2017年09月19日 10:23 弁護士ドットコム
スマホカメラの性能向上や、SNSブームもあいまって、写真撮影は日常のものとなった。しかし、中にはそのことに苦痛を感じている人もいるようだ。
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東京在住の会社員・美香子さん(仮名・30代)は、「子どもの頃から写真撮影が苦手でした。最近はちょっとした飲み会でも、断りもなくカメラを向けてくる人がいるのが苦痛です。しかもSNSにも無断でアップされるので」と打ち明ける。親しい人たちの前では、カメラを向けられたら身をよじる、机の下にもぐるなど強い抵抗を示すことで、「美香子は写さない」というルールが知れ渡るようになってきたという。
美香子さんに限らず、ツイッターでも「友達同士や仕事で当たり前のように半強制で写真を撮られたり、もっと言うと知らないうちに写真を撮られていたりするの、ハラスメントとして認定されて欲しいなと常々思っている」(青野くん @aonooo)と書く人もいる。
勝手に写真を写すことは「フォトハラスメント」だとして、友人関係や職場で、友人や他人の子、上司、部下を断りもなくカメラで撮影する行為に法的な問題があるのか。また撮影した写真を勝手にSNSにアップすることには問題はないのか。知的財産に詳しい堀田裕二弁護士に聞いた。
「この問題はまず、肖像権と呼ばれる権利が問題となります。肖像権という権利は、憲法上明確に規定されている権利ではないのですが、人格権の1つとして認められています。
最高裁判所も、肖像権と呼ぶかどうかは別としながら、『個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を有する』(最判昭和44年12月24日京都府学連事件)として、実質的に肖像権を認めています。
そのため、無断で他人をカメラで撮影する行為は、この肖像権の侵害となる可能性があります」
相手の承諾がなければ例外なく、肖像権の侵害となってしまうのだろうか。
「どのような場合でも肖像権侵害となるのであれば、誰もカメラを撮ることができなくなってしまいます。
そこで、どのような場合に肖像権侵害となるのかが問題となるのですが、これにも最高裁判所の判例があります。
『ある者の容ぼう等をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは、被撮影者の社会的地位、撮影された被撮影者の活動内容、撮影の場所、撮影の目的、撮影の態様、撮影の必要性等を総合考慮して、被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべき』(最判平成17年11月10日和歌山カレー事件)
つまり、撮影される場所や撮影の目的など、撮影されても仕方がない場面かどうかで、肖像権侵害にあたるかどうか判断されることになります」
冒頭で紹介した美香子さんのような場合はどうだろうか。
「集合写真の場合はもちろん、カメラで撮影することが分かっているような場合、仕事のために必要な場合などは、無断であっても肖像権侵害とはなりにくいでしょう。逆に、隠し撮りや、普通はそこにいることを知られたくないような場所では、無断で撮影すると肖像権侵害となる可能性があるのです。
美香子さんが写真を撮られたくない人であることが周知されているのにあえて撮影したという場合には、肖像権侵害となる可能性があります。友人関係や仕事関係であっても、公の場所であるか、その場所にいることが秘密となりうるかなど写真を撮る場面によって肖像権侵害となるかどうかが決まってくるでしょう」
撮影した写真をSNSにアップする人も多い。勝手に自分も写った写真をアップされてしまった場合、その行為も違法性を帯びるのだろうか。
「写真を撮ることが違法と評価される場合は、その写真を公表すること(SNSにアップすること)も違法と評価されることになります(前述の和歌山カレー事件判決)。
また、写真を撮ること自体は違法といえなくても、それをアップする(公表する)行為自体が違法となる可能性もあります。具体的には、写真を撮られることは仕方がないとしても、その場にいることなどを他人に知られることが、私生活をみだりに公開されないといういわゆるプライバシー権の侵害となる可能性があるためです。
プライバシー権の侵害となるかどうかについては『宴のあと』事件という有名な裁判例があり、そこでは、次のように判断しています。
『公開された内容が(イ)私生活上の事実または私生活上の事実らしく受け取られるおそれのあることがらであること、(ロ)一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立った場合公開を欲しないであろうと認められることがらであること、換言すれば一般人の感覚を基準として公開されることによって心理的な負担、不安を覚えるであろうと認められることがらであること、(ハ)一般の人々に未だ知られていないことがらであることを必要とし、このような公開によって当該私人が実際に不快、不安の念を覚えたことを必要とする』
つまり、知られていない事柄か、どの程度知られたくない事柄か、などをもとに判断するということです」
SNSでは、友達や承認したフォロワーに限定しての公開という設定もできる。
「SNSは友達限定の投稿という設定もできることから『公表』したといえるのかどうかが問題となりえます。しかし、そこから拡散される可能性は十分ある以上、たとえ公開範囲を限定していても、プライバシー侵害などとして違法となりますので注意が必要です。
いずれにしても、法的に問題がないかどうかとは別に、写真を撮る場合や、撮った写真をSNSにアップする場合には、声かけをしたり、承諾を得るようにするなど写真撮影の『マナー』を守ってトラブルがないようにしたいものです」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
堀田 裕二(ほった・ゆうじ)弁護士
大阪弁護士会電子商取引問題研究会事務局長、IT・コンピュータに関する問題やスポーツに関する問題、ファッションビジネスに関する法律問題に特化して、主に企業向けに専門的なサービスを提供している。
事務所名:アスカ法律事務所
事務所URL:http://www.aska-law.com