない。
クラスごとに速さの異なるマシンが混走するWECは、燃料タンク容量の違いから各クラスのピットタイミングもずれていく。それぞれのルーティンピットタイミングはLMP1が約55分間隔、LMP2が約45分間隔、LM-GTEプロ/アマは約60~75分間隔だ。
4クラスのうち、もっともルーティンの間隔が短いLMP2は通常、6時間のレース中に6~8回のピット作業を行う。LMP1も6~7回ピットインするが、いずれのクラスでも毎回タイヤを替えているわけではないのは前述のタイヤの本数制限からも想像できるだろう。
一方、LM-GTEプロ/アマは1スティントで1時間以上走れるため、通常は5回のピットストップでチェッカーまでマシンを運ぶことができる。タイヤも予選と決勝で合わせて6セット使えることから毎回替えることも可能だ。
しかし、実際に各チームが毎回タイヤ交換しているわけではなく、1レース中1~2回は給油のみのピットインが存在する。GTEの各チームがこのような戦略を採るのは、WECのピット作業に関するレギュレーションが大きく関わっている。
WECは給油とタイヤ交換を同時に行なってはならないというルールや、作業を行うスタッフの人数、工具の数などを制限しており、その結果、タイヤ交換の有無によってピット作業時間は約15~20秒の差が生じる。
人数の制限では、燃料補給をするクルーが最大2名、消火クルー1名、ドライバー補助要員が1名、タイヤ交換スタッフ4名など。そのほか燃料補給時にウインドウやミラーの清掃、エアインテーク内ゴミの除去、タイヤ・ブレーキの目視確認などができる人数も定められている。
また、タイヤを交換する際に使用する工具については、クルマ1台あたり2つのインパクトレンチが使用できるが、これらを同時に使うことはできない。
ピットアウトについても競技者の安全を第一とする独自の規定があり、ドライバーは作業スタッフと機材がすべて作業エリア外に出てから発車する、発車時のホイールスピンは禁止、ピットレーンでのバックギヤの使用禁止などルールを厳守しなくてはならない。違反した場合は失格となる場合もある。
こうした細かなルールに対応しながら最短時間でマシンをコースに送り出すため、各チームはビデオなどによるチェックを行い、効率の良い作業手順の研究、練習を重ねている。WEC富士ではそんな各チームのピット作業にも注目してみるのも面白いだろう。