2時間超えのレースとなったF1第14戦シンガポールGPは5番グリッドのルイス・ハミルトンが優勝。ニッポンのF1のご意見番、今宮純氏がシンガポールGPを振り返り、その深層に迫る──。
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2時間超レース最初の10秒は決定的な危ういシーン、チャンピオン4人とも全滅するところだった。キミ・ライコネンがセバスチャン・ベッテルに当たり、前にいたフェルナンド・アロンソは跳ね飛ばされ、ルイス・ハミルトンは目前でスピンするベッテルをかろうじて避けられた。
第10回シンガポールGP初めてのウエットレース、危険がいっぱいのコンディション、ポイントリーダーは誰よりも確実で冷静でそして速かった。
チャンピオンシップを争うベッテルはそうではないマックス・フェルスタッペンに対し、サイド・バイ・サイドから牽制するように左斜向ラインに動いた。
本来の敵はハミルトンなのに過剰な“防衛反応”、1コーナーを獲ることだけ考えたのだろう。昨年マレーシアGP以来のリタイア、この“ゼロ・レース”によって残り6戦を“マイナス28点”の逆境から戦う事態に追い込まれた。
一方ライコネンは4位グリッドから今までにもしばしばそうしたように(裏をかくように)、インサイド・ラインをまっすぐ加速、素晴らしいダッシュを決めていた。
そのまま直進すると1コーナーはきつい。やや右寄りラインに動くとフェルスタッペンもとっさに感知、しかし2台フェラーリに両側から挟み込まれてしまう。
「おーっと、リスキーな“フェラーリ・サンドイッチ状態”だァ」と昔の古館さんなら絶叫するシーン、今の西岡アナは冷静であった。
余談はさておき、水煙が立ち込め視界が限られる可能性がフォーメーションラップで十分に予測できた。
ここでは初めてのウエット・スタート、加速力の差がドライより極端に大きくなることも予測できる(実際そうなった)。現実にはあり得ない手段だが、スタンド上部1コーナーに近いポジションに“スポッター役”を配置し、ベッテルにひとこと「インに2台いるぞ」とチームが指示していたら……。
サイドミラーの視野は限られ、ベッテルから見てライコネンが“死角”の位置となっていたのは分かる。それをINDYレーシングのような手段でカバーできるのではないか。
1コーナーまでの距離が短くないコース、ウエット・コンディションになった場合などには“スポッター”の存在は有効だろう。来年からはコクピットに頭部保護を目的にした『ハロ』が義務付けられる。
今と同じ視界・視野が確保できるかどうか、ナイトレース×ウエットとなったこのレースから、学ぶことがある気がする。
完走12台サバイバルレースは2年前、15年アメリカGPまでさかのぼる。こういうときこそ中団チームは大量得点チャンス。
トロロッソのカルロス・サインツJr.4位、フォース・インディアのセルジオ・ペレス5位、ルノーのジョリオン・パーマー6位、マクラーレンのストフェル・バンドーン7位、ウイリアムズのランス・ストロール8位、ハースのロマン・グロージャン9位入賞。ザウバーはパスカル・ウェーレインが2周遅れ12位で入賞ならなかったが、10チームのうち8チームがポイントゲット(15年アメリカGPもそう)。
ルノーがハースを抜き返しランク7位奪還、この週末に多くの話題を提供した彼らが6位トロロッソに10点差に迫った。
最後に加えるとシンガポールGPでも雨はあった。決勝レースではない10年金曜FP1と土曜FP3だ。関係者は忘れたかもしれないが雨がやんでもここの路面は濡れたままいっこうに乾いていかない。
ドライへの“チェンジオーバー・タイム予測”は大外れに(レッドブルのマーク・ウェバーがBSミディアム・タイヤでFP1最速1分54秒台)。
メーカーは違っても路面状態に変わりはなく、ここはライン・ドライに見えても粘るのが得策、データよりもドライバー判断となる。
一人勝ち残ったハミルトンはインターミディエイトで前半29周(最多ラップをカバー)、ベスト1分58秒469。ウルトラソフトで後半29周(2等分戦略)、ベスト1分45秒008。
10年に一度の濡れ乾きマリーナ・ベイ・ストリートを2時間03分23秒544で走破、陸上マラソン・ランナーのようなタイムで――。